OGRE YOU ASSHOLE(オウガユーアスホール)による野外イベント『””DELAY 2024″”』が5月11日(土)に長野・八ヶ岳自然文化園 コンサート広場にて行われた。
これまでも国内外のゲストを迎えて開催されてきた自主企画『””DELAY 2024″”』。今回はバンドの地元・長野にて坂本慎太郎、ジム・オルークを迎えての開催となった。
正午から日暮れのマジックアワーまで、自然と音楽が溶け合ったひと時をライターの松永良平がレポート。
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会場は『悪は存在しない』の舞台でもある八ヶ岳
会場となる八ヶ岳自然文化園のコンサート広場に足を踏み入れて、一瞬だけたじろいだ。ステージと、その前方に小さめのフロア、さらにそのスペースを取り囲んで半円を描きながら配置された石段の座席。想像していたよりずっとこじんまりしている。ただ、「コンサート広場」という、なんとなく朗らかな名称には不自然さがない。そういう慎ましやかなかわいさがある。エンジニアたちが陣取るテントとステージまでの距離も近い。

今日はここに1300人が入る(チケットはソールドアウト)と聞いた。え? そんなに人が入るの? だが、ステージに近づくにつれて、それは無用な心配だとわかった。席のある場所の後方に広がる木立にも座れるスペースはあるし、前日からの晴天に恵まれたこともあって、ほどよく刈り込まれた草むらに座り込んでライブを楽しむこともできそうだ。この場所のキャパシティは、人をぎゅうぎゅうに詰め込むのではなく、思い思いの場所で演奏と音響を楽しめるように設定されているのだとわかった。


八ヶ岳自然文化園がある長野県諏訪郡原村や鉄道の富士見駅周辺は、濱口竜介監督の最新作『悪は存在しない』の舞台となった土地でもある。もともと石橋英子のライブで使用する映像を濱口監督が依頼されたところから、ひとつの独立したストーリーを持つ映画にまで発展した。映画で印象的に登場する野生の鹿を、今日来るときは見かけなかったが、これほどの静かで豊かな自然に恵まれているのなら、すぐ近くで鹿が音楽を聴いているとしても不思議とは感じなかった。

そして、今日のイベント『””DELAY 2024″”』を主宰するOGRE YOU ASSHOLEにとっても、このあたりは彼らの生活拠点であり、ある意味ホームゲームであると言える。これまでも彼らは「DELAY」を冠したイベントを何度かおこなってきたが、物理的な意味で身近な場所を選択しての開催は、特別な機会だろう。その記念すべきイベントに、ジム・オルーク、坂本慎太郎が共演者として登場することになった。ジム・オルークは石橋とともに『悪は存在しない』のサウンドトラックをはじめ、多くの活動を行っているが、今日はソロの電子音セットでの出演。坂本慎太郎がソロでのライブを開始してからオウガと対バン的な形でステージに立つのは今回が初めてだ。
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ジム・オルークが奏でる電子音の優しさと緊張感
まだ太陽も高い時間帯だったが、ほぼオンタイムでジム・オルークが登場。即興的にも聴こえる電子音の連なりだが、かつてのソロアルバム『The Visitor』(2009年)のように綿密に構成されているようにも感じられる。曲から曲へというような継ぎ目を持たせない。その音は、揺れる木立や鳥の声、ゆっくりと集まってくる人々の動きやざわめきと溶け合って聴こえた。電子的に発生するその音は自然界には存在しないし、本来なら対立し合ってもおかしくないのに。

ジム・オルークのアプローチは、モート・ガーソンらが提唱した植物に向けた音楽の優しさとも違っていて、時にこわばったり、緊張もする。それは、この場を借りて生きる侵入者としての人間が取るべき態度と率直な実感を反映しているようにも思えた。


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坂本慎太郎の音楽が、ゆっくりと空気に溶け込む
続く坂本慎太郎は、夕暮れどきというにはまだ早い時間帯。フェスに出たとしても昼間に登場する機会は稀だが、ぼくは去年、姫路でゑでぃまぁこん主催の『ぎゃふん!at シロトピア記念公園』(2023年11月18日)でも、明るい時間帯の坂本慎太郎は体験済み。それでも、見る側にとってはこの明るさと近さは新鮮さがあったようだ。その意識が坂本自身にもあったのか、ライブのオープニングが“ツバメの季節に”だった。これまでライブのアンコールなどで演奏されることが多かったメロウでグルーヴィーな曲だが、この日は少しイントロを長めにした新しいアレンジで、音楽が空気に溶け込むのを待っているような、その淡々とした導入がとても印象に残った。

