フジテレビの深夜バラエティー『ハチミツ!!』。若手芸人がしのぎを削る人気番組にて、「メジャーデビュー争奪戦!ハチフェス」という企画が行われた。
8組の芸人と新進気鋭のアーティストがそれぞれタッグを組んで楽曲を制作。TikTokの再生数と『お台場冒険王2024』の特設ステージで行われるライブパフォーマンスへの観客投票で、ソニーミュージックからCDデビューする1組が選ばれるという内容で、NiEWでも『「音楽×お笑い」の実験ノート』と題して全組の対談を実施。
そして、その権利を勝ち取ったのが足腰げんき教室とラッパー彼岸のユニットで、シングル“SOFUBO”がCDリリースされた。改めて楽曲が出来上がった経緯を聞くとともに、誰でも発信できて活躍の場が無数にある現代に、メジャーとテレビが果たす役割についても話してもらった。
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リリックにもパフォーマンスにも「フリオチ」
ー前回のインタビューでは、まだレコーディング前の段階だったので「フリオチが効いている曲」という情報しかなかったのですが、なんと「祖父母」がテーマのサマーチューンという。
うちだすぺしゃるはーたみん(足腰げんき教室):夏といえばお盆、お盆といえば墓参り、お墓の中にいるのは祖父母。
くろさわ(足腰げんき教室):「祖父母の家に行きたい」っていう話になったんだよね。
彼岸:まず、夏にやりたいことリストを書き出したんですけど、その中にあったんです。他にも「海に行きたい」「スイカ割りしたい」「ナンパされたい」とか色々出たんですけど、サビに使うフレーズとして一番インパクトがあるのはどれかなと考えたら「おばあちゃん家だよね」と。私が<祖父母 いつかなるドクロ>っていう不謹慎極まりないリリックを思いついてラップしたら、2人とも気に入ってくれて採用になりました。

ーサビの1行目から出来たんですね。
彼岸:そうですね。サビはすぐに完成しました。夏休みにおばあちゃんの家に行くのって、友達と遊べなかったりするから、私にとってはちょっとハズレイベントみたいなところがあったんですけど(笑)、はーたみんさんはおばあちゃんのことが大好きなんだなって。
はーたみん:祖父母は大好きです。みんな忘れがちだけど、当たり前じゃないありがたみがありますよ。感慨深い曲になりました。
彼岸:<お墓参りも忘れずに>は、はーたみんさんが考えましたね。今までのヒップホップにはないサマーソングになりました。海とかナンパとかはありがちなので。
はーたみん:サビまでに彼岸ちゃんがめっちゃかっこよくラップしてくれてるんで、それがフリになってるんですよ。
彼岸:サビ直前の<今年こそはね いけるっしょ>で「どこに行くんだろう?」と思わせて、祖父母にいくっていう(笑)。歌詞以外にも、ライブではくろさわさんがDJの位置にいて、ラップじゃなくて急に歌い出すというパフォーマンスになってるので、視覚的にも聴覚的にもフリオチの構造にできたんじゃないかと思います。
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プレッシャーを隠してお手本を見せる20歳
ー足腰げんき教室のお2人にとってははじめてのレコーディングになりましたが、いかがでしたか?
はーたみん:めっちゃ楽しかったです。向いてるなと思いました。「こうやって曲が作られてるのか!」とも思ったし、普段自分が聴いてる曲もレコーディングの様子を想像できるようになったので、音楽をもっとかっこよく感じるようになりました。
彼岸:そう感じてもらえたのは、なんかうれしいですね。
くろさわ:音程にもすごくこだわるので、「もう1回やってみようか」と何度も歌い直したのがアーティストみたいでうれしかったです。
はーたみん:声を重ねるたりすると本当に深みが出るから、「すごい!」って。そういうことの繰り返しだったから、職場体験みたいでした。
彼岸:キッザニアだ(笑)。

