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オルタナティブな存在が社会循環を活発にする
―資本を追求する経済主義から離れ、さまざまな価値が育まれることに豊かさを実感できそうです。
栗野:ただ、ここから先は見せ方の問題でしょうね。例えばセレクトショップがブランドをミックスして見せるのはダイバーシティそのものだと思いますし、見せ方を提示してきた文化を持ちますが、今後更に自由な発想が求められている気がします。その意味でパリにできたDOVER STREET LITTLE MARKET PARISは一つの先例となるのかも知れません。
そもそも間違いを犯すとか変なものを買っちゃった、みたいなことにも僕は意義があると思ってます。もちろん小売店としては、お客さまに不利益を与えるわけにいかないので、「似合わないならやめたほうがいい」とは言いますが、何を選んでもその人の自由だし楽しんでもらう方法はいくらでも考えられます。
大事なのは疑いを持って、もっと考えて、自分で行動しようとすることです。投票に行ったり、自分ができることを実践することのほうが、世の中をずっと良くできるじゃないですか。行動してみたら世の中が変わるかもしれないし、誰に対しても答えを他者に求めずもっと主体的に動いてほしい。なぜなら、行動の主体は皆さんであって、答えは自分の中にあるからです。

―栗野さんにとって、ファッションとは一体どのような実践なのでしょうか?
栗野:ファッションというのは自己肯定できる一番簡単な方法ですよね。「今日イケてるじゃん」「今日はいつもと違う色を使ってみると気持ちがいい」など、こんな簡単な自己肯定は他にない。買い物で自己肯定できる人はお金を使えばいいし、手持ちの服を大切にすることで自己肯定できる人はそうすればいい。誰かから譲り受けた服を着たら意外と似合うな、とか、本当にそれでいいと思うんですよ。
僕自身も一番大きなテーマは「自己肯定」です。今の日本は自己肯定するチャンスは極めて少なくて、それはやはりこれまでの日本の教育が人を型にはめた結果だと思っています。しかし、そこにオルタナティブな考えを持って抵抗する人たちもいっぱいいたからこそ、僕みたいな人間も会社を立ち上げ、生きていくことができました。自分みたいな人間がもっといっぱい増えてくれたら良いと思うし、勇気を持って皆さんがもっと自己肯定すべきなんです。自分自身を大事にすれば自己肯定できるのと同じように、他者を大切にすることも想像力ですよね。ファッションやアートは想像力を形成したり、サポートできるツールだと思うし、もっともっとそういうことが大事にされるべきだと思います。
―最後に、栗野さんにとってオルタナティブとは?
栗野:今日こうして話しているのも、オルタナティブにこそ未来があると思ってるからです。オルタナティブなことというのは決してパンクじゃないし、決してネガティブじゃないし、決してマイナーじゃない。本流があるからこそオルタナティブが生まれるし、オルタナティブもまた本流になることで異なるオルタナティブが現れる。それが常にあることが健全なんです。異なる価値観が共存できるためのあり方であり、それは人々がより幸せに暮らす秘訣になっています。