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バカリズム脚本SFドラマ『ホットスポット』のユーモアを支えるキャスティングと音楽

2025.2.16

#MOVIE

©日本テレビ
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東京ドラマアウォード 2023グランプリやAsian Television Awards 2023最優秀脚本賞など、数々の賞に輝いた『ブラッシュアップライフ』の制作チームが再集結したことでも話題のドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系)。

脚本のバカリズム、メイン演出の水野格、音楽のfox capture planが続投し、過去のバカリズム脚本ドラマから多くのキャストも出演する本作は、「地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディー」ならぬ「地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー」と銘打たれている。

SFでありながら、極めて小スペクタクルで日常感あふれる本作の第5話までを、ドラマ映画ライターの古澤椋子がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

不思議な爽快感と緊迫感に襲われた第5話

『月曜から夜ふかし』ディレクターの岸本祐馬(池松壮亮)©日本テレビ
『月曜から夜ふかし』ディレクターの岸本祐馬(池松壮亮)©日本テレビ

「やばい、バレてしまう」。ーー『ホットスポット』第5話を見ながら、率直にそう思った。高橋孝介(角田晃広)がこれまで解決してきた大小さまざまな困りごとが、日本テレビのバラエティ番組『月曜から夜ふかし』の定番コーナー「個人的ニュースを聞いてみた件」での取材を通じて、「メガネのおじさんの目撃情報」として集約される流れには、不思議な爽快感があった。

高橋さんが宇宙人であることが世間に知られてしまったらどうしよう、という緊迫感はあるものの、バレたらバレたで面白いのでは? といういたずら心も少し頭をかすめる。遠藤清美(市川実日子)と中村葉月(鈴木杏)、日比野美波(平岩紙)、高橋さんの4人と視聴者が共有してきた「高橋さんは宇宙人だ」という秘密が、こんな展開につながるのかと、ニヤニヤが止まらなかった。

リアルな会話劇とSF設定を掛け合わせたバカリズム脚本の魅力

自転車に乗る遠藤清美(市川実日子)を助けた高橋孝介(角田晃広)©日本テレビ
自転車に乗る遠藤清美(市川実日子)を助けた高橋孝介(角田晃広)©日本テレビ

『ホットスポット』は、富士山の麓の街・山梨県富士浅田市を舞台に、シングルマザーの清美が、宇宙人と地球人のハーフである職場の先輩・高橋さんに命を助けられたことから始まる、SF史上かつてない小スペクタクルな「地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー」だ。第1話では、清美が務めるホテルの客室にあったテレビの盗難、第2話では、体育館の天井に挟まったバレーボールを取り除き、小学校の校庭にいたずらした犯人を撃退、第3話では、駐車場の溝にタイヤがはまった車を持ち上げ、SOS表示を出したまま走り去ったタクシーを追うなど、高橋さんが宇宙人の能力を使って、たまに副作用や疲れを見せつつ、解決していく。

しかし、高橋さんが事件を解決するからといって、高橋さんの活躍が物語の中心かというと、そういう訳ではない。中心にあるのは、清美の日常であり、高橋さんとの関わりはその一部に過ぎない。

幼なじみの葉月(はっち・鈴木杏)と美波(みなぷー・平岩紙)と清美(きーちゃん・市川実日子)©日本テレビ
幼なじみの「はっち」こと葉月(鈴木杏)と「みなぷー」こと美波(平岩紙)と「きーちゃん」こと清美(市川実日子)©日本テレビ

『ホットスポット』は、2023年放送の『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)の制作チームが再集結したドラマだ。『ブラッシュアップライフ』も、何度も人生をやり直すタイムリープ系SFである一方で、中心にあったのは主人公・近藤麻美(安藤サクラ)が築いてきた友情やそれぞれの人生で選択した仕事の日々だった。バカリズムの作品において、タイムリープや宇宙人というSF要素は、あくまでスパイスでしかない。物語の中心にあるのは、仕事や友情、家族との日常、それらを象徴する、とりとめのないおしゃべりだ。バカリズムの脚本は、リアルな会話劇の精度が高いからこそ、対極にある非現実的なSF設定と掛け合わされることで、どちらの良さも際立ち、見たことがないユーモアを生み出すことができる。

リアクションや表情を細部まで味わえるキャスティング

ホテルで働く沢田えり(坂井真紀)と磯村由美(夏帆)と清美(市川実日子)©日本テレビ
ホテルで働く沢田えり(坂井真紀)と磯村由美(夏帆)と清美(市川実日子)©日本テレビ

