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作品を「商品」と捉え、普遍性という「品質管理」を大事にする意識
─音楽制作において、こだわりのようなものはあったのでしょうか?
岩井:映画は効果音や台詞が音として入ってくるので、できるだけ余計な音が入ってないほうがいいと思っている派です。ドビュッシーとか既存のクラシックでも、アレンジでフォルテやフォルテシモの部分もピアニシモに変えてしまったり。音に関してはかなりミニマリストだと思います。

岩井:『花とアリス』はコメディだったので木管楽器や金管楽器も使っていましたけど、基本はピアノとチェロさえあればほとんどのシーンは事足りると思ってますよ。『ヴァンパイア』(2012)はまさにそうですね。自分が作る音は、非常にシンプルで環境音楽的で。最近は入れっぱなしでいつもでも鳴ってても邪魔にならない音を探ったりしてます。
─誰かとご一緒される場合も、ご自身で作る場合も、どちらも映画音楽として気にかけていることはありますか?
岩井:映像が何を求めているのか? その声に耳を澄ますという感覚はあります。
岩井:どちらかと言えば、「この映画のために作りました」という匂いがするよりは、どこかにあった既成曲を映画に使ったら意外とマッチした、というのが理想かもしれません。
作品を作るときは常に「佇まい」みたいなことは気にします。映画や音楽だけじゃなく、小説を書く場合でも、常に「佇まい」を見ている。「佇まい」ってつまり、それが世に出て、どういう風にディスプレイされているかってことなので、その観点においてそれはもう「作品」というより「商品」。「商品」という観点がないと独りよがりになりがち。そういう意味では「商品」の品質管理はかなり気にしていますね。

─岩井監督作品は独自の世界観が強い印象があったので、作品ではなく商品管理という視点は意外でした。
岩井:「作品」と言ってしまうとなんでも「作品」じゃないですか。良くも悪くも。僕の身の回りにある「商品」は、誰かが品質を担保してくれるから違和感なく使えますけど、クオリティが低いと消費者はすぐに「なんだこれ」となるでしょ。どんな商品も、なんとなくあるわけじゃなくて、品質にこだわった大勢の製作者らによって作られている。
─日用品とは異なり、映画の場合は「作品」の要素が強いものだと思っていました。
岩井:世の中の日用品は、部品の一つひとつまで徹底管理され、厳しい基準で生み出されてます。そこは映画であれ、大前提ですよね。
