富士山麓の架空の町「富士浅田市」を舞台に、SF史上かつてない小スペクタクルで贈ってきた地元系エイリアン・ヒューマン・コメディードラマ『ホットスポット』が最終回を迎える。
宇宙人である高橋孝介(角田晃広)に続いて、未来人や超能力者まで登場してきたにも関わらず、主に描かれるのは主人公・遠藤清美(市川実日子)や清美の幼なじみ・「はっち」こと中村葉月(鈴木杏)と「みなぷー」こと日比野美波(平岩紙)らによる日常会話。
しかし、そうした日常会話の裏側でひっそりと映され続けてきた遊び心あふれる様々な仕掛けが、多方面で考察を呼び、放送前後にはSNSでトレンド入りするなど話題となっている。
『架空OL日記』(読売テレビ)や『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)などバカリズム脚本ドラマに出演してきた“バカリズム組”俳優の再登板も楽しい本作について、ドラマ映画ライターの古澤椋子がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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どこまでも小スペクタクルなSFドラマ

宇宙人だけでなく、未来人に超能力者。普通のドラマなら、要素を詰め込みすぎでは? と突っ込みたくなるところだが、バカリズム節の効いたチートすぎない設定だとなぜか受け入れられてしまう。
未来人であった村上博貴(小日向文世)は、タイムマシンを使ったり、現代を変える能力を持っていたりするわけではないし、超能力者の真鍋瑞稀(志田未来)も電子機器のデータを消したり、電源を落としたりと機械系に強いだけで、それ以外の能力があるわけではない。どこまでも小スペクタクルなSF設定に、どこか安心させられる。

そして、未来人や超能力者の存在を、宇宙人である高橋が絶対に信じない態度、怪しんでいる表情も絶妙に面白い。「宇宙人はサイエンスフィクションではなくノンフィクション」「映画『E.T.』はSFではなくヒューマンドラマ」なんて、このドラマでしか聞くことがないような主張だろう。
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人間のリアルな反応を楽しませるための「秘密」

第5話までに、清美が務める富士浅田市のビジネスホテル「レイクホテル 浅ノ湖」支配人・奥田貴弘(田中直樹)と清美の同僚・磯村由美(夏帆)は、高橋が宇宙人であることを知った。そして、第6話では、支配人からの宇宙人としての能力では叶えられない細々としたお願いや、由美からの宇宙人であることを幼なじみに話してもいいかの確認など、第1話で清美や清美の幼なじみ・はっちとみなぷーが高橋に見せた反応を繰り返すような展開となった。
清美がはっち、みなぷー、そして、清美たちの同級生・「あやにゃん」こと岡田綾乃(木南晴夏)と共に訪れた同じく同級生・「のんちゃん」こと稲本紀子(MEGUMI)が営むバーで働く由美の幼なじみ・瑞稀が高橋のことを何となく知っており、由美が高橋に確認するよりも前に瑞稀に話していたことが分かる構成も巧みだ。清美たちも、うっかり口を滑らし、綾乃に高橋が宇宙人であることを話してしまう。

第7話では、再び『月曜から夜ふかし』のディレクター・岸本祐馬(池松壮亮)と松崎将吾(前田旺志郎)が富士浅田市へ。彼らが乗ったタクシー運転手の証言により、富士浅田市で起こる不可解な現象について、高橋に疑いの目が向けられてしまう。しかし、岸本にインタビューされた由美と瑞稀が高橋のことをとっさに誤魔化したり、後に明らかになったように、瑞稀が超能力者としての能力を使って岸本たちの取材データを消したりしたことで、高橋の秘密を守ることができた。それは、秘密を知る人が増えたからこそとも言える。
多くのドラマがそうであるように、秘密は、物語を牽引する鍵になる。しかし、『ホットスポット』は高橋が宇宙人であるという秘密でストーリーを引っ張るのではなく、その秘密を通してそれぞれのキャラクターがどんな反応を見せるのかに重きを置いて描いている。
秘密を知っているのか知らないのか、その秘密にどんな反応を見せるのか、その秘密がバレそうになった時、どう反応するのか。ほとんど悪い人が出てこないドラマだからこそ、そんな、人間が見せるリアルな反応のバリエーションが楽しめるのが『ホットスポット』ならではの面白さと言えるだろう。