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「縦割り」を越境する試み。問題意識を共有できる人をどうマッチングさせる?
—ところで、出口さんはこれまで触れたチトセピアホールと長崎市北公民館のほかに、2023年度からは「長崎市市民活動センター ランタナ」の指定管理者もされています。このように複数の施設を横断して運営することにはどんな可能性があるのでしょうか?
出口:そもそもこの3つの施設は、行政的には異なる管轄なんですね。公民館は市の教育委員会の生涯学習企画課、ホールは文化振興課、市民活動センターは市民生活部の市民協働推進室というところが管轄になっている。生涯学習、文化振興、市民活動と分野がバラバラです。ただ、これは管理側、行政側の論理であって、実際に利用する市民としては、同じ公共施設ということで区分けは関係ないはずです。
例えば、市民活動センターで活動する市民団体の活動内容が文化関連だったり、生涯学習としての習い事サークルだったりもするし、実際これまでも公民館としてそうした市民団体とお付き合いをしたこともあります。また、市民活動というと、直接的な社会貢献活動のようなものを思い浮かべがちですが、文化的な団体だって、将来的には地域の文化環境を良くするという意味では社会貢献ですよね。

出口:そのように、もともとこの3施設で行われていた活動は重なりあっていたし、重なっているのなら、ある施設で蓄積されたノウハウが別の場所でも生かされた方がいい。自分たちならそのネットワークを担えるのではないかというのが、3施設を運営するにあたって考えたことです。よく、物事をいろんな角度から見ることを「複眼的」と言いますが、逆に「単眼的」に、同じ視野のなかでいろんな団体を見ることの強みもあると思うんですね。
—面白いですね。出口さんには事前に、一般財団法人地域創造が実施した、地域と文化芸術の媒介者に関する調査報告書(「変化する地域と越境する文化の役割」2022年)を共有していただきました。そこでも、従来は「文化芸術」と「教育」や「福祉」などの分野が独立して存在していて、その「つなぎ役」がいたのに対し、現在ではそうした諸領域がもはや地続きに存在していて、越境的な活動が行われていることが触れられていました。
出口:そうなんです。複数の領域の「不可分性」と「越境」は、近年の社会的課題へのアプローチを考える際のキーワードです。例えば「教育」を考えても、教育委員会だけで済む話ではなく、子育て支援や障害者福祉にも関わる話でしょう。ならば、領域や団体を超えて協働した方がいい。それはみんなわかっていて、あちこちで叫ばれている。だけどそれを行政に持ち掛けても、縦割りもあって難しい、というのが現状だと思います。
ただそれって、そこまで大きな話にしなくても、街のなかで同じ問題意識を持った話が合う人がいればいいんだと思うんですよね。実際、アートをやっているけど、アートだけではなくて子育て支援のこともやりたいというような若い世代って増えている気がする。岸野さんの公演でのDJも、お手伝いしてくれる若者が現れたわけじゃないですか。
岸野:そうですね。ただ、DJだけをやりたいっていう子もいますね。設営とか撤収も手伝うとなると、大体3分の1に減っちゃうし、事前の準備を含む運営となるとさらに減ってくる。ただ、それでも、普段から手伝ってくれる人が1年間で2〜3人見つかれば、全然やっていけるんですよね。自分の人生の経験上、やる人はやるし、やらない人はやらない、なんだかんだ理由をつけて。やらない人に無理やり、やれとは言わないですよ。
結局、こういう地域活動ってボランティアになりがちなんです。それは結局、続かない。最初は投げ銭をしたんだけど、これも続かない。そこで継続させるにはどうすれば良いか考えて、行政ではなく観光協会や区の商店街連合といった団体にアプローチしたんです。すると、そういうところの人たちは公園にキッチンカーを出すことはできるけど、公園に人を呼ぶコンテンツがないと。コンテンツを用意してくれたら予算を出すということで、それをDJの子たちに配分してやりくりしたんです。

出口:活動をするとき、コンテンツはあるけど予算や場所がない人と、予算や場所はあるけどコンテンツがない人がいるという話ですよね。そういうお互いの不足を埋め合うようなことが公民館でも自然にできたらいいなと思っていて。蕎麦屋さんやお花屋さんと、公民館の事業をつなぎ合わせるような、ローカルなつなぎ手になることを心掛けています。
岸野:そのマッチングのシステムがいまのところはないから、実践でやっていく、やってみるということでしかないんですよね。最初の話ではないけど、初めの2年ほどはゲリラ的にやっていたんです。それこそ無償で。でも、これだと文化的に成熟しないと思い、公的に許可をもらってやるようになった。そしたらその活動を観光協会が見ていて、「あいつらが来ると公園に人が集まる」という実績になり、予算も組めるようになったということなんですね。
出口:マッチングのシステムがないというのは、本当にその通りですね。例えば、市民活動センターにはいろんな団体の活動紹介ファイルが並んでいるんです。「環境問題」の団体とか「街づくり」の団体とか、そのそれぞれにはタグが付けられるんだけど、これとこれを組み合わせたら面白いのにとか、問題が解決するのにというのは、そのファイルの背表紙を眺めている相談員や職員の頭のなかにしかないわけです。
だから、いくらタグ付けとか検索のシステムが発達しても、人と人を引き合わせるのは最終的にはマンパワーでしかないところがあって。面倒臭い人もいるけれど、実際に多くの人と顔を突き合わせて、カタログを頭の中に蓄積させて、ぶつけるしかないんですよね。
岸野:そうですね。だから、システムがないと言ったけど、じつは人がシステムになりうるわけですよね。お節介おじさんみたいな感じで、それがやりたいなら、持っている人がいるよと媒介する。それを実践しているところはあります。そのためには「現場を作る」というのが一番なんです。現場で実際に人と会うのが、どんなファイリングやリストよりも役に立つ。
