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SFドラマ『ホットスポット』における「秘密」の意味と「無尽」に込められたテーマ

2025.3.16

#MOVIE

©日本テレビ
©日本テレビ

富士山麓の架空の町「富士浅田市」を舞台に、SF史上かつてない小スペクタクルで贈ってきた地元系エイリアン・ヒューマン・コメディードラマ『ホットスポット』が最終回を迎える。

宇宙人である高橋孝介(角田晃広)に続いて、未来人や超能力者まで登場してきたにも関わらず、主に描かれるのは主人公・遠藤清美(市川実日子)や清美の幼なじみ・「はっち」こと中村葉月(鈴木杏)と「みなぷー」こと日比野美波(平岩紙)らによる日常会話。

しかし、そうした日常会話の裏側でひっそりと映され続けてきた遊び心あふれる様々な仕掛けが、多方面で考察を呼び、放送前後にはSNSでトレンド入りするなど話題となっている。

『架空OL日記』(読売テレビ)や『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)などバカリズム脚本ドラマに出演してきた“バカリズム組”俳優の再登板も楽しい本作について、ドラマ映画ライターの古澤椋子がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

どこまでも小スペクタクルなSFドラマ

過去から来ただけの未来人・村上博貴(小日向文世)©日本テレビ
過去から来ただけの未来人・村上博貴(小日向文世)©日本テレビ

宇宙人だけでなく、未来人に超能力者。普通のドラマなら、要素を詰め込みすぎでは? と突っ込みたくなるところだが、バカリズム節の効いたチートすぎない設定だとなぜか受け入れられてしまう。

未来人であった村上博貴(小日向文世)は、タイムマシンを使ったり、現代を変える能力を持っていたりするわけではないし、超能力者の真鍋瑞稀(志田未来)も電子機器のデータを消したり、電源を落としたりと機械系に強いだけで、それ以外の能力があるわけではない。どこまでも小スペクタクルなSF設定に、どこか安心させられる。

機械系に強いだけの超能力者・真鍋瑞稀(志田未来)©日本テレビ
機械系に強いだけの超能力者・真鍋瑞稀(志田未来)©日本テレビ

そして、未来人や超能力者の存在を、宇宙人である高橋が絶対に信じない態度、怪しんでいる表情も絶妙に面白い。「宇宙人はサイエンスフィクションではなくノンフィクション」「映画『E.T.』はSFではなくヒューマンドラマ」なんて、このドラマでしか聞くことがないような主張だろう。

人間のリアルな反応を楽しませるための「秘密」

“特別”に高橋が宇宙人であるという秘密を説明する清美©日本テレビ
“特別”に高橋が宇宙人であるという秘密を説明する清美©日本テレビ

第5話までに、清美が務める富士浅田市のビジネスホテル「レイクホテル 浅ノ湖」支配人・奥田貴弘(田中直樹)と清美の同僚・磯村由美(夏帆)は、高橋が宇宙人であることを知った。そして、第6話では、支配人からの宇宙人としての能力では叶えられない細々としたお願いや、由美からの宇宙人であることを幼なじみに話してもいいかの確認など、第1話で清美や清美の幼なじみ・はっちとみなぷーが高橋に見せた反応を繰り返すような展開となった。

清美がはっち、みなぷー、そして、清美たちの同級生・「あやにゃん」こと岡田綾乃(木南晴夏)と共に訪れた同じく同級生・「のんちゃん」こと稲本紀子(MEGUMI)が営むバーで働く由美の幼なじみ・瑞稀が高橋のことを何となく知っており、由美が高橋に確認するよりも前に瑞稀に話していたことが分かる構成も巧みだ。清美たちも、うっかり口を滑らし、綾乃に高橋が宇宙人であることを話してしまう。

岸本祐馬(池松壮亮)による取材データを消したことで高橋を守った由美と瑞稀©日本テレビ
岸本祐馬(池松壮亮)による取材データを消したことで高橋を守った由美と瑞稀©日本テレビ

第7話では、再び『月曜から夜ふかし』のディレクター・岸本祐馬(池松壮亮)と松崎将吾(前田旺志郎)が富士浅田市へ。彼らが乗ったタクシー運転手の証言により、富士浅田市で起こる不可解な現象について、高橋に疑いの目が向けられてしまう。しかし、岸本にインタビューされた由美と瑞稀が高橋のことをとっさに誤魔化したり、後に明らかになったように、瑞稀が超能力者としての能力を使って岸本たちの取材データを消したりしたことで、高橋の秘密を守ることができた。それは、秘密を知る人が増えたからこそとも言える。

多くのドラマがそうであるように、秘密は、物語を牽引する鍵になる。しかし、『ホットスポット』は高橋が宇宙人であるという秘密でストーリーを引っ張るのではなく、その秘密を通してそれぞれのキャラクターがどんな反応を見せるのかに重きを置いて描いている。

