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危うげだが、素直な言葉が紡がれ始めた『袖の汀』

―次の『袖の汀』は過去2作と比べて音数が絞られているのも印象的ですが、彼岸の音楽というか、「君島さん、生きてる……?」って聴き返しながら思いました。
君島:生きてなさそう(笑)。
―ちょっと不安になりました(笑)。まず聞きたいのは“向こう髪”はガットギターの超絶技巧と歌が印象的ですが、冒頭やサビ前にドローンの音が入っています。
君島:ぐわーんってやつ。あれは声です。
―どういう意図だったんですか?
君島:“旅”にも共通する話ですけど、明確に対比ができる要素があるほうが綺麗だと思います。よく思い返す映像があって、浅めの川で、水面がキラキラしていて、川底を踏むと土煙がぶわーって立って、っていう。土煙と光みたいな対比がすごく好きで。ただ綺麗な音が鳴っているだけでもいいんだけど、周りが濁ってると、より透けて飛んで聞こえてくる気がするんです。『午後の反射光』からそういうアプローチをしています。
―このEPが彼岸の音楽なのではと思ったのは、“白い花”に<幽霊みたいになって>という歌詞があること、あとこの曲の導入の拍子とテンポが曖昧で、ここではないどこかから歌っている感覚があったのも理由で。
君島:ああ。本当にざわざわしてるだけというか。こういう帰り道ってありませんでしたか? 暗くて、家に向かって歩いているんだけど、「今どこ? 暗っ」みたいな(笑)。
―そういうことを音楽にしたいと思う理由は?
君島:そういった明言されていない自分の中の景色を作りたいと思うんです。あと、聴いた人が「こういう気持ちのときあるわ」って思えるものって、共感性があるもの、ないものありますけど、その虚を突きたいというか。自分の中にある映像のストックを音に置換していくことにはすごく興味があるし、ずっとやってきていることですけど、ただ単純にそれだけってことが僕の場合、すごく多いかもしれないです。
―あと“銃口”は冒頭、<あなたのことを誰にも言えずにいる>という告白の前に、<(ねえ、まだ黙って、待ってる?)>って歌詞があって、これも君島さんがここにいない感じがありました。
君島:“銃口”は多分、作ろうと思って作ってないんですよね。
―この曲の後半、音像が崩れていきます。
君島:これは本当にめちゃくちゃで。2mix(ステレオで書き出した音源データ)をモノラルにしてコンプに過入力したら、位相がぐちゃぐちゃになるんです。その処理はマスタリングの段階でやりました。
―それはどういう意図で?
君島:このEPを作り終えたときの気持ちはあまり覚えてないんだけど、彼岸って言葉はかなり近いかもしれないと今思いました。僕の音源って最後の曲が1曲目に帰ってくるんですけど、このEPはしてない気がするんだよな。出したときは「戻ってる」って言っているんですけど、行きっぱなしな感じがする。
―『袖の汀』で重要なのは1曲目の“光暈(halo)”だと思うんですが、彼岸に渡ろうとしている君島さんをこの曲が繋ぎとめている感覚があります。
君島:“光暈(halo)”ができて作ったEPではあるし、戻って来れる場所ではありますね。それに比べると“銃口”は破滅的に終わっていく。だから“光暈(halo)”は今聴いてもいいなって思うし、“銃口”は逆に考えすぎちゃっているのかな。崖から飛び降りるように直接的に言おうとするんだけど、ずっとたじろいで全部は言わずにいる。苦しい曲だなと思いますね。
それこそ自分が音楽をやる「動機」をメンバー以外の人にずっとシェアできずにいたんですけど、この時期、七尾旅人さんとか寺尾紗穂さん、butajiさんをはじめ、僕が好きだった音楽家に出会って話すことができたんですよね。だからこのEPでは選び取る言葉がより自分の気持ちに素直になり始めていると思います。
いつか会えたら
君島大空“光暈(halo)”より
忘れてしまっても
知っていたよと言って
白い波が全て攫っても
同じだけ打ち寄せる光量