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シリーズ屈指の傑作『スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー』を見るべき理由

2025.4.22

#MOVIE

Ⓒ 2025 Lucasfilm Ltd.
Ⓒ 2025 Lucasfilm Ltd.

『スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー』シーズン2が、2025年4月23日(水)よりディズニープラスにて配信開始される。同シリーズを「スター・ウォーズ」フランチャイズ屈指の傑作と考える筆者が、シーズン1を振り返りつつその魅力を紹介する。

シリーズ未見の方にも見てほしい、大人が楽しめるエンターテイメント

この記事をお読みの方は、「スター・ウォーズ」(以下SW)シリーズにどのようなイメージをお持ちだろうか。もしも、子供向けで物足りない、古くてチープ、あるいはオタク向けでややこしそう、作品数が多く手を出しにくい、といったイメージをお持ちなら、そんな方にこそぜひ見ていただきたいのがドラマシリーズ『スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー』だ。

同作は2022年にシーズン1(全12話)が公開され、このたび4月23日(水)からDisney+にてシーズン2の配信がスタートする。『天国の口、終りの楽園。』などで知られるメキシコ人俳優ディエゴ・ルナが主演し、『ボーン・レガシー』『フィクサー』のトニー・ギルロイが原案・製作総指揮を務めている。

『キャシアン・アンドー』を「SW」と縁遠い方にこそお勧めしたい理由のひとつは、鑑賞に前提知識がいらないことだ。本作には、例えば「フォース」や「ジェダイ」といった専門用語がほぼ登場しない。シリーズの設定やキャラクターを知らなくても、独立したドラマとして楽しむことが可能なつくりになっている。また、後述するように、「SW」シリーズへの導入作としても非常に優れている。本作から物語の続きを追いかけていけば、シリーズにスムーズにのめり込むことができるはずだ。

とはいえ、私が本作をお勧めする最大の理由は、シンプルに本作が面白いからだ。『キャシアン・アンドー』は、息をつかせぬ展開を持ったスリラーであり、人間や社会を巧みに描いたドラマであり、大人が楽しめる骨太なエンターテイメント作品なのだ。まずはストーリーを簡単に紹介しよう。

ディエゴ・ルナ演じる、主人公のキャシアン・アンドー。 Ⓒ 2025 Lucasfilm Ltd.

圧政への抵抗者たちを主人公に、正義の多義性や葛藤を描く

遠い昔、はるか彼方の銀河系で。銀河の支配を企む元老院議長は、共和国の危機を煽り、自らの権限を強化する動議を承認させて敵対勢力を殲滅。共和制は帝政へと移行し、恐怖政治が敷かれることとなった。

帝国の支配がはじまって10余年後、廃品回収をして細々と暮らす青年キャシアン・アンドー(ディエゴ・ルナ)は、ひょんなことから横暴な警備員を誤って殺めてしまう。逃亡の道すがら、盗品の闇物資を売却するためバイヤーに接触するが、バイヤーはなぜかキャシアンの過去を熟知しており、彼の逃亡の手助けをする。ルーセン・レイエル(ステラン・スカルスガルド)というその男は、帝国への反乱分子をまとめるリーダーであり、キャシアンを反帝国の活動に誘い込む。ルーセンの掲げる「大義」に説得されたキャシアンは、帝国の基地から大金を盗み出すミッションに参加することになる——

ルーセン(ステラン・スカルスガルド / 左)とキャシアン。  Ⓒ 2025 Lucasfilm Ltd.

大義のためには味方の犠牲も厭わないルーセン、自分は役目を終えた後に口封じのため殺されるだろうと予期しているキャシアン、そして、急遽現れた新参メンバーを訝しむ、どうもそれぞれ異なる思惑や背景を抱えていそうなミッションのメンバーたち。そこに、彼らを追う帝国側の面々や、キャシアンの事件をきっかけに危険に晒されることになってしまった彼の義母や友人たちなど、さまざまなキャラクターの心情と行動が絡み合い、物語は複雑に展開する。

冒頭の予期せぬ殺人のシークエンスに象徴されるように、本作では人命の重さや、戦いの(物理的な)痛さ、戦いに直面した人たちが持つ恐怖が描かれる。これは、基本的に「宇宙を舞台にした西部劇+黒澤映画」の活劇であり、シューティングゲームのようにどんどんと人が倒れ戦闘機が爆発する「SW」シリーズの中では、異色の演出だ。

また、反乱を起こす側を主人公としていながらも、不当な圧政に対抗する手段として武力を用いることに対して、登場人物の間には温度差があり、それぞれに葛藤もある。なおかつ、抵抗のための活動は反対側から見ればテロ / ゲリラに他ならないということも、しっかりと描写される。さまざまな立場での正義の多義性が、物語に厚みをもたらしているのだ。

シーズン1には、『ロード・オブ・ザ・リング』『猿の惑星』などモーションキャプチャでの演技で知られるアンディ・サーキス(左)が、キノ・ロイ役で登場する。サーキスは最高指導者スノーク役に続き、2役目でのSWシリーズ登板となる。  Ⓒ 2025 Lucasfilm Ltd.

