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実在の殺人鬼、そして「文化的標的」としてのマキシーン
前2作と同様、当時の映画を中心とした文化も反映されている。今回は「VHS全盛期の時代」であることが、ビデオ店のシーンからはっきりとわかる。全体的にも1984年の『エルム街の悪夢』に近い雰囲気が漂っている。劇中で言及される連続殺人鬼「ナイト・ストーカー」は実在の人物であり、タイ・ウェスト監督はこう語る。
レーガン政権全盛期、モラルマジョリティーの台頭、そして南カリフォルニアでは“ナイト・ストーカー”(無差別に民家を襲撃し、暴行、レイプ、強盗などを働いた殺人鬼)が脱獄していた。マキシーンはブレイクする前からポルノ映画に出演していたので“文化的時代の変化”(カルチュラルモーメント)の中で標的となっていた。ポルノ映画やホラー映画、そしてヘビメタ音楽などが、アメリカの若者に悪影響を及ぼすとして標的にされた時代だったんだ
プレス資料より引用
つまり、マキシーンはその時代の「文化的標的」の象徴でもあり、次々と立ちはだかる障壁を跳ね除け、邪魔する奴らをぶっ潰し駆け上る様は、その現実に対してのカウンターだ。これは、ハリウッド女優シャロン・テートがチャールズ・マンソン率いるカルト集団に殺害された事件を背景にした2019年の映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』とも精神を同じくする。

何より、『X エックス』『Pearl パール』で描かれた、ミア・ゴスが演じてきたキャラクターの最後の活躍が、今までの物語そのもののカウンターになっていることが気持ち良い。パールは少女の頃に閉塞的な環境で精神のバランスを崩し殺人鬼になったが、マキシーンはその彼女の意志を(意図せずに)受け継いだかのようにスターを目指し、殺人鬼にもひるまず、安易に私立探偵の口車に乗らず、邁進していく。その姿と、物語の顛末は、3部作の完結編としてとても納得できるものだった。