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栗野宏文ロングインタビュー。現代ファッションにおけるオルタナティブな価値を探して

2024.8.20

#FASHION

既存の「ファッションの地図」を超越する表現

―各年毎に同時代の色が見られる点はとても興味深いですね。

栗野:オルタナティブなものは古典になり得ます。モーツァルトやベートーベン、The Beatlesにしても、かつてオルタナティブだったものが新しいクラシックになっていった。おそらくLVMHプライズの若手も近い将来、既存のメインストリームカルチャーの中で自身の居場所を築いていくのかもしれません。

ファッションはもとより、「きれいな服である」だとか「どれほどの月日をかけて作られたのだろう」というような、感動に対して人々がお金を払う文化を持っています。しかし近年は、ビジネスやマーケティングを優先したSNSやセレブリティカルチャーがメジャーになりすぎたあまり、誰が着ているから良いだとか限定版だから、などのギミック的な商法が増えてしまった。元来のファッションに回帰するならば、ここ数年のLVMHプライズに見られる傾向のほうが、個人的にはファッションを感じます。

―その他にも、栗野さんが気になるオルタナティブなアプローチを行っているブランドはありますか?

栗野:Wales Bonnerの発表形式自体はクラシックですが、テーマ選定やデザイナーの思想に強くカルチャーが宿っているのが大きな特徴だと思います。2019年にデザイナーのグレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)がロンドンのサーペンタイン・ギャラリーで開催したキュレーション展『Grace Wales Bonner: A Time for New Dreams』は、アフリカンアメリカンやアフリカンブリティッシュの歴史を踏まえて、アフリカ系作家や女性作家に焦点を絞った内容でした。それから一昨年には、テート・モダンで『LIFE BETWEEN ISLANDS』と題した展覧会のキュレーションも行っています。この展覧会はタイトルが示すように、2つの島国、ジャマイカとイギリスに焦点を当て、かつてイギリスの植民地だった歴史を踏まえて、イギリスがジャマイカに与えた影響と、ジャマイカがイギリスに与えた影響を相互に探る企画でした。それらは彼女自身がジャマイカ系イギリス人のルーツを強く意識しているからこそ成された仕事だと思います。

https://www.instagram.com/p/BtGYXPhAz1k

栗野:従来のアフリカ人デザイナーは白人社会への同化や、移民として他国で生まれ育ち、他国に属するアイデンティティを捉えてきましたが、同ブランドの場合は自身の血筋やアイデンティティを生かし、ジャマイカとイギリスの両方のミックスカルチャーを源泉としたクリエーションを披露しています。グレース・ウェールズ・ボナーは、今までの「ファッションの地図」のような分布とは異なる立ち位置にいる、新しいデザイナー像ではないかと思いますね。

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