秘密を知っているのか知らないのか、その秘密にどんな反応を見せるのか、その秘密がバレそうになった時、どう反応するのか。ほとんど悪い人が出てこないドラマだからこそ、そんな、人間が見せるリアルな反応のバリエーションが楽しめるのが『ホットスポット』ならではの面白さと言えるだろう。

「無尽」から考える『ホットスポット』が描くテーマ

清美やはっち、みなぷーの集まりも「無尽」©日本テレビ
清美やはっち、みなぷーの集まりも「無尽」©日本テレビ

テレビディレクターである岸本が上司の新座良幸(眞島秀和)に、自身の番組企画として富士浅田市をプレゼンする時に出てきた、気になる言葉「無尽」。これは「貯金会」とも呼ばれる、実際に山梨県に古くからある助け合いコミュニティの風習。特定のメンバーで集まって食事や飲み会をし、その時に食事代とは別にお金を出し合って積み立て、冠婚葬祭などの特別な時に使ったりするそうだ。第7話で清美の娘・若葉(住田萌乃)が、清美の別れた夫・田中晋平(大倉孝二)に話していたように、清美やはっち、みなぷーとの集まりも「貯金会」にあたる(作中で金銭的なやりとりはあまり描かれていないが)。

『ホットスポット』が描こうとしているテーマは、この「無尽」が象徴するような、助け合いの文化にあるのではないか。

高橋は、今までにも、清美やはっちの困りごとを解決し、小学校の校庭への落書き犯、コンビニ強盗犯、自転車泥棒を撃退してきた。富士浅田市に貢献していると言ってもいいだろう。第9話では、そんな高橋を救うために、高橋にとってのホットスポットと言えるレイクホテル 浅ノ湖が売却されるという危機を回避するべく、綾乃の夫で市役所職員の信一(田村健太郎)や清美たちの同級生で弁護士の蓑田賢治(前野朋哉)に助言をもらうなど、清美たちは動き出す。ドラマ全体を通して、助け助けられという互助の精神が描かれているのだ。

高橋の「ホットスポット」を守るべく動き出す清美たち©日本テレビ
高橋の「ホットスポット」を守るべく動き出す清美たち©日本テレビ

高橋が長い間、宇宙人ということを誰にも告げずに生きてきたということもポイントだろう。第8話で明かされた高橋の過去。優しい母・弘子(安藤サクラ)と宇宙人である穏やかな父・恭介(野間口徹)に育てられた高橋は、父の言いつけを守って、宇宙人の能力を使わずに生きてきた(大学受験を除いて)。幼なじみにも話すことができない秘密を抱えながら生きてきた高橋には、どこか拭えない孤独感があっただろう。そんな中で、秘密を開示しても普通に接してくれ、現状を打開しようと動いてくれる清美たちに高橋は救われた面もあると思うのだ。

仕事をサボりがちだったり、変に見栄を張ったりという、高橋の欠点を理解した上で、清美たちと高橋の間で結ばれた連帯は、一種の理想の形と言えるだろう。第9話では、ホテルのオーナー・原口芳恵(筒井真理子)の部屋に忍び込む高橋を応援するべく、清美、葉月、美波、綾乃、由美、瑞稀らが集まる。事前には「行けたら行く」と言いつつも、当日は集まってくれたみんなを見て、ちょっと嬉しそうな高橋の表情には、心が温まった。

キャスティングのサプライズも楽しいバカリズム作品

『ブラッシュアップライフ』にも出演していた安藤サクラと野間口徹が再登板©日本テレビ
『ブラッシュアップライフ』にも出演していた安藤サクラと野間口徹が再登板©日本テレビ

先の記事でも書いた通り、『ホットスポット』に出演している俳優は、バカリズム脚本作品の経験者が多い。第5話以降で言えば、綾乃の夫・信一を演じる田村健太郎、蓑田賢治を演じる前野朋哉は、ドラマ『ブラッシュアップライフ』にも出演している。

そして、誰しもが待ち望んだ『ブラッシュアップライフ』の主演・安藤サクラも高橋の母・弘子として登場。弘子の夫・恭一を演じる野間口徹は、『ブラッシュアップライフ』では安藤演じる麻美の幼なじみである玲奈(黒木華)と不倫をした宮岡さんを演じていた。「あーちん(麻美の愛称)と宮岡さんが夫婦……?」と『ブラッシュアップライフ』ファンには違和感もあっただろう。また、弘子の老年期を演じていた松金よね子は、『ブラッシュアップライフ』では、麻美の祖母役だった。そんな俳優たちの再登板を見て、視聴者も楽しいが、制作陣の『ブラッシュアップライフ』に対する愛も伝わってくる。また、第9話では、『架空OL日記』や『ブラッシュアップライフ』にも出演した山田真歩が、役名も定かではない人物として、しれっと登場。話しぶりから察するに、おそらく清美たちの幼なじみなのだろうが、バカリズム脚本ファンからすると嬉しいサプライズとなった。

ドラマの内容を楽しみつつ、キャスティングにここまで喜べるのも、バカリズム作品の魅力かもしれない。作中のキャラクターを愛している内に、俳優自体も気になっていってしまうのだ。

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