自然な会話劇が魅力のバカリズム作品。ローテンションな会話でしっかり視聴者を惹きつけるためにも、キャスティングはとても重要だ。『ホットスポット』は、メインキャストの市川実日子と鈴木杏以外は、ほとんどバカリズム脚本ドラマの経験者だ。『ブラッシュアップライフ』からは、夏帆や木南晴夏、ココリコの田中直樹。2024年新春ドラマ『侵入者たちの晩餐』(日本テレビ系)からは、平岩紙と角田晃広、池松壮亮、菊地凛子。バカリズムの作劇にハマることが保証されている俳優が揃っている。

中でも、『ホットスポット』のユーモア部分を大きく担っているのは、平岩紙と角田晃広だろう。清美、美波、葉月の会話をさらに飛躍させるようなキラーワードを、淡々とした口調で放つ平岩の台詞回し、3人の会話に対して間をとったり、たまに被せたりと、絶妙なタイミングでツッコミを入れていく角田のコント師としての技術。2人がいなければ、セリフだけが上滑りするドラマになってもおかしくないと思うほど、この2人の存在感は絶大だ。

清美の同級生・「あやにゃん」こと岡田綾乃(木南晴夏)といつものメンバー©日本テレビ
清美の同級生・「あやにゃん」こと岡田綾乃(木南晴夏)といつものメンバー©日本テレビ

主人公である清美を演じる市川は、「実は俺、宇宙人なのね」と高橋さんから言われた時の、「この人、変なことを言い出した」とでも言うかのような表情など、どちらかというと受け身の演技をしていることが多い。清美が本音と建前を使い分けることが、また別のおかしみを生んでいる。

『ホットスポット』は、会話劇が面白いドラマとは言え、会話には表れてこない部分にも情報が詰め込まれている。そして、詰め込まれたリアクションや表情などの表現を細部まできちんと味わい尽くせるのは、最適なキャスティングが揃っているからと言えるだろう。

東京03角田晃広を戦隊ヒーローに錯覚させる演出と音楽

宇宙人の能力を使って走る高橋さん(角田晃広)©日本テレビ
宇宙人の能力を使って走る高橋さん(角田晃広)©日本テレビ

『ホットスポット』を見ていると、設定の面白さや、ゆるくリアルな会話を際立たせるような演出へのこだわりも感じられる。しびれるほどクールなカットが随所に見られるのだ。主に高橋さんの活躍シーンで。

例えば、第2話の満月に照らされながら校庭のいたずら犯を撃退する姿、第3話の俊足で街中を走る演出、第4話のカラーボールを手にコンビニ強盗犯に狙いを定める目つき、受験票の匂いを確認する時のあおり気味のカットなど。そして、これらの活躍シーンにはひと昔前の特撮作品を思わせるような音楽が添えられている。高橋さんが、まるで戦隊ヒーローかのように錯覚してしまう。

満月を背にバレーボールを持つ高橋さん(角田晃広)©日本テレビ
満月を背にバレーボールを持つ高橋さん(角田晃広)©日本テレビ

そして、『ホットスポット』は主題歌のないドラマだ。主題歌のある他のドラマよりも、劇伴が作品の印象を左右することになる。劇伴を担当するfox capture planは、『ブラッシュアップライフ』も担当しており、バカリズム脚本作品との相性は証明済み。音楽でユーモアを付け足すのではなく、登場人物たちの穏やかな日常、時に焦りや恐怖などといった感情に寄り添う音楽が鳴ることによって、その人物の必死さが際立ち、さらに面白く見えるという相乗効果を生むことに成功している。

毎話の気持ち良い伏線回収は、後半戦にどうつながるか

ホテルの支配人・奥田貴弘(田中直樹)に宇宙人であることを明かす高橋さん(角田晃広)©日本テレビ
ホテルの支配人・奥田貴弘(田中直樹)に宇宙人であることを明かす高橋さん(角田晃広)©日本テレビ

『ホットスポット』は、『ブラッシュアップライフ』に比べて、1話内での伏線回収が多いように感じる。特に、第4話は清美の同級生・岡田綾乃(木南晴夏)の歯に衣着せぬ暴言と、高橋さんのガンプラ趣味が、コンビニ強盗犯が泥水に顔を突っ込む展開とカラーボールによって汚れた綾乃の自転車を高橋さんが塗装するという形で、華麗に回収された。伏線を回収するだけでなく、伏線を伏線と思わせない仕込み、そもそも伏線でなくとも面白いと感じさせる設定が秀逸だ。 第5話までで、大方の伏線を回収してきたように感じられる本作。正直、今、残されている伏線が何なのか、最終的にどんなオチになるのか、全くわからない。毎週、笑って見ていたら、思いもよらないところまで連れていってもらえて、なぜか感動していた『ブラッシュアップライフ』のような展開になるのだろうか。公式ページを見るに、まだまだ登場人物が増える様子。徐々に広がっていく小スペクタクルな地元系エイリアン・ヒューマン・コメディーの行く末を見守りたい。

『ホットスポット』

©日本テレビ
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日本テレビ系にて毎週日曜午後10:30から放送中
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/hotspot/

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