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「『ドラクエV』はビアンカ一択!」で生まれた、制作のグルーヴ
ーそういう背景もありつつ、“LV99 勇者”に関しては『ドラクエ』からインスピレーションを受けて作られていると。
Shiny:今思い出したんですけど、日本でのレコーディングの前日、the telephonesのみんなと食事をしたときに、誰からともなく「『ドラクエV』の花嫁を選ぶなら誰」という、ゲームをやったことがあれば一度は経験する話題になって。僕はビアンカ一択なので、「ビアンカ」と答えたらみんなも「ビアンカ!」と叫んでて(笑)。台湾ではあんな風に「ビアンカ!」で盛り上がったことはないから、本当に感動したし、今でもあの夜のことを覚えてますね。音楽的にも同じスピリットを共有する人たちと一緒に「ビアンカ!」と叫べるなんて、本当に貴重な経験でした。
ー『ドラクエⅤ』でビアンカとフローラのどっちを選ぶかはゲーム好きの中で必ず盛り上がる話題ですが、国を越えて盛り上がるテーマになっているとは(笑)。石毛さんは最初のデモを聴いてどんな印象を受けて、どんな要素を足したら面白いと思いましたか?
石毛:すごくPAPUN BANDっぽい曲だったんですけど、もっと彼ららしさを押し出した曲にしたいと思いました。ポップパンクの要素を足してみたり、『ドラクエ』っぽい階段を下りる「ジャッジャッジャ」みたいな音をシンセで作ってみたり。僕が勝手にShinyの頭の中を想像して、もっとこうしたら喜ぶんじゃないか、みたいな感じで作りました。
Shiny:輝さんのアレンジは本当に素晴らしかったです。僕がこの曲でやりたいことを全て見抜いて。どうしてこんなにも僕のことをわかっているのかと驚くくらいでした。例えば、イントロを自分で作ったときに、うまく表現できなかったゲーム音楽っぽい感じも、輝さんが手直しして送ってくれたら、まさに僕が頭の中で思い描いていた通りのサウンドになってたんです。お互いにつたない英語でやり取りしていたにも関わらずデモが送られてくれるたびに、「なんて素晴らしいんだ!」とびっくりしたし、僕のアイデアを送ると、輝さんは必ず褒めてくれて。素直な気持ちを伝えながら、全てがスムーズに進んだ奇跡みたいな制作でした。輝さんは神様です!

ー“LV99 勇者”の歌詞は日本語・中国語・英語の3カ国語が混ざっていてすごくユニークですが、どのように作っていったのでしょうか?
Shiny:最初にコラボが決まって歌詞を書こうとしたとき、頭の中に突然<もしもし だれ>というフレーズが浮かんできたんです。僕が知っている日本語はとても簡単なもので、「もしもし」とか「すみません」とか、台湾人なら誰でもわかるような言葉だけなんですけど、あと『進撃の巨人』もすごく好きなので、<進め>という言葉もどうしても入れたくて。
石毛:そこからだったんだ!
ー「もしもし」は世界の共通言語なんですね。
石毛:イギリスにもMoshi Moshi Recordsという名前のレーベルありますしね(笑)。
Shiny:<Don’t wanna say goodbye>は自然に出てきたフレーズで、一つの曲に3ヶ国語もあると複雑かもなと心配でしたが、直感を信じてそのまま進めました。
ー“Zan“讚””はどのようなアイデアから作っていったのでしょうか?
石毛:「讚」は、僕らが10年ぐらい前に台湾でツアーやフェスに出させてもらったときに覚えて帰ってきた向こうの言葉のうちの一つで、「いいね」とか「最高」、「素晴らしい」という意味で。当時ノブがことあるごとに「讚! 讚! 讚!」って言っていて(笑)。僕らが作る曲のタイトルはもう「讚」しかないなと思ったので、サビのシンガロングパートから作りました。
ー“Zan“讚””は『ツインビー』がモチーフになってるんですよね。
石毛:最初に曲の本筋を作って、このメロディーと相性がいいゲームを探したんです。曲自体がすごく80sな、レトロな雰囲気があるので、ファミコンのゲームがいいなと思っていたときに、『ツインビー』のテーマをアレンジしてみたら上手くハマったんです。ベルの色が変わる音をシンセで作るのとか楽しかったですね。
ーShinyさんは“Zan“讚””を聴いてどんな印象でしたか?
Shiny:本当に本当に本当に本当に大好きです! 特にサビのギターが最高で、まるで「一目惚れ」というか「一耳惚れ」みたいな感じでした。この曲は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいな感覚になるんです。輝さんが何を歌っているのかはわからなかったのですが、歌詞を入れてほしいと頼まれたので、<Back to the future / Everybody coming>というフレーズを加えてみました。
石毛:テーマがシンセウェイヴとかレトロウェイヴ系の、The Weeknd以降のものを作ろうと思ってたので、そこから『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を連想してくれたのはすごく嬉しかったし、歌詞ももちろんなんですけど、メロディーもShinyが作ってくれて、めっちゃいいなと思って。
Shiny:“Zan“讚””の制作過程はすごく印象に残っています。台湾でミックスをしていたときに、輝さんが修正したい箇所を伝えてくれたのですが、言葉が専門的で、翻訳が難しかったんです。でも、おざなりにはしたくなかったので、日本語のまま伝えてもらいました。輝さんが真剣に話す日本語に向き合っていると、言語がわからないなりに伝えたいことを感じ取ることができたんです。エンジニアの人にも伝えて修正したら、輝さんが大きく頷いてくれて。言語を超えて意思疎通ができたことが、本当に不思議で感動しました。言葉ではなく、感覚や感情でつながるソウルメイトになれた気がしたんです。
ー“Zan“讚””は7ORDERの諸星翔希さんによるサックスもすごく印象的でした。
石毛:今までこういう曲を作った時はサックス吹きが知り合いにいなかったのでギターで弾いてたんですが、7ORDERのモロと出会って、友達にサックス吹きができたんですよ。
ー2022年に対バンをして、そこから親交を深めたそうですね。
石毛:そう。今後お願いできるなと思っていたら、まさに“Zan“讚””がそのタイミングで。PAPUN BANDが最初に来日したときに、打ち上げにモロを呼んだら、みんなとも仲良くなってて。そこでお願いしたら、みんなの雰囲気もわかってるし、想像以上のサックスを吹いてくれた。最高でしたね。
Shiny:モロさんには本当に感謝しています。初めて演奏を聴いたとき、感動して泣きそうになりました。輝さんがモロさんのことをちゃんと紹介してくれたのもとても嬉しくて。僕が曲を聴いて『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を連想したのは、モロさんのサックスに「記憶」や「回想」を感じさせるような力があるからだと思います。