1993年7月12日生まれ、埼玉県出身のくろさわと、2000年3月28日生まれ、広島県出身のうちだすぺしゃるはーたみんからなるワタナベエンターテインメント所属のお笑いコンビ。「深夜のハチミツ」(フジテレビ系)レギュラー出演中。うちだすぺしゃるはーたみんは『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)U-29新メンバー発掘プロジェクト候補生に選出されるなど、ライブだけでなく、さまざまな場面で活動中。
はーたみん:エンジニアという職業もはじめて知りましたし。エンジン系を直す仕事かなと思ってたら、サウンドエンジニアという方もいるんだなって。
彼岸:はじめてレコーディングする人は声の出し方がわからなかったり、カラオケのテンションで歌っちゃって声が薄くなったりするんですけど、2人は最初からバッチリでした。もうラッパーでしたね。トラックを作ってくれた餓鬼レンジャーのGPさんも立ち会ってくれて、ディレクションしてくれたんです。その指示も的確で超わかりやすかったですね。
はーたみん:「ねっとりした感じでラップしてみて」って言われて、とりあえず伸ばしてやってみたんです。それで正解だったみたいなんですけど、人によって「ねっとり」の感じも違うじゃないですか。1回目でハマれたんで、やっぱりアーティストに向いてるなと思いました。
くろさわ:GPさんに言われてハモりに挑戦したんですけど、1人でハモるなんて思ってなかったので、めちゃくちゃ難しかったです。何回も録ってなんとかOKが出たんですけど、妥協してる感じでした(笑)。彼岸ちゃんもすごくハモってたよね。
彼岸:4パターンくらい録ったんですけど、難しかったです。自分が一番レコーディングに慣れてるから、早く終わらせないとカッコ悪いなと思いながらやりましたね。

ーミュージシャンとして手本を見せなければというプレッシャーはあったんですね。
はーたみん:そんなこと考えてたんだ! ドシっと構えてレコーディングしてたから、「慣れてるんだな」と思ってました。心の中はそんなふうになってたの。かわいい20歳だ……。
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さらに楽しむなら知識が大事
ーお2人はMV撮影もはじめてですよね。
彼岸:あそこまで大掛かりなのは私もはじめてでした。おじいちゃんおばあちゃんが来てくれて、めっちゃ楽しかったです。
はーたみん:ずっと楽しかったよね。でも普段見てるMVにもこんなに手間がかかってるのかって思うようになりました。口パクで歌うのも、自分1人でふざけてやるのは楽しいけど、カメラの前でやるのはこんなに恥ずかしいのかって(笑)。
彼岸:はーたみんさんは今回の経験を通して音楽の聴き方がすごく変わりましたよね。それがすごくいいなと思います。
はーたみん:そう、だいぶ音楽が楽しくなった。
彼岸:知識って大事っすよね。
はーたみん:知識大事。MVの監督さんもかっこよかったし。

