Jamie xxの9年ぶりとなるアルバム『In Waves』がリリースされた。前作『In Colour』以降、2017年のThe xx『I See You』リリースと長いツアーを経て2020年のシングル“Idontknow”、ロックダウン明けの“LET’S DO IT AGAIN”、そしてオリヴァーとロミーのソロアルバム収録曲まで、この9年間折々に彼の作品は聴くことができた。その内容が徐々に変化していく様子を追いかけてきた人にとっては本当に待ち遠しいアルバムだったはずだ。先行で配信されているシングルはどれもとてもポジティブなメッセージを伝えてくれるし、何より『In Colour』がそうだったように、アルバムを通して伝わってくる言葉にはならない感情の共鳴のようなものが新作ではどんなものかを感じたいと強く思っていたはずだ。なによりも僕自身がそうだった。
『In Waves』は古くからパーティーやクラブが好きだった人には懐かしい感覚を思い出させてくれるフレーズや展開が各所に散りばめられている、しかし全く懐古的ではなく、むしろ極めて現代的な印象だ。ダンスミュージックを全く通っていない人にとってもリアルなポップアルバムとして届くのではないだろうか。
5月のロンドンで開催されたJamie xx主催のクラブナイト『The Floor』は7月、8月にはニューヨークとロスで開催され、世界中のクラブフリークの間で大きな話題となった。彼に『The Floor』の様子を含めアルバム制作の背景などを聞いてみた。
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新作『In Waves』について「自然に感じるままに進めることができたからこうなった」
ー今日はよろしくお願いします。新作『In Waves』はとても美しいアルバムだと思いました。アルバムを通してとても正直だし、エモーショナルであなたの祈るような気持ちを感じました。あなた主催の『The Floor』は5月にロンドンでスタートして、7月、8月にはニューヨークとロスでも開催されました。それぞれの土地でアルバムの収録曲をプレイしたと思います。各地の反応はどうでしたか?
Jamie xx:反響はとても良かったです。これまで何年もかけてライブやパーティーでアルバムに収録されてるトラックをプレイしてきたから、アルバムとして聴いてもフロアでのプレイとしても機能するようにしっかりと仕上げることができたと思う。それとここ数年はツアーで長い間ロンドンを拠点とせず、世界中のいろいろな場所を回っていたから、このアルバムのサウンドは場所を選ばない普遍的なものなったんじゃないかと感じてて。今のところどの都市でもいいリアクションです。
ー『The Floor』のゲストはあなた自身が選んだのですか? 特に印象に残った共演者はいますか?
Jamie xx:大体は自分で選びましたが、いくつかのアクトでは僕らのレーベル「Young」の一員であるジョージが手伝ってくれました。彼は面白いアーティストをブッキングしたり、僕が知らなかった人たちをたくさん紹介してくれたんです。
『The Floor』は本当に素晴らしい経験でした。全部で20夜にわたるイベントだったから共演してくれたアーティストはみんなユニークで素晴らしかったし、正直誰か一人を選ぶのは難しい。僕自身もすごく集中していたこともあって毎回終わると疲れきっていて、振り返っても全体がぼんやりしている感じなんです。とにかくとても楽しかった。
ー私はフランソワ・ケヴォーキアンの昔からのファンです、共演した感想を教えてください。
Jamie xx:彼は本当に最高だった! 以前にも彼とは何度か共演したけど、まさにレジェンドでした。ショーの前にニューヨークのシーンがどのように発展してきたか、彼のスタイルがどう変わってきたかについて1時間ほど話すことができて。その後、彼は驚くようなセットを披露してくれました。それを聴いて改めてダンスミュージックやパーティーの素晴らしさを再認識したほどです。彼の後にプレイするのはとても楽しみだったけど、あまりにも彼のプレイが最高だったから同時に緊張しました。
ー以前に比べるとここ数年のあなたは、よりハウスにフォーカスしていると感じました。何かきっかけのようなものがあったのでしょうか?
Jamie xx:自分ではそこまで意識してないんだけど、いろんなクラブやフェスで演奏する中で、4つ打ちのビートがどんな状況でも人々を踊らせる力を持っていることに気付いたからだと思います。特にハウスのトライバルなサウンドはパワフルで、そういう音楽を作るのがすごく楽しくなってきて。これまでもずっと好きだったけど、以前はUKっぽいサウンドにもっとフォーカスしていたから、そういった音楽を作ることはあまりなかったんだけど。今回のアルバムではあまりビートやフォーマットを意識せず、自然に感じるままに進めることができたからこうなったんじゃないでしょうか。
ーアルバムを通して聴いて、ハウスもヒップホップもブレイクビーツもトランスもダンスポップも混在するバランスの良さを感じました。特定のビートに縛られていないのがあなたの大きな特徴だと思います。ご自分でも意識していろんなスタイルの曲を作っているのでしょうか?
Jamie xx:僕自身昔からエクレクティック(多様)な嗜好を持っていたし、最近はストリーミングの影響もあって、みんなの音楽の好みが昔よりも幅広くなっていると思う。もうジャンルやカテゴリーで聴いていないですよね。それが作る音楽にも影響を与えているんじゃないかなと思います。今回のアルバムは、結果として自分のDJセットのようにいろんなジャンルを取り入れた感じになりましたが、これはごく自然な流れだったんです。
ーフォーマットから自由になっていますが、同時に過去のダンスシーンと密接に結びついているとも感じます。『In Waves』はどの曲も驚くほど音がいいのですが、特定のエンジニアがミックスを担当しているのですか?
Jamie xx:僕は常に曲を作りながらミックスもしているんです。かなり時間がかかるけど、その過程も楽しんでいます。最終的には、デヴィッド・レンチというエンジニアとスタジオに入って仕上げの調整をしました。彼とは長年一緒に仕事をしてきていて、僕が自分でうまくできなかった部分の調整や修正をしてもらってるんです。今回はもう一人ロドニー・マクドナルドというエンジニアとも数曲で共作してます。