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ena moriが歩みを振り返る 15歳で一人海外に移住し、今や世界から注目される存在に

2024.12.3

#MUSIC

「聞こうと思って聞かないと聞こえない音」と重なる自分

ー以前『Able Asia』に出演された際に、「楽曲制作ではメロディーを先に作って、そのあとに歌詞を乗せていくことが多い」とお話しされていました。ポップなメロディに幼少期や今現在感じる不安や恐怖の気持ちを乗せていくことで、音楽としてどのような効果があると考えていますか?

ena mori:ハッピーに聴こえるけど、歌詞はすごく悲しいっていうギャップのある曲が個人的に好きだし、そういうものが一番心に刺さる。ポップスにすることで重く考えなくてもよくなるという側面もあるけど、逆にポップスで深いことを話すことで、最短距離で私が伝えたいメッセージを人に届けることができるんじゃないかと思っています。耳に残るポップなメロディでいろんな人に曲が届いて、そのうちの何人かが歌詞を読んでくれたらすごく嬉しい。

ー『Able Asia』で「毎日日記をつけていて、そこから歌詞が生まれることがある」と話していましたが、メロディーやサウンドはどんなところから見つけていますか?

ena mori:例えば“SOS”だと、1960年代の映画で使われていたサイレンの音がすごく良いなと思ったところからインスパイアされているんです。映画に限らず、60年代のCMやテレビ番組の胡散臭い不自然な笑顔っていうのにすごく共感して。たぶん、戦後にこれから成長していく社会のなかでハピネスを探すため、無理して作っていた部分もあるのかなって解釈したときに、すごくインスパイアされたんです。

そのほかにも生活しているなかで気になった音はすぐに録音して集めています。寝る前にYouTubeで氷の音を聞くのも好きです。アイススケートのリンクの氷に耳を当てると音がするのを知っていますか? 変だって分かってるんですけど、その音がすごく好きで、たまに聞いています(笑)。

ー氷の音! おもしろいですね。数日前まで山形にいたんですけど、その土地の音みたいなものもあるなって感じていたところでした。その音を聞くことで、その場所の情景や匂い、そこにいたときの感覚などを思い出せることがあると思っているのですが、ena moriさんにとってそういう「大事な音」はありますか?

ena mori:日常では気付けない音や、聞こうと思って聞かないと聞こえない音に私はすごく惹かれます。そんな音に私も少し共感する部分があるというか。私だけじゃなく、多様なアイデンティティを持つ人や自分自身を隠している人など、誰も聞いてくれない声ってすごくたくさんあると思っていて。そういう声や存在に私はすごく惹かれるし、それはサウンドも一緒なんです。

ー最高……。私自身も、そこが仕事をするうえで一番の軸になっているんです。マイノリティ性を持った人たちの声って、現状の社会やシステムのなかでは聞かれなかったり、そもそもないものとされていることがすごく多い。だけどその人たちの存在や声は確実に存在しているから、そういった声をしっかりと掬い上げて届けていくことが私の仕事のモットーなので、すごく共感できる部分で嬉しいです。

ena mori:その話を聞いて、いい時代になったなって思いました。もちろんまだまだ遅れている部分はすごくあると思うんですけど、私たちが小さい頃って今以上にそういう声ってかき消されていたんだろうなって思うんです。だけどコミュニティが運動をし続けてくれたおかげで、こうして同じ思いを持った人とお仕事で出会えるようになった。

ー消されながらも声をあげ続けてくれた人たちがいたからこそ、今に繋がっているんだと思いますよね。先日のWALL&WALLでのライブでも、私たちが感じている不安や希望を代弁しながらも、私たちを解放へと導いてくれるような喜びに溢れたパフォーマンスが印象的でした。ena moriさんはライブが持つ力をどのように感じていますか?

