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とめどなく変わりゆく、他者との関係と自分自身の心。いずれをも映画は優しくまなざす
朝という名前は、必ず来る、新しくて美しいものという意味を込めてつけられたそうだ。新しい出会いは、たしかに窓から差し込む朝の陽射しのように清々しく美しい。だが同時に、何が起こるかわからない未知性を秘めているために、不安や痛みを伴うものでもある。
例えば今日、大切なあなたと喧嘩をしてしまうかもしれないし、あなたの言葉一つが私の気持ちや考えを変えてしまうかもしれない。朝や槙生を見ていると、日常において他者との距離感も自分の気持ちも、それぞれ反響し合いながらうねるように刻一刻と変わっているのだと気付かされる。
色々な人と接しながら生きる私たちは、実は自らに影響を与えるものの多さ、さらに自分が影響を与えてしまうものの多さを所在なく感じていることを悟り、ハッとするかもしれない。

ただそれでも朝と槙生の関係性が愛しく思えるのは、槙生が朝に語った「あなたを愛せるかどうかはわからない。でもわたしは、決してあなたを踏みにじらない」という言葉、そんなどこか潔癖なまでの決意に追いついていくように、槙生なりの朝への接し方、ひいては愛し方が見出されていくからだ。

朝は子どもらしい無邪気さがあって、フラフラと動き回りながら話をする。槙生はそんなはつらつとした朝を目で追いながら耳を傾け、カメラは朝を追いかけた後、朝と槙生を同じフレームに収める。
リズムよくカットが割られ、朝を見る槙生、そして二人が存在する風景までをも切り取ろうとするカメラの動きは、彼女たちの様子を余すところなく記録しておこうとするような、ともすると親のような視線の温かみがある。
映画『違国日記』は、変わりゆく他者や自己と向き合い続ける朝と槙生を優しく見つめ、さらには彼女たちを眺める私たちの覚束なさをも包み込んでくれる。

『違国日記』

出演:新垣結衣 早瀬憩
夏帆 小宮山莉渚 中村優子 伊礼姫奈 滝澤エリカ
染谷将太 銀粉蝶 瀬戸康史
監督・脚本:瀬田なつき
原作:ヤマシタトモコ「違国日記」 (祥伝社 FEEL COMICS)
音楽:高木正勝
劇中歌:「あさのうた」(作詞・作曲:橋本絵莉子)
製作:「違国日記」製作委員会
配給:東京テアトル ショウゲート
制作プロダクション:ジャンゴフィルム
Ⓒ2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会
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