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ジャ・ジャンクーが見つめた20年 『新世紀ロマンティクス』と辿る中国の変化

2025.5.8

#MOVIE

自分の足で運命に向かって進むこと、そして自分がそれを決めていく

―様々な音楽ジャンル、様々な質感の映像の中で、チャオは一言も言葉を発しません。表情と沈黙に語らせた意図は?

ジャ:撮影に入ったばかりの頃は、チャオに話をさせていました。彼女と周りの人々とのやり取りは、言葉で進んでいたわけです。しかし、その後でその言葉を取り除いたのには理由があります。この物語が描いている長い期間の中で、主人公に話をさせることが、かえって世界を狭めてしまうのではないかと思ったからです。むしろ、彼女の身体表現や目の力で、もっと広い範囲を物語るほうがいいと感じました。

また、これは中国の伝統的な考え方にも関係しています。空間になにもない状態から「有(ゆう)」が生まれる考え方、つまり「空(くう)は有(ゆう)」という意味があるんですね。そういった伝統的な手法を取り入れて、私は彼女に言葉を与えなかったんです。

『長江哀歌』でのふたり。映画の中でも実世界でも年を重ねていく。まさに映画という時間芸術でしか味わえない郷愁。

―劇中には時代の変遷とともにパソコン、携帯電話、TikTok、ロボットがハッとする形で出てきますね。先ほど「自分の変化と社会の変化はリンクしているように思う」とおっしゃっていましたが、テクノロジーの発展は監督含め個人の内面や感情にどのような影響を与えていると感じていますか?

ジャ:私自身は幼い頃からインターネットに触れて育った世代ではありません。それでも、その後の世代、特に若い世代は、最初からインターネットがある社会で育っています。ですので、インターネットや科学技術が人間の情感に及ぼす影響は非常に大きいと思います。

インターネットが普及する前と後では、人間の感情に対する影響がかなり違っていると思います。インターネット普及前は、知っている人と交流する時代でした。でも今では顔も名前も知らない、どんな人かもわからない、未知の人と普通に交流する時代になっています。人と人との関係も以前とはまったく異なるものになっていますよね。

また昔なら愛し合うふたりが離れた場所にいると、その距離が生み出す様々な出来事が文学作品のテーマになったわけですが、今はすぐにSNSで繋がることができてしまいます。このように、インターネットやスマホが人間の情感に与える変化は非常に大きいと思います。

『男たちの挽歌』のチョウ・ユンファのような出で立ちで、お茶目に手を振るジャ監督。

―バイク、列車、船、飛行機と様々な移動手段が登場する中で、チャオが最後に辿り着いたのが「自分の足で走ること」。あのラストシーンに込めた思いを教えてください。

ジャ:確かに2001年から振り返ると、移動手段はどんどん変化していきました。それらの変化は、人間の運命とまさに同じ速度で進んできたように思えます。チャオは自分の愛を追い続けてきましたし、ビンは自分の運命を変えるために外に出たいと思ってきました。だからこそ、ふたりは絶えず移動し続けているんですね。

その移動の中で、AIの出現や科学技術の進歩といったものに出会うわけです。そして辿り着いたラストシーン。最終的には「自分の足で運命に向かって進むこと、そして自分がそれを決めていくんだ」ということを描きたかったんです。

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