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過去と仲直りできるチャンスは誰にもある
家を出なかったリチャードは、人生の夢は達成できなかったが、確かな記憶が残った。一方、家を出たマーガレットは、遅きに失したものの自立の夢は果たした。しかし認知症ですべてを忘れるという代償を伴ってもいる。これもまた選択の結果の因果だ。このとき再び、ゼメキスの現在・過去・未来をめぐる考察が生きてくる。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の冒険は、未来を変えるための過去の書き換えだったはずだ。
老いるということは、白紙だったはずの未来がどんどん過去として塗りつぶされることだと先述した。しかしその塗りつぶされた過去さえ、書き換えができるとしたら? それは歴史を改ざんしようとする、昨今の修正主義などとは違う、人の心の柔らかさであり、再び過去を輝かせるための心の仕事だ。それには家族の存在がひと役かう。

ここで「過去」という言葉を「思い出」と置き換えたい。この部屋にはたくさんの思い出が眠っている。家族と共に過ごした日々、交わした愛、娘の笑顔……。きらいだったはずのこの家も、その思い出のおかげで「大好きだった」と、人生の最後に笑顔で振り返る。この映画にはあとから振り返って「思い出」と呼べるエピソードが、うんと詰まっている。だから最後の感動を呼ぶ。ロビン・ライトの演技もこの上なくすばらしい。
つらく苦しいこともあった過去を、振り返って思い出に変えることを、『フォレスト・ガンプ/一期一会』のフォレストは「過去との仲直り」と言っていた。そして仲直りにはタイムマシンなどいらないのだ。
『HERE 時を越えて』の素晴らしさは、時を越え、個人を越え、世代を越えて、未来は永遠に続いていくことを伝えていることだ。マーガレットが果たせなかった弁護士の夢は、娘のヴァネッサがしっかりとかなえ、手渡されている。
まっすぐ伸びた1本の道は、この映画のいつどこで登場するか、見落とす人はいないだろう。それは私たち誰もが歩いていく道のはずだ。この映画は、時間の中で生きる私たち全員のかけがえのなさを伝えてくれる。

『HERE 時を越えて』

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2025年4月4日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督:ロバート・ゼメキス 原作:リチャード・マグワイア 脚本:エリック・ロス&ロバート・ゼメキス
出演:トム・ハンクス ロビン・ライト ポール・ベタニー ケリー・ライリー ミシェル・ドッカリー
2024年/アメリカ/英語/104分/カラー/5.1ch/ビスタ/原題:HERE/字幕翻訳:チオキ真理/G
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ ©2024 Miramax Distribution Services, LLC. All Rights R