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石橋英子が濱口竜介監督との共作を語る。『悪は存在しない』『GIFT』が生まれた奇跡

2024.4.24

#MUSIC

観客を思考停止から引き離す。理想の「映像と音楽の関係性」

―そもそも石橋さんが、これまで刺激を受けてきた映画音楽には、どのようなものがあるんでしょうか。

石橋:先ほど名前を挙げたファスビンダーの映画のほとんどは、ペーア・ラーベンという作曲家が手がけているんですが、「この場面にこんな音楽をつけるの!?」というような曲が多いんですよね。ダメな男が部屋で寝っ転がっているだけの映像に、すごくドラマチックな音楽がかかっている、というような(笑)。

ペーア・ラーベンについて石橋英子が寄稿した『ウルリケ・オッティンガー「ベルリン三部作」』パンフレット

―「なぜここでこの曲?」と(笑)。

石橋:そうそう(笑)。でもそれは映像を観る側を思考停止から引き離し、映画に対峙せざるをえなくさせるんですよね。「こういうシーンにはこういう音楽でしょ」という、観る側にも作る側にもあるようなセオリーからかけ離れた、「一体なんなの⁉」という気持ちにさせられる……もちろんそうした音楽ばかりでも疲れちゃいますが、そうした瞬間に出会える映画はすごくいいなと思いますね。

―映像と音楽の緊張関係、とでも言ったらいいのでしょうか。

石橋:登場人物の感情に沿った音楽でも、主人公の挙動に関係しているのでもなく、音楽が映画から独立して勝手に流れていて「どこからこの音楽はやってきているんだろう」と思わされるところに惹かれるんですね。

そもそも劇中の世界では本当は音楽なんてかかっていないわけですから、音楽が不自然なものとして存在しているように聴かせるというのは、すごくいいやり方だと思うんです。そもそも、男が寝ている空間に音楽はかかっていない(笑)。だったら、「あれっ?」と思わせるような音楽がときどきあってもいいんじゃないかな、と思います。

―音楽でハッとする瞬間があってもいい、ということですね。

石橋:ジャン=リュック・ゴダールもそうした音楽の使い方をしてきましたし、セルジオ・レオーネ監督作品でのエンニオ・モリコーネは本当にすごいです。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』という西部劇映画(短縮版が『ウエスタン』の邦題で知られる、1968年作品)は、ハーモニカの音を聴いただけでトラウマが蘇ってくるほどの強烈なメロディーです。最近ですとトッド・ヘインズ監督の『May December』(2024年日本公開予定)も、すごく面白い音楽の使い方をしていましたね。

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』予告編
映画『May December』予告編

―『悪は存在しない』でも、ガッとノイズから入ってくる曲が使われる場面がありますね。

石橋:あんな使い方をしてくださるとは思っていなかったので、びっくりしましたし、すごくうれしかったですね。オープニングのシンバルからギター、ストリングスへとつながっていくところなんかは、濱口さんが編集してくださったんです。シンバルとギターは1つの曲なんですが、ストリングスは別の曲なんですよ。それを濱口さんが編集段階でつなげてくださったんですね。

―それは驚きです。

石橋:初めてオープニングを見たときは、心のなかで「やったー!」と喜びました(笑)。実はジム・オルークさんにストリングスの曲を聴いてもらったうえで、その印象をもとにギターを弾いてほしいとお願いした経緯がありました。そこに私がシンバルの音を足して1曲にしたものを、ストリングスの曲とは別々に濱口さんにデータを渡していました。そうしたら、ああいうつなげ方をしてくださったんですよね。

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