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大江奏=上白石萌音がこれ以上ないほどにハマり役な理由

大人の青春は、原作でも映画でも、『ちはやふる』シリーズにおいて重要な要素の一つだった。映画版の主人公であった綾瀬千早(広瀬すず)や真島太一の師匠・原田秀雄(國村隼)も、長年かるたに携わりながら名人を目指し、いつまでもかるたを通して青春を味わっていた人物だ。
『ちはやふる-めぐり-』では、大人の青春を表現する役割を大江奏が担っている。原作マンガでは小さめのツインテールをした癒し系の風貌ながら、試合となると熱を帯びる表情が魅力的だった奏。映画版で上白石萌音がキャスティングされた際には、そのビジュアルのマッチ具合に驚かされたのを覚えている。最初の映画である『ちはやふる-上の句-』の公開から9年、現在の奏はショートカットで落ち着いた色味の装いとなり、髪型や服装は、高校生の頃から大きく変わっているにも関わらず、大人になった奏として納得できる見た目のままなのは上白石ならではだろう。
また、高校生時代の奏と言えば、古典のことになると口調が速くなり、話が止まらなくなるオタク気質な人物。大人になった奏は、ある程度はわきまえつつも、話したい気持ちが抑えきれない場面も多々あり、可愛らしさは変わらない。演じている上白石自身も作中の奏と同じくらい年齢を重ね、若い頃と変わらない部分を持ちながらも、しっとりと成熟した演技も見せている。上白石自身の意志の強いイメージが、先生としての奏のスタンスにもリンクしており、見た目だけでなく内面的なキャラクターも含めハマり役と感じさせる。
更には、上白石は声優や歌手としても活動しており、声による表現も得意。彼女の声の力が、奏のかるた読みの上手さと専任読手を目指す設定に説得力を増している。奏の口調は噛みしめるように一つひとつ丁寧に語りかけるようで、古典の知識を引用して高校生たちを導くシーンにおいても、信頼して付いていきたくなる顧問としての魅力も表現していた。
映画からドラマへ。同じ役の大人になった姿を俳優として成長した状態で再び見られることは、とても贅沢なこと。上白石の人生の一部を共にした奏はとても幸福なキャラクターと言えるだろう。