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福岡、そして六本木へ。来るべき「大祭」に向けて
―続いて3公演目は福岡県福岡市の舞鶴公園三ノ丸広場で開催された『福岡城跡電磁盆踊り』です。
和田:福岡では7月にキックオフミーティングを実施して、そこで電磁盆踊りを一緒にやるメンバーを募集したんですよ。そうしたら地元のメンバー80人ぐらいが集まって。その後はオンラインも使って一緒にアイデアを妄想しながら作っていきました。
『博多どんたく』という地元の祭りのなかで、ひょっとこ踊りという演目があるんですね。博多にはひょっとこ踊りの愛好会もあって、下は中学生から上はおじいちゃんおばあちゃんまで、幅広い年代が参加しているんですよ。そのなかのリーダー的存在の方がキックオフミーティングに来てくださって、「ぜひ電磁盆踊りにコラボさせてください」と声をかけてくれたんです。福岡ではその、ひょっとこ踊りのチームのほか、地元の民謡歌手の石川リノさん、シンガーソングライターの岩崎桃子さん、そして、九州大学の学生など、いろんな方々が参加してくれました。みなさん「私が考える電磁盆踊り」をプレゼンしまくってきて、凄まじい熱量でしたね。


―福岡でニコスのパフォーマンスをやったのは初めてですよね。それだけの熱量のある人たちが集まったのはなぜだったんでしょうか。
和田:それが自分たちでもわからなくて(笑)。みなさん電磁盆踊りに対する理解の解像度がすごくて、次々にアイデアが出てくるんです。今回はそのアイデアを全部受け入れたんですよ、全部乗せラーメンみたいに(笑)。そうしたら自分で屋台を作ってくる人もいるし、炊飯器の楽器を作ってくる人がいたり、誰が何をやっているのか把握できないぐらいになっちゃって。

―和田さん自身、コントロールできないカオスの状態を楽しんでいたのでしょうか。
和田:完全に楽しんでいました(笑)。もちろんトラブルもありますし、めちゃくちゃ大変ですけどね。それぞれの人が物語を作っている感じというか、集まったときに景色が生き物のように変わっていくんです。そこから新しいものが生まれてくる。それが面白いですよね。

―そして、4公演目が『六本木アートナイト2024』の一環として開催された『六本木丘電磁盆踊り』です。この日はスペシャルゲストに中西レモンさん、にゃんとこさんが出演されました。
和田:六本木では3月に制作した発電磁山車を再び引っ張り出してきたんですよ。ニコスの演奏も回を重ねるごとに息が合ってきたし、祭り囃子としてのグルーヴが研ぎ澄まされてきた感覚がありましたね。ほとんどのメンバーがプロフェッショナルなミュージシャンではないけれど、ライブを重ねるごとに演奏がうまくなってくるんですよ。六本木はお客さんの数も多くて、踊り狂っている人もいて熱気が渦巻いていました。


―中西レモンさんは何を歌ったのでしょうか。
和田:”炭坑節”と僕らのオリジナルの『電電音頭』を歌って頂きました。電磁楽器の音は結構強いので、歌手によっては声が埋もれてしまうんですけど、レモンさんの声は張りがあって力強いので、チューニングが合う感じがありました。歌の力を感じましたね。
―10月には東京都立川市で開催された『たちかわ妖怪盆踊り2024』にもニコスで出演されましたね。
和田:僕は香港にいたので参加できなかったんですが、8人のメンバーが特別編成で出演して、レモンさんも飛び入りで歌ってくれたんですよ。ツアーで積み重ねてきたものがあるので、僕というバンマスがいなくてもやれるようになってるんですよね。
―和田さんは今、香港に滞在中とのことですが、どんなプロジェクトに参加されているのでしょうか。
和田:香港・九龍のミュージシャンやラッパーとコラボレーションする『再媒体重奏』というイベントでこちらに来ています。メディアを再定義してアンサンブルするというのがテーマで、初めて触る楽器もある中で、日々クリエイションしているところです。こちらではネオン管の楽器を作ってまして、今後、香港でやったことがニコスの活動に反映されることもあるかもしれませんね。最終的にはあちこちで作った電磁楽器が集結して大祭が行われるかも。


―それは面白いですね。ニコスは来年で結成10周年ですし。
和田:そうなんですよね、気づけば10年やってるという感じです。ずっと実験していて、なかなか完成しない感じですけど(笑)。続けているといろんなことがあるんですよ。公演直前になってもブラウン管が揃わないなか、奇跡的にブラウン管を大量所有しているコレクターが現れてなんとかなったり、コロンビアやイギリスでブラウン管奏者が現れたり。はたまた、雨が降ってしまったりとか。
―電磁楽器にとって雨は天敵ですもんね。
和田:そうなんです。裏では次から次に問題が起きているんですけど、そこも含めて実験であり挑戦ではあるんですよね。今の世の中、スマートであることがひとつの指針ですよね。電化製品もコンパクトにオールインワンでなんでもできるという世界線。そんな中で祭りってその対局にあると思うんですよ。重いものをみんなで動かすとか、祈りや儀式がスマートなのは何か違う。ニコスでは日々の便利さの裏側で静かに隠蔽されている身体的な感覚を見つけ出そうとしているのかもしれないです。システム化されたブラックボックスをこじ開けながら、テクノロジーを自分たちの身体にたぐり寄せていく。ワイルドで祭り的な電気をアンプリファイする感じ。家電は本来の役割を終えた時こそむしろ旬で、妖怪としてのアクロバティックなセカンドライフが始まる。今後もそういうことを探索していきたいと思っています。
―そういう意味では、人と人が集い、共に踊る『電磁盆踊り』の場は、ニコスの活動のなかでも重要な意味を持っていますよね。
和田:そうですね。コロナ禍以降、オンラインで制作を進めなきゃいけなかったわけで、『電磁盆踊り』という場で実際に会うことが重要だったんですよね。オンラインで撒いた種が電磁盆踊りの空間で花開いたという感覚はありました。オンラインじゃ終われない。オンオフしながら今後もツアーは続けたいと思っています。
