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バストリオの体験レポート 「演劇ではない」と言われる舞台の、実態と楽しみ方

2025.5.28

#STAGE

物語の定型から逸脱するパフォーマンス

その日、私は東京・三河島の駅から歩き劇場に向かっていた。初めて降り立つ町は、自己紹介をしないままに会話がどんどん進み少しだけ不安になってしまうような、そんな期待感と心配を喚起する。どうやらコリアンタウンのようで、韓国料理屋を横目に見ながらまだまだ歩き続けると「元映画館」なるアートスペースが現れた。廃映画館を改修してつくられた空間は、時間とともに静かに積み重ねてきた気配そのものが、不思議な感覚を醸し出している。

周囲の少し寂れたレトロ感も含めて、『トーキョー・グッドモーニング』の舞台は、まさに時間と空間のズレの中に溶け込んでいた。席に座って周囲を見渡してみると、思っていた以上に若いお客さんが多いことに気づく。赤ん坊を連れてきている人もいて、独特のゆるい空気になんだかホッとする。バストリオを知らない者は、『トーキョー・グッドモーニング』というタイトルから、ある種の定型的な舞台をうっかり想起してしまうかもしれない。都市を舞台に、匿名性や孤独といったテーマに翻弄される若者を描く青春劇——どこかにありそうだ。けれどももちろん、この日体感したパフォーマンスは、そんな小ぎれいにまとまるものでは全くなかったのだった。

上演が始まると、まずはコント風のやりとりが始まった。何かが憑依したかのようなコミュニケーションがどんどんドライブしていき、会話の意味はいまいち分からないが、伸びる声とリズムが気持ち良い。居酒屋で隣のテーブルから断片的に聞こえてくる話なんて、まさにそんな感じだと思う。全容はつかめないけれど、なんとなくこんな話をしているのかな、という感覚。時たま、大きな笑い声とともにすかさず入るツッコミ、その繰り返しが生むグルーヴ。バストリオの魅力とは、つまりそういうことである。固定された役割や直線的な時間意識、物語というものは得てして置いてけぼりにされ、「今」を貫くエネルギーがひたすらその場を振動させて過ぎ去っていく。

それらは瞬間的に立ち上がり、すぐにまた別のものが即座にやってくるので、徹頭徹尾かみ合わずズレているように見える。役名すらあいまいな登場人物たちが、ぎこちない会話を交わし、時に無意味な行動を繰り返したりもする。誰かが何かを失敗し、それが笑いに昇華されたり、されなかったりもする。誰かがズレたそばから、誰かがすぐにズレたりもする。すばやい会話、あるいはひとり言によって、時間が伸びたり縮んだりする。

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