幼い頃に事故で失明したマット・マードックは、昼は弁護士として弱者を救い、夜は超人的な聴覚と嗅覚で、法では裁けない裏社会と戦う……Netflixで過去、3シーズンが配信され、そのダークでハードな内容が熱狂的な支持を集めてきたマーベルコミックス原作ドラマ『デアデビル』が遂に帰還した。1話目の公開からファンの間では阿鼻叫喚が続いている本シリーズだが、今回、どんな紆余曲折を経て、「ボーンアゲイン=新生」に至ったのか、アメコミトークライブ『しゃべんじゃーず』主催、アメコミ侍・柳生玄十郎が解説する。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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徹底したリアル路線で人気を博したNetflix版『デアデビル』
マーベルの映像作品をこれまでずっと追い続けていた人々が待ちに待った『デアデビル:ボーンアゲイン』の配信が、先日、ディズニー+で始まった。
2015年4月にNetflixで配信が開始された『デアデビル』。始まった当時のSNSの様子を覚えているが、「リアル」「痛い」「泥臭い」「これが見たかった」「血の匂いがするアメコミドラマ」など、強い反応が多かった印象だった。

ドラマの中で『アベンジャーズ』のニューヨーク決戦や『キャプテン・アメリカ:ウィンターソルジャー』の内容に触れるなど、MCUとの繋がりを示唆していたのもファンとしては嬉しいポイントだった。
その後、『ジェシカ・ジョーンズ』『ルーク・ケイジ』『アイアンフィスト』と、デアデビルと同一世界で展開される作品が配信されるたび大きく話題を呼んだ。
その盛り上がりが最高潮となったのが、これらの作品を一つに結びつけたNetflix版の『アベンジャーズ』とも言える『ディフェンダーズ』の配信だった。
この作品で各タイトルの主人公である4人のヒーローが集結した瞬間の興奮は、今も鮮明に思い出せるほど熱いものだった。
その後、各シリーズは続編が公開されたものの、2019年に配信された『ジェシカ・ジョーンズ』シーズン3をもってNetflixとマーベルとの間でなされた契約により、徹底したリアル路線を追求したマーベル作品群、いわゆる「ディフェンダーズ・サーガ」は打ち切りとなってしまった。
それ以降ファンは彼らヴィジランテヒーロー(※)の復活を待ち焦がれつつも、絶え間なく供給される「本体」であるMCUを追い続けた。
※法の枠外で自ら正義を執行する自警団的ヒーローのこと

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シリーズ復活への道程
そんな2021年12月(※)、大きな事件が起きた。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に、デアデビルの正体である「腕の良い弁護士」マット・マードックが登場したのだ(しかも、Netflix版で演じていたチャーリー・コックスそのままで)。あまりの予想外な出来事に、筆者も映画館で声を上げてしまったのは言うまでもない。
※日本公開は2022年1月。
そして翌年2022年8月、ディズニー+で配信が始まった『シーハルク:ザ・アトーニー』には、原作の初期コスチュームを纏ったデアデビルとしてMCUに正式登場。続く2023年配信の『エコー』には見慣れた赤いコスチュームで登場……と、ファンを悲喜交々な感情で揺さぶった。
そして今年、『デアデビル』シーズン3が終了した2018年以来、実に5年ぶりとなるタイトル作品『デアデビル:ボーン・アゲイン』が配信開始となった。

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蘇ったデアデビルに降りかかった大きすぎる代償
待ちに待った1話目の衝撃は、ファンを地の底に叩き落とす、過去類を見ないものだった。
Netflixで全シーズンを通し最も親身にマット・マードックを支え続けてきた無二の親友であり、「ネルソン&マードック法律事務所」の相棒であるフォギー・ネルソンが、宿敵ブルズアイことベンジャミン・ポインデクスターによって公衆の面前で殺害されてしまったのである。
こんなことがあってはならない。Netflix版や原作を知る者たち誰もがそう思ったに違いない。

マット・マードックが狂気に陥るのを幾度も救い、ハードでダークな作風の中で我々視聴者にとって唯一の癒やしでもあったフォギー・ネルソンが、1話目にして死亡してしまったのである。
追い討ちをかけるように、マットの恋人であるカレン・ペイジが、マットの殺意に恐怖し、彼の元を離れ、遠くサンフランシスコへと移ってしまう。

これまで多くを失ってきたマット・マードックだが、この二つの喪失は簡単に癒えるものではないだろう。
それから一年が経ち、漸く心の整理がついたのか、新たに元地方検事の弁護士キルスティン・マクダフィーと共に弁護士事務所を立ち上げ、キルスティンのお節介により知り合った精神科医ヘザー・グレンとも良い関係を築き始めた。

そして彼は新たな案件として、警察官の殺害容疑をかけられた会計士ヘクター・アヤラの弁護を請け負う事となる。

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ヒスパニック系ヒーローに背負わされた悲劇的な運命
原作でのヘクター・アヤラは、コミック初のヒスパニック系ヒーローとして誕生したホワイトタイガーというキャラクターである。彼は、実際にはギャングの揉め事に巻き込まれて殺害された少年に対する、殺人の濡れ衣を着せられている。そこには、彼がプエルトリコ人であるがゆえの差別が見え隠れする。
数十年の時を経て『デアデビル』の誌面に登場した際も、強盗犯を捕らえるべく入ったリサイクルショップで、その強盗犯が射殺した警官殺しの罪を着せられ逮捕されてしまう。裁判の結果、有罪となった彼は取り乱し、法廷から逃げ出たところを警官によって撃たれ、命を落とすという悲劇的な最期を遂げている。

このドラマでは、原作の展開をなぞりながらも、裁判の結果は無罪となり、自由の身となった。筆者も見ながらガッツポーズを取るほどに喜んだのだが、一転、最期は髑髏マークのコスチュームを着た何者かによって射殺されてしまい、結果的に原作の運命から逃れることはできなかった。