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柚木麻子に聞いた、日本文学が海外で大ヒットできる道筋

2025.5.2

#BOOK

Photo © Shinchosha
Photo © Shinchosha

日本文学ブームと読書会文化の親和性

─先ほど「日本の女性作家の本を読むのが“カッコいい”」という風潮があるとお話されていましたが、『BUTTER』はどういう文脈で読まれているのでしょうか?

柚木:日本とは売り方が違って、海外では「フェミニズム小説」として売られています。たぶん、私が日本で「フェミニズム」という帯を取ってもらったのは、エッセイで一度だけ。セールスのことがあるのはわかっていますが、万人に受け入れられやすいヒューマニズムという表現に変換されることが多いです。

ですが、イギリスでは完全にフェミニズム&クール売りでした。コピーは「フェミニズムとマーガリンは嫌いなの」という、物語にも出てくるセリフの1行のみ。ドイツもアメリカも、そうでした。

海外版の書影いろいろ Photo © Shinchosha

─その1行が、海外の方にとってのクールなんですね。

柚木:私としては、おもしろセリフとして書いたつもりなんですけど、日本ではあまり笑われなかったんです。でも、イギリスだと大爆笑。皮肉が大好きなので、フェミニズム小説でタイトルは『BUTTER』なのに「フェミニズムとマーガリンは嫌いなの」って言うのが、イギリスの人からすると意地悪で最高におもしろいっていう反応でした。どこの都市に行っても「このセリフを言ってください」とオーダーされるので言うと、ずっと笑ってくれます。

─文化の違いが、そういうところにも現れるんですね。

柚木:笑うポイントも違えば、「男性の辛さを描いている」っていう読者の反応も違いましたしね。あと、日本だとジャンル分けが細かくて、ミステリーや純文学、エンタメ小説などいろいろあるので、私の小説は日本だと「エンパワーメントされる」ってよく売り出していただくんですけど、人によってはすごく不安になる話かもしれないと思っていて。ジャンル分けが難しいんです。

─映画の「感動作」みたいなことと一緒ですよね。わかりやすくコピーを付けるけれど、物語は簡単に区分けできない。

柚木:それが、海外では「novel(小説)」のみ。海外の方は、ジャンル分けされていないものに耐性があるんだなと思いました。あとは、そもそもの設定として、犯人に刑事や記者が取り込まれていく話が大好物なんですよ。そういう土壌も大きいですね。

小説をたくさん読んでいるつもりですが、日本で喋っていると「まだまだ勉強が足りないな」「知らないから話題に入れない」って思うことがあるんですけど、海外に行くと「本好きだったら誰でも盛り上がれる!」という状況なんです。それが、読書会が人気な理由かなと思いました。

─読書会(ブッククラブ)があちこちで催されていると聞きます。

柚木:『BUTTER』も読書会がすごく人気なんです。日本だと、読書好きじゃないと参加できないイメージがありますけど海外は本を読んでさえいればOK。感想を伝え合うことに重きが置かれています。大昔から脈々と続いてきた読書会の歴史があって、みんなが参加しやすいんですよね。映画でも、言いづらいじゃないですか。モノクロ映画を観てないくせに叱られたらどうしようって。

そういう、本を読んでいるから偉いみたいな感覚があまりないんだと思います。わいわい話すのが楽しい。読書会の様子を映したSNSを見るのが好きなんですけど、手がベタベタするお菓子を食べながら『BUTTER』を読んでいたり、見たことない形の寿司を、めちゃくちゃな箸の持ち方で食べながら読んでたり(笑)。これくらいカジュアルだったら、私たちでも読書会ができるって思いますよね。

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