ena mori:楽曲を作ることは大好きなんですけど、私にとってはインナーワークだと思っていて。代わってライブは、初めて人と繋がれる場所であって、アーティストにとっては本当にご褒美のような時間なんです。長年頑張って作り上げてきた作品をみんなに披露できるっていう、すごく大切なアクティビティだと思っていて。音源で聴いて感動することもあるけど、ライブでしか味わえない感動があるし、人の目を見て歌うことって普段では絶対にできない体験だと思うんです。これって音楽を通してでしかできないコミュニケーションだと私は思っているので、すごく大切にしていること。目の前にいる人と、言葉で話さなくても伝わってくるものがあるし、私もメッセージを伝えることができる。私のパフォーマンスを見て感動してくれている人を見て、私もすごく元気をもらうっていう、いいエコシステムになっています(笑)。それが音楽のパワーだと思います。

ー以前は英詞の楽曲が多かったですけど、最近では日本語詞の楽曲もリリースされていますよね。それによってコミュニケーションできる人たちの幅も広がっていくと思うのですが、日本語詞の楽曲を作るようになったきっかけはあったんですか?

ena mori:中学2年生でフィリピンに行っているので、日本語のレパートリーも少ないなかで歌詞を書くということにずっと前向きになれていなくて。でも、このチャレンジで私の音楽に新しいレパートリーが増えるかもしれないと思い、一度前向きに日本語の歌詞を書いてみたいなと思ったんです。

最初に日本語で書いた曲が“いちごミルク”というTomgggさんが楽曲提供してくれた曲で、初めて聴いたときに「日本の若い子たちに聴いてほしいな」って思ったんです。自分をさらけ出してもいいし、人のことをいい意味で気にしない自信をつけてほしいと思って、この曲を書きました。いざ書いてみると、日本語で歌詞を書くのも、英語で書くのもそこまで違いはなくて、好きなように楽しみながら書くことができたんです。そこからもっと日本語の楽曲も作っていきたいと思えるようになっていきました。

ー“いちごミルク”もポカリスエットのCMソングにも起用された“なんてね”も「I don’t care」っていうバイブスがすごくある楽曲ですよね。強い女性のアティチュードが見えました。

ena mori:それが必要だと思ったんです。私自身も海外に行くと、アジア人というだけでなめられることがあって。「アジア人はみんな優しくて、おしとやか」って思われているけど、人によるし、私はおしとやかじゃない。そんな気持ちを日本で暮らしているみんなにも聴いてもらいたいと思って、強い人のイメージで書きました。

ー昔の自分に聴かせてあげたいです。最後に今後チャレンジしていきたいことや、音楽を通して伝えたいメッセージがあれば教えてください。

ena mori:日本でもっと活動したいです。家族が日本に住んでいるので、会える機会がもっと増えたらいいな。キャリア的に一番挑戦したいのは、ヨーロッパでの活動。ヨーロッパの曲がすごく好きで、現地のダンスミュージックのカルチャーを経験してみたいなと思っています。

ーそれがena moriというアーティストをパワーアップさせることでもありますからね。

ena mori:そうですね! ヨーロッパはほとんど行ったことのない区域で、一度ロンドンに行ったくらいなんです。だけどそのときにロンドンが大好きになって、普段だったら海外に行ったらすぐに帰りたくなっちゃうんですけど、ロンドンだけは「帰りたくない!」ってなりました(笑)。日本も今では大好きで、帰ってくるたびに良さを感じているんですけど、ロンドンのオープンで芸術や歴史を大事にしている空気感や、街角で音楽が鳴っている感じがすごく好き!

自分の音楽に関しては、「嘘をつかない曲を作る」ということをずっと大事にしているんです。正直に、自分が思ったことを素直に言っていきたい。もし間違っていたとしても、そのときに思った素直な気持ちであることには変わりないじゃないですか。正論よりも自分が思った通りに楽曲を作っていきたいし、そんな音楽やアートに挑戦したいと思っている人に希望や力を与えられるようなアーティストになりたいです。

ena mori“Trust Me”

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