Jamie xxの9年ぶりとなるアルバム『In Waves』がリリースされた。前作『In Colour』以降、2017年のThe xx『I See You』リリースと長いツアーを経て2020年のシングル“Idontknow”、ロックダウン明けの“LET’S DO IT AGAIN”、そしてオリヴァーとロミーのソロアルバム収録曲まで、この9年間折々に彼の作品は聴くことができた。その内容が徐々に変化していく様子を追いかけてきた人にとっては本当に待ち遠しいアルバムだったはずだ。先行で配信されているシングルはどれもとてもポジティブなメッセージを伝えてくれるし、何より『In Colour』がそうだったように、アルバムを通して伝わってくる言葉にはならない感情の共鳴のようなものが新作ではどんなものかを感じたいと強く思っていたはずだ。なによりも僕自身がそうだった。
『In Waves』は古くからパーティーやクラブが好きだった人には懐かしい感覚を思い出させてくれるフレーズや展開が各所に散りばめられている、しかし全く懐古的ではなく、むしろ極めて現代的な印象だ。ダンスミュージックを全く通っていない人にとってもリアルなポップアルバムとして届くのではないだろうか。
5月のロンドンで開催されたJamie xx主催のクラブナイト『The Floor』は7月、8月にはニューヨークとロスで開催され、世界中のクラブフリークの間で大きな話題となった。彼に『The Floor』の様子を含めアルバム制作の背景などを聞いてみた。
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The xxのメンバーとしても知られるプロデューサー / DJ。2015年にリリースされた1stアルバム『In Colour』は、グラミー賞、ブリット・アワード、アイヴァー・ノヴェロ賞、マーキュリー賞といった名だたるアワードにノミネートされるなど、ポップミュージックとダンスミュージックを繋いだマスターピースとなっている。2024年9月にはおよそ4年の歳月をかけて制作された9年ぶり2作目のアルバムとなる『In Waves』をリリース。
新作『In Waves』について「自然に感じるままに進めることができたからこうなった」
ー今日はよろしくお願いします。新作『In Waves』はとても美しいアルバムだと思いました。アルバムを通してとても正直だし、エモーショナルであなたの祈るような気持ちを感じました。あなた主催の『The Floor』は5月にロンドンでスタートして、7月、8月にはニューヨークとロスでも開催されました。それぞれの土地でアルバムの収録曲をプレイしたと思います。各地の反応はどうでしたか?
Jamie xx:反響はとても良かったです。これまで何年もかけてライブやパーティーでアルバムに収録されてるトラックをプレイしてきたから、アルバムとして聴いてもフロアでのプレイとしても機能するようにしっかりと仕上げることができたと思う。それとここ数年はツアーで長い間ロンドンを拠点とせず、世界中のいろいろな場所を回っていたから、このアルバムのサウンドは場所を選ばない普遍的なものなったんじゃないかと感じてて。今のところどの都市でもいいリアクションです。
ー『The Floor』のゲストはあなた自身が選んだのですか? 特に印象に残った共演者はいますか?
Jamie xx:大体は自分で選びましたが、いくつかのアクトでは僕らのレーベル「Young」の一員であるジョージが手伝ってくれました。彼は面白いアーティストをブッキングしたり、僕が知らなかった人たちをたくさん紹介してくれたんです。
『The Floor』は本当に素晴らしい経験でした。全部で20夜にわたるイベントだったから共演してくれたアーティストはみんなユニークで素晴らしかったし、正直誰か一人を選ぶのは難しい。僕自身もすごく集中していたこともあって毎回終わると疲れきっていて、振り返っても全体がぼんやりしている感じなんです。とにかくとても楽しかった。
ー私はフランソワ・ケヴォーキアンの昔からのファンです、共演した感想を教えてください。
Jamie xx:彼は本当に最高だった! 以前にも彼とは何度か共演したけど、まさにレジェンドでした。ショーの前にニューヨークのシーンがどのように発展してきたか、彼のスタイルがどう変わってきたかについて1時間ほど話すことができて。その後、彼は驚くようなセットを披露してくれました。それを聴いて改めてダンスミュージックやパーティーの素晴らしさを再認識したほどです。彼の後にプレイするのはとても楽しみだったけど、あまりにも彼のプレイが最高だったから同時に緊張しました。
ー以前に比べるとここ数年のあなたは、よりハウスにフォーカスしていると感じました。何かきっかけのようなものがあったのでしょうか?
Jamie xx:自分ではそこまで意識してないんだけど、いろんなクラブやフェスで演奏する中で、4つ打ちのビートがどんな状況でも人々を踊らせる力を持っていることに気付いたからだと思います。特にハウスのトライバルなサウンドはパワフルで、そういう音楽を作るのがすごく楽しくなってきて。これまでもずっと好きだったけど、以前はUKっぽいサウンドにもっとフォーカスしていたから、そういった音楽を作ることはあまりなかったんだけど。今回のアルバムではあまりビートやフォーマットを意識せず、自然に感じるままに進めることができたからこうなったんじゃないでしょうか。
ーアルバムを通して聴いて、ハウスもヒップホップもブレイクビーツもトランスもダンスポップも混在するバランスの良さを感じました。特定のビートに縛られていないのがあなたの大きな特徴だと思います。ご自分でも意識していろんなスタイルの曲を作っているのでしょうか?
Jamie xx:僕自身昔からエクレクティック(多様)な嗜好を持っていたし、最近はストリーミングの影響もあって、みんなの音楽の好みが昔よりも幅広くなっていると思う。もうジャンルやカテゴリーで聴いていないですよね。それが作る音楽にも影響を与えているんじゃないかなと思います。今回のアルバムは、結果として自分のDJセットのようにいろんなジャンルを取り入れた感じになりましたが、これはごく自然な流れだったんです。
ーフォーマットから自由になっていますが、同時に過去のダンスシーンと密接に結びついているとも感じます。『In Waves』はどの曲も驚くほど音がいいのですが、特定のエンジニアがミックスを担当しているのですか?
