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河合宏樹監督『平家物語 諸行無常セッション』封切り上映、衝撃の七夜を振り返る

2024.10.25

#MOVIE

河合宏樹監督による映画『平家物語 諸行無常セッション』が、10月25日(金)より京都・大阪、11月9日(土)より神戸で上映開始され、関西での「遍路」に入る。

本作は、古川日出男、坂田明、向井秀徳の3名によって2017年5月28日に高知県・五台山竹林寺で開催された、古川の『平家物語』現代語訳(河出書房新社、2017年)を下敷きにした朗読と音楽による一夜限りのセッションの模様を64分にわたって記録したライブ映画である。

封切りとなる9月7日(金)から13日までは新宿K’s cinemaで1週間限定上映され、期間中、河合監督による「自身で監督したライブ映画に、トークやライブという『生』のイベントを毎日ぶつける」という試みがなされた。

本稿はそのイベントの断片を留めるための文章である。これは映画の、1週間の全てではない。しかし、これを読んだ人々の心の中に「ここから始まるものがある」と信じて執筆する。

古川日出男・坂田明・向井秀徳の突発セッションが繰り広げられた第一夜

第一夜は、本作の出演者である古川日出男、坂田明、向井秀徳に加え、河合監督がトークに登壇。2017年に行われたセッション当時の心境や、本作を映画として改めて観賞したことで生まれた思いなどが語られた。

河合監督は、上映に漕ぎ着けるまでの約7年間を振り返り、「『やっぱり映像にはみんな残らないなあ』っていう自問自答というか、苦しさの中で撮り続けています」と葛藤を吐露した。

河合監督の発言を受けて、坂田は「実際、世の中というのは『くりかえされる諸行無常』、その通りなんですよ。自分は『諸行無常』のまま生きていて、『よみがえる性的衝動』というものがずっとあって、形は変わっていくけど『縁』が消えることはない。それが生きてるってことだと思うんだよね、なくなったら死んじゃうんだから」と話し、「自分の思っていることができていると思うか、思わないか。それはあなたの別の問題なわけですよ。この作品はもうできちゃってるんだから、止めようがないんだよ。もう観ちゃったんだから」と河合監督を鼓舞して、観客の笑いを誘った。

古川は、坂田や監督の発言と重ねるようにして、「あれは繰り返せない。あの日のセッションはあの時しかできない。みんなが作っていく渦の中に自分も巻き込まれていって、自分も渦を攪拌する人間として存在していた、という言い方しかできないです」と述べた。

40分ほどのトークの後、不意に、向井が持ち込んだエレキギターの音が、腰のベルトに結び付けられた小型アンプを通して鳴り響き、照明がゆっくりと暗転。向井の「盛者必衰の理のブルースを、是非ともお願いしたいんですけれども」という言葉を合図に、この場限りのセッションが始まった。河合監督も咄嗟にカメラを手持ちで取り出し、撮影でセッションに参加する。

重く、鋭く、ざらついたギターの弦から生まれる一音一音が、風に吹き飛ばされる花弁のように浮かんではどこかに消える。目を閉じて呼応する坂田の声は、79歳という年齢を感じさせないほどの生命力に満ちていた。それは玉虫色に光り輝いており、「唸り」「がなり」と例えている隙に、「読経」にも似た霊性を帯びて、やがて「憤怒」「悲哀」の表情を覗かせる。

剥き出しの声の塊だったものが『平家物語』の一節へと変貌していくと、古川がポケットから取り出した『般若心経』を唱え出す。はじめは淡々とリズムを刻み、やがて坂田の破裂しそうな発声に張り合うかのごとく段々とボルテージを上げ、坂田と共に「叫び」と「叫び」の螺旋を形成していった。その後、古川の朗読は自身の作品『聖家族』にZAZEN BOYSの“DANBIRA”を融合させたものに変化し、坂田は「蕎麦屋の二階で、そばやそばーや!」と絶叫する。

これは映画の上映を記念して行われた7年前の再現ではない。『平家物語』の中で絶命した、あるいはその後の歴史も含めて時代の隅に追いやられた魂を呼び起こす行為であり、どれほど悲劇を留め、伝えていこうとも、同じ過ちを繰り返す人間たちへの遺憾の表れであり、それをわかっていながらも、表現を、創作を、記録をやめられない者たちへの寿ぎである。古川、坂田、向井の3人が、言葉と声とギターの3つだけを使って作り上げた、ハレとケ、生と死の境界線が、ここには、確かに、あった。

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