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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

買える展覧会『AWT FOCUS』速報レポート アートをちょっと近い距離感で

2024.11.6

#ART

会場は、日本最古の私立美術館である大倉集古館。アジアのエッセンスが詰まった建築は本展のテーマにぴったり。

東京を丸ごと使った、年に一度の現代アートの祭典『アートウィーク東京(AWT)』が2024年11月7日(木)、ついに開幕。この記事では、その注目イベントのひとつである『AWT FOCUS』 に焦点をあてて、現場の様子をお伝えする。

『AWT FOCUS』 は、展覧会でアートを鑑賞する体験と、ギャラリーでアートを購入する体験をハイブリッドさせた 「買える展覧会」 だ。出展作品は、特別出展の数点を除いてすべてが購入可能。いつもの美術館よりちょっと近い「買うかもしれない」距離感で、アートと出会える場なのだ。

今年のテーマは「大地と風と火と:アジアから想像する未来」。環境的にも政治的にも不安が蔓延る現代だからこそ、自然の摂理や不可視のエネルギーといった観点から世界を見つめるアジア的世界観をきっかけに、多様性が共存する未来を考えてみよう、というものだ。なるほど確かに、クリスマスとお正月を両立させられる私たちなら、それができるかもしれない。

第1 章「宇宙の構造」

展示は「宇宙の構造」「手、身体、祈り」「見えない力」「自然界の循環とエネルギー」の4セクションに分かれ、日本からインドネシア、韓国、台湾、フィリピン、ブラジル、香港、メキシコまで、世界中から57組のアーティストが参加している。

会場風景 / 左:トーマス・ルフ『d.o.pe.07 Ⅲ』

まず目をひくのは、トーマス・ルフによる作品『d.o.pe.07 Ⅲ』だ。関数から導き出される「フラクタル」という幾何学構造を利用し、それを何層も重ねることで、深い森のようにも海底の珊瑚礁のようにも見える画面を完成させている。数学を使ってこんなにオーガニックな画面が生まれるなんて驚きである。

トーマス・ルフ『d.o.pe.07 Ⅲ』(部分)

トーマス・ルフは写真の分野で知られるアーティストだが、本作は深みと柔らかさを持たせるために、画像をベロア製のカーペットにプリントして仕上げられている。絶対に踏めそうにないカーペットである。

会場風景

宇宙の構造と銘打たれた第1章では、幾何学的形態や、ミニマルなモチーフを繰り返す作品が大半を占める。やはり時代や国籍を問わず、宇宙の構造を表すうえで、円や螺旋は重要なモチーフである。展示室に特に解説パネルなどはないが、うっすらと、時にハッキリと作品同士が響き合うように配置されているので、そのことを頭の隅に留めておくといいかもしれない。

展覧会の内容をさらに深めるため、大倉集古館の所蔵品から参考出展されているものもある。例えば14世紀の『護摩檀図』は、護摩を焚く際の飾り付けの作法をまとめた巻物。アジア版の魔法陣とでも言えそうだ。

フランシス真悟『Four Sides Equal(emerald-violet) 』、宮永理吉(三代東山)左から『屋根の雲に向かう』『光と影を織る』『森に立ち上がる』『星座の彼方に』

こちらは世界を「面」で捉えているような作品の一角。フランシス真悟『Four Sides Equal(emerald-violet) 』は特殊な素材を使って制作されており、鑑賞者の位置や光の当たり具合によって色が変化する。捉えどころなく変化していく色彩が、日没後のマジックアワーの空のようで美しい。その前面に配置された青白磁の作品群は、宮永理吉(三代東山)によるもの。伝統的な陶磁器の技法を使って、緊張感のある彫刻的なフォルムを生み出している。

第2章「手、身体、祈り」

会場風景

続く第2章では、より制作者の手の動きを意識させるような、身体性を感じる作品が並ぶ。タイ在住、アカ族に属する画家ブスイ・アジョウの力強いアママタ(アカ族における全ての母)の肖像や、乳房を思わせる有機的フォルムの陶芸作品、西條茜『飲み込んだ罪』など見どころが多いが、気になるのはこちらの豆腐である。

沖潤子『伝言』

沖潤子『伝言』は、刺繍作品で知られる作家が、制作の中で折れたり曲がったりして使えなくなった針たちを供養するため、巨大な木綿豆腐に1000本の針を刺して完成させた作品である。ちなみに木綿豆腐の食品サンプルは河童橋で発注したらしい。日本には「針供養」といって、役目を終えた針へ感謝と労いをこめて、最後は柔らかいものに刺してお別れする風習がある。解説に立ったキュレーターの片岡真実は、針供養をどうやって海外の鑑賞者に伝えたらいいものか……と語っていたが、確かにこれは日本的なものの考え方が明確に表れた作品かもしれない。なお、本展には沖潤子による刺繍作品も展示されており、併せて鑑賞することで、積み重ねられた時間や物語をさらに実感することができる。

小林万里子「所有され得ぬ者たち」

刺繍でもう一作、小林万里子の大型作品『所有され得ぬ者たち』にも注目したい。織る、編む、刺す、染めるなど、あらゆる技法と素材を融合させて完成された作品で、木の枝をフレームとして展開する動植物と自然の大きなうねりは、循環する生の営みそのものを表している。

同(部分)中央付近を悠々と飛ぶ、ひときわ大きな鳥の姿が美しい。

第3章「見えない力」

第3章では、神や物の怪、政治的圧力や放射能汚染に至るまで、多様な「見えない力」を表現した作品が集まっている。

会場風景

金子富之の描き出した『天之叢雲九鬼武産龍王(あめのむらくもくきさむはらりゅうおう)』(左手奥)は森羅万象の気の根源の神だという。鱗の一枚一枚、爪の根元まで精彩に描かれた画面は、まるで隣で見ながら描いたかのようである。この大倉集古館の2階展示室には龍などの空想上の動物がモチーフとして多用されており、作品と建築がリンクしているように見えるのも面白いポイントだ。

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