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daisansei安宅インタビュー 不器用だから歌える、1対1の物語

2024.11.22

daisansei『before you leave』

#PR #MUSIC

3人組バンドdaisanseiの新作EP『before you leave』が素晴らしい。知り合いにもそうじゃない人にも、手あたり次第配って回りたいくらい素晴らしい。演技がかったドラマチックさとは無縁の、たった10秒や20秒くらいの瞬間を切り取ったような繊細さと確かな体温を持ちながら、その一瞬に奇跡を見出すような華やかさも込められた、素晴らしき6曲のポップソング集。この6曲には、なにかが失われてしまったことの余韻、なにかが失われてしまうであろう予感……そんな喪失の気配が漂っている。過ぎてゆく時間を残酷にも救いにも思いながら、曲の主人公たちは、自分の中にぽっかりと開いた穴を見つめながら、かつてそこにあったものを思い、この先の未来にそこに入り込んでくるであろうものたちを祝福している。この音楽は、あなたの退屈を埋め合わせることはないかもしれない。あなたの空腹を満たすことはないかもしれない。しかし、あなたの疲弊に、あなたの欠落に、そっと寄り添うだろう。そして、そうした体験は、即効性の高い快楽では決して味わうことのできない充実と、歩き出す力を与えてくれる。

本作について、バンドのコンポーザーである安宅伸明(Vo / Gt)に話を聞いた。こんなにも美しい楽曲を生み出す彼だが、実際は、バンドマンでありながら『M-1グランプリ』で2回戦まで進んだことがあるような男である。家でずっと、ひとりでオリジナルの言葉パズルを解いているような、変な人である。こんな変な人がこの世界にいてよかったなぁと思う取材だった。

自分にとって縁もゆかりもないことを書くのはやめた

―新作EP『before you leave』は、収録された6曲を通じてひとつの景色が見えてくるような、まるで連作短編映画のような作品と感じました。安宅さんご自身としては、どのような構想から制作されたのでしょうか?

安宅:ずっと、アルバム然としたアルバム作品に憧れがあったんです。昨今はシングルの寄せ集めのようなアルバムが多くて、そっちの方が効率いいけど、自分が子どもの頃に音楽を聴いたドキドキは、アルバムにあったなと思って。そういう作品を絶対にどこかで作らないといけないなと思っていたんですよね。なので「連作短編のよう」という表現は嬉しいです。この1年で作った曲が入っているので、曲ごとのテーマは違ってもEP全体としてクロスする部分がある作品になったと思います。

安宅伸明(あたくのぶあき)

―EPの中で最初にできた曲はどの曲でしたか?

安宅:最初にできたのは5曲目の“in the cape”でした。で、個人的には6曲目の“彼誰(読み:かわたれ)”という曲がすごく好きで。自分のリアルな思いを乗せることができたし、メロディもいいし。この2曲のムードで行くのかなと思ったんですけど、もうひとつ煌びやかなものがあれば、すべてがよく見えるためのカメラのフラッシュのような役割を果たしてくれるんじゃないか? と思ったんです。それで最後に表題曲の“before you leave”を作りました。この曲は「親が死んだらどうしよう?」みたいなことも含まれていて、33歳の自分のリアルなものが反映されていると思います。

―カメラのフラッシュという表現が出ましたが、安宅さんの中には映像的に見えているものがあるんですね。

安宅:ずっとそうなんですよね。映像で浮かべて、作っていく。歌詞を書くときも、次のシーンを映像で思い浮かべて、そこに言葉を合わせていくように書くんです。ずっと、映像が先行していますね。

daisansei(ダイサンセイ)左から脇山翔(Key)フジカケウミ(Vo / Ba)安宅伸明(Vo / Gt)
ボーカルの安宅が2019年にネット掲示板でバンドメンバーを募集したきっかけで、脇山(Key)と知り合い、同年夏ごろにバンド「大賛成」を結成。精力的にデジタルリリースを続ける。その後、フジカケ(Vo / Ba)が加入し、名義を「daisansei」に変更。2020年11月にはフルアルバム『ドラマのデー』をリリース、タワレコメンに選出され注目を集める。「なんでもない毎日に捧ぐ、ささやかなドラマチック」を掲げ、日常に埋もれてしまいそうな小さなきらめきを少しでも取り戻せるようなポップソングを作れるよう活動を続けている。

―“彼誰”も“before you leave”も「リアル」と表現されましたが、本作は、浮かぶ映像に安宅さんのリアルなものが重なることが多かったということですか?

