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Gesaffelsteinとの共同作業の充実した成果
前置きが長くなってしまった。アルバムの内容について具体的に聴いていこう。
冒頭を飾る“Disease”から“Abracadabra”は、初期への回帰を高らかに告げるようなダークなダンスポップ。特に“Abracadabra”は“Just Dance”や“Poker Face”といったヒット曲を思い起こさせる。ピアノやレゾナンスの効いたベース、中毒性のあるフックなど、ダークな要素とメロディアスな要素が絡み合う、ガガらしい、しかし自己模倣を感じさせない堂々とした楽曲だ。
一方、怒れる「エレクトログランジ」として続くのが、“Garden of Eden”や“Perfect Celebrity”だ。ロック色が強い楽曲だが、生々しいシンセの音色にGesaffelsteinの貢献が感じられる。とりわけ、“Perfect Celebrity”のダイナミックさは特筆すべきだろう。もっとも、ガガ自身はグランジと言っているものの、むしろインダストリアルなNine Inch Nailsを彷彿とさせるし、ゼイン・ロウに語ったところでは、そもそもこの曲で直接にリファレンスとしたのはThe Cureの“Never Enough”だという(グランジとは?)。“Garden of Eden”も、グランジというよりは、ゼロ年代のグウェン・ステファニーにインダストリアルを接ぎ木したような質感だ。

本作のベストを挙げるとすれば、個人的に推したいのはGesaffelsteinをフィーチャーした“Killah”だ。リズムボックスが鳴り響くプリンス風のファンクチューンなのだが、ちょっと浮いたようなシンセリフが楽曲を通じて反復し続ける。これもNine Inch Nails的と言えそうだが、アナログシンセにシンプルなシーケンサーでつくったようなプリミティヴなリフは、まるでDAFあたりのEBM(エレクトロニックボディミュージック。EDMではない)のようだ。アウトロで倍速のエイトビートになるところなんかはほとんど“Der Mussolini”や“Alle gegen Alle”といったDAFのクラシックそのもの。
プリンス meets DAF。とんでもない組み合わせだが、Gesaffelsteinがいなかったら、もっとストレートなファンクになっていたかもしれない。ゼイン・ロウとのインタビューでも語られているように、もともと『ARTPOP』の制作時に一緒に仕事をしたかったプロデューサーのひとりだったそうだが、“Garden of Eden”、“Perfect Celebrity”、“Killah”などを聴くにつけ、10年越しに実現した共同作業は非常に充実した成果を生み出している。