“幽霊の気分で”“君はそう決めた”“仮面をはずさないで”“物語のように”など、1時間のステージでしっかりとやるべき曲を演奏し、最後は“ディスコって”でエンディング。徐々に照明が存在感を増してゆくなか、想像上のミラーボールが木立を照らしていた。


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イベントが提示する、子どもと音楽の混ざり方
そして、ラストのOGRE YOU ASSHOLE。バンドの登場を待つ間に気がついたのは、客席に子どもたちの姿が多いこと。そういえば、入り口でノイズキャンセリングヘッドホンをレンタルしていたっけ。子どもたちの反応はいつでも興味深い。「子どもらしい音楽」とよくいうけれど、ある意味、ノイズや電子音にもっともダイレクトに反応できるのは、まだ何色にも染められていない子どもの感覚だ。アニメの主題歌やゲーム音楽を聴いていれば、びっくりするくらい情報量の多い歌詞や楽曲の難解な展開をすべて受け止めるのも彼らだ。だから、今日このフェスにいる子どもたちは、変わった子どもというより、全感覚で音楽を楽しむ機会を楽しんでいるとも思える。ステージ脇やセットの後ろにまわりこんだ子どもたちが踊る姿がかわいらしいし愛おしい。「子どもはあっちのチャイルドスペースで遊んでおいで」とは違うこの混ざり方は、別のアイデアの提示になると思う。

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OGRE YOU ASSHOLEが彩るマジックアワー
さて、オウガのセット。前日に配信開始されたばかりの新曲“偶然生まれた”でオープニング。スローでシンプルに削ぎ落としたようなサウンド。途中まで馬渕啓はシンセに向かい、ギターも弾かない。出戸学の歌う言葉は、進む時間や広がる空間のままならなさを淡々と眺めるような光景を示唆する。ストイックだがサイケデリックな約9分。そこから勝浦隆嗣と清水隆史のリズム隊に導かれて“ムダがないって素晴らしい”へ、そして“素敵な予感”。このぎゅっと引き締められながらの開放を繰り返すような矛盾スレスレのコントラストが、まさにオウガの快感。それはそのまま緑のすり鉢のようなこの小さな会場を大きく広がる外界へと解き放つ化学変化にもつながってゆく。



2023年リリースの新曲“待ち時間”“家の外”から“記憶に残らない”“朝”“見えないルール”への展開で一気にラストまで行ってしまうわけだけど、果たして曲間なんかあったっけ? と錯覚してしまうほどの陶酔感だった。オウガ的な解釈による四つ打ちと断続的なパルスは、夕暮れどきを演出するメロウという感覚とは真逆なはずの厳しさなのに、聴く者を闇に酔わす。そして「踊る」というより「揺れる」、「揺れる」というより「震わす」。気がつけば“見えないルール”の終盤ではみんなめちゃめちゃ踊っていたけどね。でも、日もとっぷりと暮れてきた“朝”中盤あたりまでの、「踊りたくても踊らせない」っていうか、観客それぞれがこの森林地帯に囲まれた一本ずつの木になってただブルンブルンと震えているような眺めも、とても記憶に残るものだった。あれは、たぶん、オウガに誘われて別世界の入り口から抜けた場所にある光景だった。




そしてアンコール“バランス(twilight ver.)”は、まさにこの場所、このマジックアワーを完全にとらえた選曲。終演後のどんなアナウンスよりも、この日のイベントの終わりを意識させたと思う。そして、感覚に残る音のこだまがまだ消えないうちに、本当にするするとあたりは闇に包まれてしまった。この時間の魔法をオウガが知っていたのなら、それこそホームゲームってことだ。



終演後、富士見駅近くの「茶虎飯店」で食事をしての帰り道。ヘッドライトに照らされて闇に浮かび上がる鹿を何匹も見た。ここから先は彼らの時間。おじゃましました。鹿たちも「今日の昼間はなんだか知らない音がしていたね」と話したりしていたかもしれない。

『LIQUIDROOM 20th ANNIVERSARY OGRE YOU ASSHOLE LIVE』

日時:8月3日(土)
会場:恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 17:00 / START 18:00
チケット:STANDING ¥5,000税込 (1D代別)
チケット販売URL:https://eplus.jp/sf/detail/4093910001-P0030001
<問い合わせ>
LIQUIDROOM 03-5464-0800
OGRE YOU ASSHOLE『偶然生まれた』

配信日:2024年5月10日(金)
配信URL:https://linkco.re/pvVzbqxZ