安宅:そうですね。というか、基本的に思っていないことは書かないようにしているんです。大衆性を考えて、自分とはまったく違う気持ちや考え方を書くことにチャンレジしてみたこともあるんですけど、「誰かの共感を呼ぼう」と思って書いた、その気持ちに本気で向き合っている人がいると考えると、それってすごく失礼なことだなと思って。例えば、「君が口紅で鏡に書いたグッバイ」という歌詞があったとして……今本当にあるかどうかは別として、あったとして。

―はい。

安宅:俺はその気持ちをリアルに書くことはできないけど、「君が口紅で鏡に書いたグッバイ」って、本当にそう思いながら書くことができる人も絶対にいると思うんです。だから、その人は共感を呼ぶことができると思うんですよね。そういうことを考えると、俺はもう、自分にとって縁もゆかりもない世界のことを書くのはやめようと思って。そういう意味では、ずっとリアルはやっているつもりなんですけど、ただ今回はよりリアルというか、「さて、今、私は何を考えていますか?」と自分に問うたときのことを書きました。3曲目の“ブーケトス”はちょっと例外ですけど。

『before you leave』EPに通底する寂しさの正体

―そのような変化の中で、楽曲についてもお聞きしたいと思います。例えば本作の中で最初にできたという“in the cape”は<134号線 潮風に揺れて ひしゃげた空き缶がカランコロン>と歌い出されますが、134号線というのは湘南の方の国道ですよね。すごく写実的に書かれていると思うんですけど、安宅さんにとって、この曲はどのような景色が表れていると言えますか?

安宅:上京してから一番よく行く海が江ノ電沿い、長谷とか由比ガ浜とか、あの辺なんですよね。134号線はそのあたりを通っている道路で、その景色が好きなんです。地元は秋田なんですけど、実家は海に近い場所だったし、海が好きなんですよね。“in the cape”は気軽に作ろうと思って作った曲なので、ギターのリフもメロディも割と単調に繰り返しながら、そこに自分の好きなもの……海とか、いろんな景色が出てくる。淡々と、「青白い景色だな」という感じで。最近は、なんというか……寂しいんですよ。ずっと寂しい。だから、寂しいこと書いてやろうと思って。

―「寂しさ」というのは、この『before you leave』というEP全体にまとわりついているものだと思うんですけど。その寂しさは何に所以しているものなのだと思われますか?

安宅:最近、それが判明したんです。きっと、このバンド活動は俺にとっての第1の青春だったと思うんですよね。俺、それまではそんなに青春を謳歌していなかったっぽいんですよ。ドキドキもしていなかったし、中途半端だったし。その壁を破れるかもしれないと思って20代半ばでこのバンドをはじめて。それはきっと青春のはじまりだったんですけど、5年くらいやってきて、その青春が「一旦、終わったな」と感じています。曲を苦しみながら作って、その曲をバンドに投げて戦いながら作っていくとか、「この言葉にはこの音が合うんじゃないか」って1音1音をバンドのみんなで探り当てたりとか。ふわっとした目的に対して、がむしゃらに瞬間瞬間をやっていく、その熱が一旦、平坦になったんだと思います。大きく言うと、第1章が終わった。その熱のあとの寂しさなんじゃないかと思うんです。

―なるほど。

安宅:でも、寂しさがあるということは、逆に言うと、根付いてきたものがあるということでもあって。生活と一緒になってきたということでもある。安心と、落ち着きと、でも「あのときのドキドキやきらめきは失われてしまった」っていう寂しさ。それで次はなにを大切にしよう、と思ったときに浮かぶ大切なものたちについての曲たち……ざっくり言うと、今回のEPはそういう感じです。

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