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抗議を避けようと思ったら「触れないのが一番」になってしまう
―と言いつつ、先日放送された「インディアンス改名ドッキリ」に関しては、藤井さんのXで告知を見た瞬間に「これはヤバいのでは?」と思いました。
藤井:まあ、この回って放送を見てもらえれば分かるんですけど、ネイティブアメリカンの方々への差別的な表現というのは当然なくて、問題があるとすれば、その差別に対して「抗議を行っている人」の描き方ですよね。番組には「変なテレビプロデューサー」も出てくれば「変な学校の先生」も出てくるわけで、それと同じことだとは思いつつ、センシティブなネタではあるので、通常の「抗議を行っている人」とはちゃんと切り離して見てもらえるように、明確に「変な人」にしたつもりではあったんですけれどね。まぁ、何にしても、この回に対してSNS上で何か言っていた人は、基本、放送自体は見ていなくて、告知の文言を見て勘違いをした人がほとんどだったので、その辺はもうちょっと注意するべきだったなとは思いますけど。で、ちなみに放送を見た人から実際に局に対してきた抗議は「ネイティブアメリカンを差別するな」よりも「ベッキーを出すな」の方が多かったというオチです。まぁ、この手の問題は、そういう面倒を避けようと思ったら、ただ「触れなければいい」だけになってしまうので、それはそれでどうなんだという気持ちもありますよね。
―このインタビューシリーズ「My Favorite X」の第1回に登場した東出昌大くんも、以前「世の中、真っ白なことなんてほとんど無いのに、とにかく漂白しよう、潔癖にしようという流れには抗いたい」と言ってました。
藤井:そうですよね。もちろん自分たちも気をつけてはいて、この時も、事前に専門家の方や複数の弁護士さんに相談して「ここの言い回しはこうしよう、この表現は避けよう」などと話し合いや修正を重ねています。特に地上波は不特定多数の方が見るメディアですし、その分いろんな意見も寄せられるわけですが、とにかく抗議を避けようと思ったら「触れないのが一番」になってしまうので、タブー化していくわけです。それで、結果、一番損をしてしまうのは当事者の方々だったり……というのもよくある話なので。ところで番組を見てどう思いました?
―自分は番組の内容自体に問題があるとは思いませんでした。ただ、藤井さんも仰るように「抗議する団体」を面白く描くことに「大丈夫なのか?」と感じた部分はあります。一方で、何故自分がそう思うのか、むしろそういった抗議団体の方々をある種差別的に捉えてしまってるのではないか、と自問しました。
藤井:当然、出てくれた出演者が損をしたり悪く見えるようには番組を作らないじゃないですか。なので、その分番組を盛り上げるために僕ら番組サイドが悪者になるのは構わないし、もっと言えば自分たちをよく見せようとするヤツってちょっとキツいんで(笑)、それが当たり前だと思ってきたんですけど、最近はその境が本気で分からなくなっている人も増えてきたなという印象があって。悪役プロレスラーをプライベートでも悪人だと思っている的な、それは、ちょっと怖いとは思ってますけどね。
―お話を伺ってて、藤井さんは一体何をモチベーションに番組を作ってるのだろうか? と益々わからなくなってきました。
藤井:(笑)。ホントにそうですよ。自分が納得するものを作って、多くの人に面白いと思ってほしい……という気持ちはもちろんあるんですけれど、高視聴率が取りたくて作ってるわけではないし、賞が欲しくてやってるわけでもないし。
―出世するために番組を作ってるわけじゃないですしね。
藤井:評価はしてほしいですけどね。出世=「経営に携わること」ならそこに興味はないと言いますか。会社の経営陣を見て楽しそうだなともあまり思えないですし(笑)。
―藤井さんの特異性は、そんなチャレンジングな姿勢を続けられるところだとも思ってます。しかもそれを地上波のゴールデンタイムで続けているという。頻繁に非難にさらされるのは、メンタル的にもキツイと思いますが……。
藤井:繰り返しになりますが、何より「面倒だから触れないでおこう」というのは一番良くない気がするんですよね。ただ、かといって「社会に切り込んでやろう」ともまったく思っていなくて。面白そうなものがあれば、そこに貴賤はなく、取り上げているという感じですかね。
―最後の質問です。どうやったら藤井さんみたいに独創的な作品を組織の中で作り続けられるんでしょうか?
藤井:自分はとくに師匠のような存在もいなくて、ほぼ独学でこうなったんですけど、ただ、ディレクターになりたての頃はややアシスタント的なポジションで動いてた時期もあって、その時はやっぱり上の影響も受けるので、自分の得意な型を見失いそうになりました。なので、自分の下で働いてるスタッフたちも、あまり長くそこにいすぎない方が良い気はしていて。やっぱり誰かの影響を受け過ぎちゃうと、本来の自分の得意なところを見失ってしまう気がするんですよね。
―天才らしいお言葉です。
藤井:いやいや、自分で言うのも何ですが、むしろ努力型だと思いますけどね。だから、天才だと褒められるよりも頑張ってることをもっと褒めてほしいですよ。じゃないと、続けるのしんどくなってもう番組作り辞めちゃいますよ(笑)。

『水曜日のダウンタウン』
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