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アカデミー賞で話題の山崎エマ監督と金川雄策が、日本発ドキュメンタリーの未来を語る

2025.4.10

#MOVIE

世界にたくさんあるドキュメンタリーのコミュニティを日本にも作る

─なるほど。スクールの立ち上げには、ドキュメンタリー自体のイメージとドキュメンタリーの手法の両方をアップデートさせたいという目的があるわけですね。

金川:さらに言えば、ドキュメンタリー制作に共通するベーシックな考え方を揃えられるというのが、教育のメリットだととらえています。それが将来的にドキュメンタリーのコミュニティを作る上での土台になっていくと思います。

山崎:日本だと監督が一人ひとりでそれぞれ頑張ってドキュメンタリー映画を作っているという感じがするんですけど、ニューヨークでは監督やスタッフのコミュニティーがいっぱいあって、みんなで一緒に悩んだり支えあったり、フィードバックし合ったりしているんです。そういうコミュニティは、ロサンゼルスにもベルリンにもロンドンにもたくさんあって、そこに行けば、最新の情報を共有できたり、サポートする資金や体制があったりするんですが、日本にはそういう場がなかなかない。

山崎:日本の場合、監督は職人文化みたいなところがあって、人のフィードバックを求めない傾向があります。私は映画を作る時は何十人に見せてフィードバックをもらうというプロセスを踏んで完成させますが、コミュニティがあればサステイナブルにそうしたことができるんじゃないかと思います。

─教育は、コミュニティ作りの前段階ということですか?

山崎:教育からコミュニティ作りを目指しているつもりです。私は、教育とコミュニティの境をそれほど意識していなくて、スクールからスタートして、ドキュメンタリーに携わっている皆さんのコミュニティになっていければなというのが目標です。

金川:それもあって、スクールは募集人数9名という少数精鋭でスタートさせます。正直経営的観点から考えると非常に厳しいのですが、それくらいの規模でないと、きめ細かく作品についてフィードバックできないからです。まったくの初学者も業界経験者も一緒に学び、初学者は一つひとつステップアップできるように、経験者は制限された中で、これまでの自分の手癖をちょっと横に置いて作品を作ることになります。チームでの制作にも参加してもらい、監督だけでなく編集、撮影、音声、プロデューサーなどの役割を経験することで自分の適性を見極めることができると考えているのですが、それもコミュニティを前提としたスクールならではの機能かなと思います。

金川:日本は、独立してドキュメンタリー監督をしていらっしゃる方も多いのですが、予算の都合で長期のロケが必要なドキュメンタリーはどうしても一人でやらざるを得ないことが多いんです。でも一人で作ることには限界があって、世界に出していくにはやはり音声一つとっても専門的なスタッフがいないと、ピンマイクを付けられる数さえ限られてしまい、音のオプションが狭まってしまう。その重要性を理解してもらい、必要な時はサウンドマンを追加していく。そういうことがオプションとして考えられるようになると、作品のクオリティも自ずと上がっていくはずです。

─ドキュメンタリー教育を通じて、皆さんが目指している日本のドキュメンタリーの未来像とはどんなものなんでしょう?

この写真は、東急プラザ原宿「ハラカド」3Fのフォトスタジオ「STUDIO SUPER CHEESE」にて撮影。RGB Lightや3D撮影機材なども揃え、実験的撮影も充実

金川:スクールでは、1年間で5つの課題制作を行い、最終的には卒業制作を国内の制作会社など業界関係者に見てもらったり、海外の映画祭に出していきます。その過程を通して作った人脈は財産になると思っています。

スクール生以外のドキュメンタリーが好きな人たちも参加してもらえるオープンイベントなどもやりたいと思っていて、なるべく多くのドキュメンタリー好きな人たちがここに集って、いろんな情報交換をしてモチベーションを高め、また自分の制作現場に戻って頑張っていく。そんなふうに先人たちが守ってきたものの上に、新しいドキュメンタリー文化を築いていきたいですね。

山崎:ドキュメンタリーが普通に社会にあるものというところをまず目指したいですよね。作り手が面白いものを作らないと社会の側は見る気にならないと思うので、惹きつけるだけの価値あるドキュメンタリーを生み出さなければならない。それには作り手の思いを引き出した上で、それを伝える手段を伝授すること。これまでは自分一人で、日本ではまだ馴染みが少ないノーナレーションの作品を作る挑戦などをしてきましたが、これからは仲間を増やし、コミュニティを作って、日本のドキュメンタリーを国内外に広めていきたいです。

金川:山崎監督って、映画を制作している時、それはもうすごい熱量なんですよ。そこまで情熱をかけて物作りをしているんだよっていうパッションをどんどん伝えてもらいたいですね(笑)。

『DDDD Film School』

DはDocumentaryの頭文字であると同時に、Dialogue、Diversity、Discovery、Dreamといった、ドキュメンタリー制作において大切にしたい価値観を表している。

代表:金川雄策
開校:2025年4月10日より1年間(本年度の募集は終了)。
場所:東京都渋谷区神宮前六丁目31番21号 東急プラザ原宿「ハラカド」3F クリエーターのための会員制クラブ「BABY THE COFFEE BREW CLUB」内
講師:山崎エマ(監督)、林典子(写真家)、井手麻里子(エディター)、浜野高宏(プロデューサー)、永野知朗(ディレクター)、戸田義久(撮影監督)、長谷川朋子(ジャーナリスト/コラムニスト)、岩間翼(プロダクションサウンドミキサー)
公式HP:https://ddddfilmschool.com

『小学校〜それは小さな社会〜』

2024年12月13日より、全国でロングラン公開中。
監督・編集:山崎エマ 
撮影監督:加倉井和希 録音:岩間翼 
プロデューサー:エリック・ニアリ コープロデューサー:金川雄策他
製作・制作:シネリック・クリエイティブ 国際共同製作:NHK 共同制作:Pystymetsä Point du Jour YLE  France Télévisions
協力: 世田谷区 世田谷区教育委員会 製作協力:鈍牛倶楽部 配給:ハピネットファントム・スタジオ 宣伝:ミラクルヴォイス 宣伝協力:芽 inc.
2023年/日本・アメリカ・フィンランド・フランス/カラー/99分/5.1ch
© Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour

公式HP:https://shogakko-film.com

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