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ゼメキス作品が表す、過去から現在までの「一本道」
その最初の一歩を踏み出す瞬間、ゼメキスの映画はいちばん高揚する。冒険の列車に乗るのをためらう『ポーラー・エクスプレス』(2004)の主人公が、勇気をもって乗車すると、少年は車掌(トム・ハンクス)から「Learn(学び)」と書かれた切符を受け取る。未来を切り開く学びの旅だ。
今はなきニューヨークのツインタワーにロープを張り、決死の綱渡りを試みる『ザ・ウォーク』(2015)の主人公(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)が、綱渡りをマスターするため、最初の一歩を踏み出す感動は格別だ。
歩きやすいよう、最初は4本のロープを横に束ねて足元を支えていたところ、上達するにつれ1本ずつ消えていき、やがて1本のロープの上を歩けるようになる。白紙の未来を書きこむことは、同時に現在を過去へと送り出すことでもあり、それを消えていくロープで表現していた。そして、彼が歩くまっすぐ伸びた1本のロープは、今後の人生の道を示すかのようでもあった。
『マリアンヌ』(2016)が描いた運命のカップル(ブラッド・ピットとマリオン・コティヤール)も未来を開くため、戦時はスパイだった互いの過去を消し去る必要があった。一方、そうした過去がすべて嘘の上に成り立っているとしたら? 『ホワット・ライズ・ビニース』(2000)の、外見上は理想的な夫婦(ハリソン・フォードとミシェル・ファイファー)は、その疑惑で未来に暗雲がたちこめる。
このときゼメキス作品には、「嘘はつき通せば真実になるのか」というテーマが持ち上がる。飛行士である『フライト』(2012)の主人公(デンゼル・ワシントン)は、飛行中に大事故に見舞われるが、天才的な操縦技術で被害を最小限におさえ、一躍ヒーローになる。しかしアルコールと薬物依存の疑惑が持ち上がる。英雄か犯罪者か。嘘と真実の狭間で、彼は何を選択するのか。
どの作品でもゼメキスは、その人物がどんな過去を経て、現在に至ったかの因果をしっかり描く。その因果とは誰の人生にも何度か訪れる選択の瞬間、運命の分かれ道だ。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、やがてドクは殺されることを、あらかじめ教えるか否かをマーティは悩む。ディケンズの古典をCGアニメ化した『Disney’s クリスマス・キャロル』(2009)は、主人公の選択が周りにどんな影響を与えたかを、再現する物語だった。右に行くか左に行くか、両方は選べないから人の道は一本なのであり、ゼメキス作品に頻出する、画面の向こうへとまっすぐ伸びた一本道はその象徴だ。
『ロジャー・ラビット』(1988)のラストでは、キャラ全員が手に手を取って、多幸感たっぷりに一本道を歩いていく。『キャスト・アウェイ』(2000)でも、無人島で失った過去を再び生き直せと言わんばかりに、失った時間に匹敵するほど長い道が伸びていた。