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日本の40代女性作家の本を読むのが「カッコいい」
─日本文学ブームという話もありますが、若手では村田沙耶香さんや松田青子さん、ベテラン勢でも小川洋子さんや金井美恵子さんといった幅広い世代の作家の本が海外で読まれているんですよね。
柚木:そこがおもしろいですよね。多和田葉子さんや小川洋子さんみたいな、世界規模で知られている一世代上の作家だけじゃなくて、40代くらいの日本の女性作家の本を読むのがカッコいいみたいな感じがあるんですよ。
─そんなの知ってるんだ、みたいな。
柚木:もともとは村田沙耶香さんが火付け役だと思うんですけど、『コンビニ人間』の感想として、日本のコンビニってこんなにたくさん仕事があるんだっていう新鮮な驚きがあったと思うんです。私の『BUTTER』の場合は、いちばんのびっくりポイントって、週刊誌で役職がある女性の正社員が「いない」というところ。出版社の方に取材して書いた事実なんですけど、この描写には「ほんとの話?」って何度も聞かれました。
─日本の状況は、海外から見たら歪だということですよね。
柚木:日本って、やっぱり独特な文化なんだと思います。今、松本清張さんの『点と線』というミステリー小説がイギリスで読まれているんですけど、そもそもイギリスの人たちの理解が追いついてないところがあって。『点と線』は駅のホームでおこる事件で、列車の到着時刻がトリックになっているんですね。でも、イギリスの人からすると、時間通りに列車が来るなんて奇跡だから「偶然に賭けた殺人なんじゃないか」くらいに思っている人がいるんですよ。私からしたら、いやいやいや、って。
─列車の到着時刻から計算された、ガチガチの殺人ですよね(笑)。
柚木:ほんと、ガッチガチに殺すつもりですよ。「時間通りに来るなんてあり得ないでしょ?」って言われるんですけど、日本では1分でも列車の到着が遅れるとお詫びの連絡があるって言うと、もうみんなびっくりです。『コンビニ人間』も日本の文化を知るみたいなところもあって、書かれていることがほんとなのか検証するために日本に旅行する人もいるらしいです。たぶん、日本文学との距離がすごく近いんだと思います。
─本を読む人の数も多いのでしょうか?
柚木:本を読む人数は多いですし、読む人はめちゃくちゃ読むと思います。ドイツでとくに感じたのは、格差はひどいと思いますがお給料をきちんともらっていて、休みも日本に比べてたくさんあるから、本を読む時間がある。書店に行くとどこも混雑していました。日本では本を買うことすらきつい状況になっているし、お休みが少なすぎて本を読む余裕がないですよね。それは、政治にも問題があると思っていて、最近の私はお休みと給料のことをずっと考えています。