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映画『箱男』レビュー 安部公房が50年前に予言した現代社会

2024.9.4

#MOVIE

「箱」に投影される時代の欲望

およそ50年前の1973年に、来たるべきネット社会における匿名性パーソナリティの跋扈、および、アバターがオリジナリティを凌駕し、本名を隠して他人を傷つけ合う未来図を予想していたかのような内容をもつ『箱男』。石井岳龍が最初に撮影しようとしていた1997年の前年、アーティストのジャミロクワイはテクノロジーの進化を追い求めて止まない人間の欲望を狂気とし、<And now that things are changing for the worse,Futures made of Virtual Insanity(全ては悪い方向に変化し続けている、未来はヴァーチャルな精神異常だ)>と高らかに歌った。

その、壁が動く箱のフレームを利用して窮屈な時代をどうサバイブするかを暗示するMVを作ったジョナサン・クレイザーは27年後の2023年、アウシュビッツ強制収容所に隣接する邸宅で豊かな生活を営むナチス高官、ルドルト・ヘス一家の見えていること、見ようとしないことを深堀した『関心領域』を発表し、『カンヌ国際映画祭』や『アカデミー賞』を受賞した。この作品もまたヘス一家の暮らす邸宅=箱に人間の悪意を反射したものだった。

鋭い嗅覚を持つクリエイターは時空を超え、箱を通して時代を映しこむ。石井岳龍ももちろん、そのひとりである。彼が石井聰亙名義時代に撮ろうとしていた1997年の『箱男』と、2024年の『箱男』とでは、脚本の内容もテイストももちろん27年の時代の変化に伴いアップデートされている。安部公房が何度も被って実感を得て生み出した『箱男』の存在理由を、2024年の我々はどう内在化させるか。挑発にのらない手はない。 

参考文献:『安部公房全集24』(新潮社)、『安部公房と境界』(岩本知恵 / 春風社)、『安部公房 メディアの越境者』(鳥羽 耕史 / 森話者)、『安部公房とはだれか』(木村陽子 / 笠間書店)

映画『箱男』

出演:永瀬正敏 浅野忠信 白本彩奈 佐藤浩市 渋川清彦 中村優子 川瀬陽太
監督:石井岳龍 
原作:安部公房「箱男」(新潮社) 
脚本:いながききよたか、石井岳龍
プロデューサー:小西啓介、関友彦
製作:映画『箱男』製作委員会
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:コギトワークス
PG12
ⓒ2024 The Box Man Film Partners
オフィシャルサイト:https://happinet-phantom.com/hakootoko/

<STORY>
完全な孤立、完全な孤独を得て、社会の螺旋から外れた「本物」の存在。ダンボールを頭からすっぽりと被り、街中に存在し、一方的に世界を覗き見る『箱男』。カメラマンである“わたし”(永瀬正敏)は、偶然目にした箱男に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、箱男としての一歩を踏み出すことに。しかし、本物の『箱男』になる道は険しく、数々の試練と危険が襲いかかる。存在を乗っ取ろうとするニセ箱男(浅野忠信)、完全犯罪に利用しようと企む軍医(佐藤浩市)、 “わたし”を誘惑する謎の女・葉子(白本彩奈)……。果たして“わたし”は本物の『箱男』になれるのか。そして、犯罪を目論むニセモノたちとの戦いの行方はー!?

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