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第2章「手、身体、祈り」

続く第2章では、より制作者の手の動きを意識させるような、身体性を感じる作品が並ぶ。タイ在住、アカ族に属する画家ブスイ・アジョウの力強いアママタ(アカ族における全ての母)の肖像や、乳房を思わせる有機的フォルムの陶芸作品、西條茜『飲み込んだ罪』など見どころが多いが、気になるのはこちらの豆腐である。

沖潤子『伝言』は、刺繍作品で知られる作家が、制作の中で折れたり曲がったりして使えなくなった針たちを供養するため、巨大な木綿豆腐に1000本の針を刺して完成させた作品である。ちなみに木綿豆腐の食品サンプルは河童橋で発注したらしい。日本には「針供養」といって、役目を終えた針へ感謝と労いをこめて、最後は柔らかいものに刺してお別れする風習がある。解説に立ったキュレーターの片岡真実は、針供養をどうやって海外の鑑賞者に伝えたらいいものか……と語っていたが、確かにこれは日本的なものの考え方が明確に表れた作品かもしれない。なお、本展には沖潤子による刺繍作品も展示されており、併せて鑑賞することで、積み重ねられた時間や物語をさらに実感することができる。

刺繍でもう一作、小林万里子の大型作品『所有され得ぬ者たち』にも注目したい。織る、編む、刺す、染めるなど、あらゆる技法と素材を融合させて完成された作品で、木の枝をフレームとして展開する動植物と自然の大きなうねりは、循環する生の営みそのものを表している。
