INDEX
従来の枠組みを壊すのではなく、柔らかく更新する絶妙な役割の担い手
—さきほど岸野さんから、「内側=コミュニティを作らないようにする」というお話がありましたが、そのとき、地域における人と人の関わりについてはどのようなイメージを持たれているのでしょうか?
岸野:よく人から「NPOを作らないんですか?」とも聞かれるんですが、さきほど話した理由でいまのところそれは避けています。私自身もリーダーや発起人というかたちを避け、単なる町のお祭り男というスタンスを貫いています。
「コミュニティを作らない」という話に戻ると、じつは団体やグループのかたちにして運営すると、進みやすいという面もあるんです。ただしそのやり方は持って4〜5年なんですね。たいてい規約を厳密化して抑圧的になっていったり、ややこしい問題が起きたり。外側から「ああ、あの人たちね」と認知されるほど、形骸化してしまいます。ですので、プロジェクトごとに参集離脱が可能な相互扶助の連絡網、というかたちを採っています。プロジェクトごとに目的を達成したら、その都度、解散する。
もちろん外部からの人たちにも開かれていますが、結果的に、地縁に近い人たちが継続することが多い。それは結果に過ぎないんですね。地域によっては、町内会などのフレームがあらかじめあったりする。そことの関係を築きながら、コミュニティではない参集離脱が可能なシステム、オルタナティブなフレームを用意していく、ということですね。

—少し飛躍するようですが、それで言うと、2022年の『ドクメンタ15』(※)で、ディレクターを務めたインドネシアの「ルアンルパ」が地域の文化的な営みを俎上に載せていましたね。
ルアンルパはジャカルタを拠点にするコレクティブで、彼らが『ドクメンタ15』で提示したコンセプトが「ルンブン」、インドネシア語で「米蔵」を意味する言葉です。これは地域共同体でシェアする米蔵で、そこに貯められたお米はみんなの共有資源になる。ルアンルパはこのローカルな仕組みをドクメンタに実装し、「NO ART MAKE FRIENDS(アートではなく友だちを作ろう)」をスローガンに型破りな企画をして話題になりました。
地域のなかにすでにある仕組みへの着目や、強固ではなく緩やかに何かをシェアする人と人の関係など、岸野さんの実践はこれとつながる部分がありますね。
※ドイツのカッセルで5年に一度開催されている、世界でもっとも影響力のある国際美術展のひとつ。毎回1人ないし1組のディレクターが全体のテーマや作家の選出を行う
岸野:僕の実践はアートではなくて、あくまで日常の延長線上にあるものですが、自分でもそれに対して近いことをしているという感覚はあります。
地域に昔からある風習や風土には、悪い面も良い面もあります。悪い面としては、新しい民主主義のかたちを阻害したり、個人に対する抑圧になることがある。一方、地縁のなかでお互いに信頼関係を築き、共同で社会を運営する感覚は良い面です。それを時代に合わせたかたちでアップデートして、いまの社会の合うものにしていけないだろうか、と。
僕がずっとやっている、地域のお祭りを現代的にアップデートする活動もそうしたもののひとつです。これをやると、なんで昔からのお祭りもあるのにべつのお祭りをやるんだという意見が出ることもある。でも、そこであえて昔からのお祭りを担ってきた人たちにも協力を仰いで、参加してもらう。新しいものを立ち上げるのではなく、すでにあるものと協同できるやり方を考えるんですね。
岸野:そして、さらにそれを町内会というフレームではなく、区の事業としてやったのが『すみゆめ踊行列』です。ここでも、もちろん町内会の方々に協力を仰ぎました。町内会の活動というのは、とくに新住民などはなかなか参加するのに躊躇われますが、この枠組みであれば、外部からも人を呼んできて一緒に活動ができる。そのことで地域が非常に民主的な場になると思うんです。
出口:そうした岸野さんの活動を通して、さっきの観光協会の話のように、従来の固定的な枠組みを超えて、何かと何か、誰かと誰かが出会ったりする。そこが面白いですよね。僕が指定管理者としてやりたいのも似たようなことで。町内会や行政の管轄など、旧来の仕組みでは賄い切れない、時間がかかることが、民間の指定管理者ならスピーディーに担える部分もある。それは結局、市民にとって一番リターンがあることだと思うんですね。

—指定管理者制度というと、そのネガティブな面が注目される機会も多いですが、じつはそうした利点も持ちうるのだと。
出口:そうですね。
岸野:結局、指定管理者も人による、ということですよね。僕は出口さんとは社会的な立場は違うけれど、向いている向きは同じだなと感じます。