反政府活動に手を染めるリベラル女性議員の凄味

そんな本作を象徴する登場人物のひとりが、ジュネビーブ・オライリー演じるモン・モスマだ。脇役ながら本作で最も存在感を放つキャラクターではないだろうか。

モスマは、いまや議会で少数派となった、皇帝の独裁に反対する女性議員だ。現実社会さながら「理想を振りかざす面倒なリベラル女」としてマジョリティから疎まれている。ある日、表向きは富裕層向けの古美術商を営んでいるルーセンの元に、モスマが夫へのプレゼントを購入しに訪れる。彼らは監視役の運転手の注意を逸らしたのち、密談を始める。実はモスマは、抵抗運動がゲリラ化していくことに心を痛めながらも、秘密裏に彼らに資金提供をしているのだ。

モン・モスマ議員(ジュネビーブ・オライリー)。  Ⓒ 2025 Lucasfilm Ltd.

同時にモスマは、母親であり妻でもある。反抗期の娘は、多忙で不在がちな彼女からの外出の誘いに対し「良い母親像を世間にアピールするために私と一緒に外出したいのだろう」と手厳しい。夫は政治への関心は薄いようで、会食づくめの日々をぼんやりと謳歌している(ように見える)。やがて銀行口座も監視下に置かれ資金の移動が困難になった彼女は、小学校の同級生で元恋人の銀行家テイ・コルマ(ベン・マイルズ)に協力を依頼する。彼女の反帝国の活動を知らされていない夫は、妻とコルマの何やらこそこそとした様子を訝しむ。その後コルマは、モスマの資金洗浄に手を貸すという同郷の男を連れてくるが、悪名高いその男は協力と引き換えに、モスマの娘と彼の息子の政略結婚を持ちかける。

ルーセン・レイエルとモン・モスマ。 Ⓒ 2025 Lucasfilm Ltd.

モスマを取り巻くドラマは、仕事によって家庭に生じる歪み、相手を思うがゆえの嘘や方便、リベラルな価値観と衝突する郷里の惑星の風習とどう向き合うか……など、我々にとっても身近で大きなテーマをいくつも抱えている。そして、モスマの肩には、「権力が暴走し、適正な手続きが機能しなくなった世界には、武力による現状変更しか残されていないのか」というテーマが重くのしかかっている。正義のためにテロ / ゲリラに加担していくリベラル議員の姿は、シーズン1の公開後、現実の首相暗殺事件とドナルド・トランプ再選を経た今日の社会で、より一層の迫力を持つ。

それぞれの立場で行動し葛藤する、魅力的な脇役たち

キャシアンらを追う帝国側の登場人物たちも、キャラクターが粒立っている。

帝国の情報機関で働く捜査官デドラ・ミーロ(デニス・ゴフ)は、散発する帝国物資の盗難に関連性があることを勘繰り、反乱活動が組織化されてきているのではないかと推測する。自身の管轄外の事件についても調査を行いたい彼女に対し、上司や同僚は、出過ぎた振る舞いだと叱責し聞く耳を持たない。

ミーロを中心としたシークエンスは、組織の中で働く人々の軋轢や政治を描いたサラリーマンドラマでもある。彼女が女性であるがゆえの出世の困難さも示唆される(遠くの銀河にも性差別はあるようだ)。また、帝国で働く公務員の多くは、もともとは共和国の公務員であったはずである。いわば勤務先が買収されて親会社が変わったようなもので、生活がかかっている多くの勤め人は、方針転換に対応しながら与えられた職務を全うせざるを得なかったはずだ。適応する中で、次第に帝国の思想に蝕まれていきもしただろう。元々、「SW」シリーズの生みの親ジョージ・ルーカスは、銀河帝国をナチスになぞらえてデザインした(※)というが、本作は帝国の「普通の人々」の姿を描くことで、その世界観をより立体的なものにしている。

※ルーカス本人との「密な連携」によって記され、ルーカスフィルム公認の書籍として出版されたNancy R. Reagin, Janice Liedl編著『Star Wars and History』には、「ストームトルーパー」という名称や将校のコスチュームなど、銀河帝国の造形に於いてナチスがどのように参照されたかが記されている。

デドラ・ミーロ(デニス・ゴフ)。 Ⓒ 2025 Lucasfilm Ltd.

保安会社に勤める若者シリル・カーン(カイル・ソラー)は、同僚の不審死の調査に当たる中で、キャシアンの存在にたどり着く。彼を捉える機会を得て勇んで向かうものの、戦闘の経験などないシリルは、実際に発生した捕物・銃撃戦の前にはなす術がなく、彼を取り逃してしまう。この失態で職を追われたシリルは、過干渉な母親に世話された再就職先で単純労働に従事しながらも、件の事件に執着し続ける。

シリルの生真面目さと幼稚さ、ルーティーンワークと異なる事態の発生にテンションが上がってしまっている様子、あるいはその母子関係には、可笑しさと悲哀の両方が滲んでいる。「正義」に取りつかれた彼とその周囲には、弱者が権力と自己同一化することで自尊心を保つ「ネット右翼」的な心性も見え隠れする。それでいて、どこか憎めないキャラクターだ。

シリル・カーン(カイル・ソラー)はキャシアンに執着し続ける。 Ⓒ 2025 Lucasfilm Ltd.

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