Jamie xx:僕は常に曲を作りながらミックスもしているんです。かなり時間がかかるけど、その過程も楽しんでいます。最終的には、デヴィッド・レンチというエンジニアとスタジオに入って仕上げの調整をしました。彼とは長年一緒に仕事をしてきていて、僕が自分でうまくできなかった部分の調整や修正をしてもらってるんです。今回はもう一人ロドニー・マクドナルドというエンジニアとも数曲で共作してます。
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自身のルーツについて。MTVで知ったクラブクラシック、両親から影響を受けたジャズやソウル
ー私は今作を聴いて、2000年前後の、パーティーが世界的に熱かった時代を思い出しました。その頃あなたはまだ10代前半でクラブに行くことができなかったと思います。どのようにダンスミュージックを発見したのですか? ダンスミュージックにハマる以前はどんな音楽を聴いていましたか?
Jamie xx:あの時代は本当に素晴らしかったですよね。アーマンド・ヴァン・ヘルデンやThe Avalanchesなど、2000年代初頭のクラブクラシックは今聴いても最高だと思う。ただ僕はその頃10歳か11歳だったから、MTVでそれを見ているだけでした。当時僕はテンポが遅めのサンプリング中心の音楽を作っていたんだけど、クラブに行くことができなかったから、クラブシーンの現場を知ることはできなかった。16歳になってようやくパーティーやレイブに行き始めて自分の音楽がフロア向けに変わったんです。
ーはじめて行ったパーティーのことを覚えてますか? その頃、DJやミュージシャンであなたのヒーローは誰でしたか?
Jamie xx:2006年頃はダブステップやグライム、UKガラージなど新しいサウンドがロンドンを中心に展開していました。僕は南ロンドンに住んでいたから、そういったシーンが自分にとっても身近で特別なものと感じていたんです。当時はSkreamやKode9を見にダブステップのイベントに行ったり、MALAが主催していたブリクストンのDIGITAL MYSTIKZのパーティーやプラスティックピープル(※)に通っていました。
※プラスティックピープル(Plastic People):ロンドンのショーディッチにあった伝説のクラブ。2000年代中旬のダブステップが大きなムーブメントになった時に中心となった。2015年に閉店。
ー思い出に残ってるパーティーはどんなパーティーですか?
Jamie xx:プラスティックピープルはいつ行っても最高でした。誰がプレイしているのか分からなくても、サウンドの素晴らしさを体感できる夢のようなクラブだったんです。真っ暗な中でフロアの角に隠れて音楽を楽しむことができて、社交的な要素よりも音楽そのものがパーティーの中心にありました。
ーダンスミュージックにハマる前に、情熱を持っていた他の音楽のスタイルやジャンルはありますか?また、今でも家で聴いている音楽はありますか?
Jamie xx:ジャズやソウル、フォークミュージックですね。今でもよく家で聴いています。
ージャズを聴くようになったきっかけは両親の影響ですか? それとも友人など、他の要因がありましたか?
Jamie xx:両親の影響です。家には多くのジャズやソウル、フォークミュージックのレコードがあって、僕の両親はいつも音楽を聴いていました。両親は若い頃にメンフィスに行ったり、イギリスのフォークフェスティバルに参加していたんです。1970年代、1980年代にリアルタイムでそういう音楽を聴けたのは素晴らしいことだったのではないでしょうか。
ー“Baddy On The Floor”からはパーティーで生まれたコミュニティーの絆のようなものを感じました。それは私も過去に体験した感覚でした。“Baddy On The Floor”を共作したハニー・ディジョンとの出会いや一緒に曲を作ることになったきっかけなどについて教えてもらえますか?
Jamie xx:彼女とはスペインのビルバオで出会いました。僕がグッゲンハイム美術館で主催したパーティーで彼女がプレイしてくれて、パーティーの後に彼女と色々話したりして、その時に親しくなったんです。その後ロックダウン中に彼女から連絡があって、アルバム制作を手伝ってほしいと言われました。ちょうど僕もアルバムを作っている最中だったから、別のプロジェクトに取り組むことで気分転換もできて。結果的に“Baddy On The Floor”という素晴らしい曲が生まれたんです。
ーあなたの作品からは私が夢中になった1990年代のクラッシックと呼ばれる数々の名曲を感じることがあります。どの曲もいまのサウンドにアップデートされていてとてもクールだと思いました。あなた自身は過去のダンスシーンの何かを受け継いでいると感じますか?
Jamie xx:ダンスミュージックが好きな人にとって、過去の影響を受けるのはごく自然なことだと思います。いつの時代も若い世代が10年前の要素を取り入れて新しいものを作り出している。そういう進化を永遠と続けているけど、それと同時に自己というものが反映されてくる。それがダンスミュージックの素晴らしいところだと思います。ノスタルジックであると同時に全く新しいものでもあるんです。
ー音楽を作り始めた頃と比べて、今の自分にとって「音楽」とはどういう存在になっていますか?時間と共にあなたの音楽へのアプローチはどのように変わりましたか?
Jamie xx:最近はまた子どもの頃に戻ったような感覚があります。20代の頃はツアーが忙しくて、目まぐるしい毎日で。それはそれで最高だったんだけど、音楽を作る理由、つまり純粋な創作の楽しさを少し見失っていたような気がするんです。
でも30代に入ってからこの5年、またその楽しさを大切にするようになりました。この音楽活動に付随するクレイジーなことはたくさんあるけど、そういうことはなるべく無視するようにしてるんです。
