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ある人物に対する強烈な関心。粘り強さが必要な制作へのモチベーション
─桐野(稲垣吾郎)という記者は高橋さんの職業的な立場に近いのではと思ったのですが、あの役についてはどんなふうにご覧になられましたか?
高橋:すごくしっくりくる存在で、本当にいるかのようでした。あの記者を描く上でもきっとリサーチされたんだろうなと。
入江:先ほど言った新聞記者の方がかなりキャラクターのもとになっています。あとは『週刊文春』の編集長に取材を申し込んで、どうやって取材対象を捕まえて、記事にするまでを実現しているのかのプロセスを聞いて、そのあたりは参考にさせてもらいました。なんでも話してくれて、すごくオープンで風通しがいいんですよ。

高橋:私も『文春』の方に取材したことがあるんですけど、すごく協力的で。正しく広めてくれるためには色々出しますという姿勢がありました。
─ロケーション協力のクレジットにも『週刊文春』が記載されていましたね。
入江:週刊誌の編集部をロケ地で再現するのがすごく大変なので、貸してもらえませんかって言ったら協力してくれたんです。だから積んである資料も全部本物で、太っ腹だなと思いました(笑)。編集部は普段めちゃくちゃ忙しいので、業務が終わった12月30日の夜だけ借りられて、編集部で撮影させてもらったんですよ。
高橋:楽しそうですね、それ(笑)。
入江:僕が今回高橋さんに伺いたいと思っていたのは、僕自身も映画になりそうなことを日々探しているんですけど、「これは書けるな」って高橋さんがどういう部分で感じるのかということです。

高橋:それは正直私も監督に伺いたいところですけど(笑)、「これは書けるな」というよりは、「この人の生い立ちをもっと知りたい」と思うときがあるんです。そう思ったら取材をしますね。映画って商業的に一定以上の成果を出さなければならないというプレッシャーがあるなかで、監督はどうやってモチベーションを保って制作しているんですか?
入江:僕も高橋さんがおっしゃっていた「生い立ちまで知りたい」というのが近いかもしれないですね。脚本を書くときに、多くの人に見てもらえるかどうかはあまり考えなくて。
一番怖いのは、自分が途中で作品に描く対象に飽きることです。映画って制作のプロセスが長いんですよ。3年や4年は普通だし、下手したら10年くらいかかります。撮影中に飽きたりしたら最悪じゃないですか。たとえば『つけびの村』の取材ってすごく大変だったと思うんですけど、高橋さんが「ちょっと芽がないな」と思わずに続けられたのってどうしてですか。
高橋:最初の何回目かまでは、取材してもこれは芽がないと思っていたんですけど、途中で「これはすごい話を聞いた」って興奮したときがあったんです。読まれなくても仕方がないけど、まとめてみようと考えて、なんとか形にした感じですね。ただ、自分がやっているのは、話を聞かれる相手にとっては迷惑なことなので、そこが常にプレッシャーとしてあって辛いですね。

─迷惑と思われる可能性があることについては、どういうふうに向き合われていますか?
高橋:自分は関係者の人たちからすると迷惑な立場だと思われるんだと、覚悟をしています。自分が正義であると考えると、ろくなことにならないと自分は思っているので、「全く無関係なのに話を聞きに来ている、迷惑な人間」と自覚をしながら取材をすることを大事にしています。