ーバラエティーのロケ収録とは違いました?
はーたみん:全然違いますね。MVは動作とかタイミングとか台本にすごく細かく書かれてるので、監督の作りたいものを一緒に作らせてもらう感じなんですよ。今私たちが出てるような若手の番組は、芸人の力を見せるべき場所なので、プレッシャーがすごい……。
彼岸:MVは演技に近いですよね。
はーたみん:そうそう、いただいたものを自分らしく面白く表現するという感じで。バラエティーは自分が今まで培ってきたものをどのタイミングで出すかが勝負なので、心の余裕が全然違います。
くろさわ:MVは監督の言うことをちゃんと聞いてた方が上手くいくもんね。タイムスケジュールも全部組まれてるので、その通りに進めないと日が暮れちゃって撮れなくなったりするし。けっこうタイトなんだなと思いました。
彼岸:でも、2人ともカメラ慣れしてるんですごくテキパキ進むんですよ。さすがでした。
はーたみん:よかったー。おじいちゃんとおばあちゃんとダンスを踊ったんですけど、おじいちゃんおばあちゃんすぎてグチャグチャになってるのが見どころです。
彼岸:そこはバレないように編集されてるかもしれない(笑)。うちらがおじいちゃんおばあちゃんに振り回されるストーリーになってるんで、そこにも注目してほしいですね。
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「推し」になれなくても優勝できる戦略
ー2024年8月にお台場冒険王のステージで開催された『ハチフェス』で優勝して今回のリリースを勝ち取ったわけですが、8組の芸人×ミュージシャンの中で勝ち抜く戦略はあったんですか?
彼岸:事前にTikTokでの投票もあったんですけど、そこは9番街レトロさんとかめちゃくちゃ人気がある人たちには敵わないと思っていて。会場投票は3組に入れられるシステムだったので、推しのグループに入れても2番手3番手に潜り込めれば優勝できるんじゃないかと思って、そのためのパフォーマンスを考えましたね。楽器がある人たちはあんまり動けないけど、うちらは自由に動けるから煽りまくれるし、一体感があるパフォーマンスができる。「楽しかったな」と思って票を入れてもらえることを狙って、めっちゃ成功しました。
くろさわ:私がスプレーからプシューって煙を出すのもすごい盛り上がりました。
はーたみん:あのプシューはよかったね。
彼岸:「ラップのライブって楽しいな」くらいの感想を持ってもらえればいいなと思ってたんで、ラッパーとしてもうれしかったです。
ーCDにはこの日のライブ音源も収録されていますが、はーたみんさんのラップもレコーディングバージョンとはかなり違いますよね。
はーたみん:あれが「魂で歌う」ということですよ。もう、かかりすぎちゃって。歌いながら本当に吐きそうになっちゃって。それを止めるために喉を閉じ気味に歌ったらああなりました。
彼岸:事故だったんだ(笑)。
はーたみん:とりあえず大きい声で歌ったら喉が潰れました。
彼岸:みんなゾーンに入ってましたもんね。

ラッパー。2004年生まれ。埼玉県出身。現役慶應大学生。高3の夏からラップを初め、MCバトルの全国大会である『第18回高校生ラップ選手権』や、『第二、三、四回激闘!ラップ甲子園』に出場した。シングル5枚、EP1枚を配信中。
はーたみん:パッションですよ。でも、アーティストの人たちってみんなそうなんじゃないですか? 私の好きなアーティストさんもライブだと全然歌い方が違ったりするし、そこがかっこいいじゃないですか。そういうのに憧れもありますね。
彼岸:くろさわさんも声枯れてましたよね?
はーたみん:2秒しか歌ってないのに。
くろさわ:魂込めて歌っちゃったので(笑)。袖で待機してると緊張するんですよ。いざステージに出たら真っ白になったんですけど、歌えたんです。ゾーンに入ってるのか分からないですけど、音がすごくゆっくりに聴こえるんですよ。
彼岸:はーたみんさんも緊張してたんですか?
はーたみん:めっちゃドキドキしてた。
彼岸:でも、ステージ出た瞬間に「お前ら立て立て!」ってめっちゃ煽ってましたよね。
はーたみん:彼岸ちゃんの煽りがめちゃくちゃ上手いから、芸人として負けたられないなって。ステージでやってみたいことを全部やらせてもらった感じです。
ーパフォーマンスの後のコメントも含めて、彼岸さんはすごく冷静でしたよね。
はーたみん:ラジオとかでも、伝えてほしいことを全部言ってくれるんですよ。
彼岸:芸人さんと一緒にやってるので、私もふざけると絶対に負けちゃうじゃないですか。なるべくMC役に徹して、同じ土俵に立たないようにしてます。ある意味、逃げなんですけど。
はーたみん:自分の居場所を見つけてるんだから、かっこいい女ですよ。
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不利な状況でも実力でひっくり返す
ー優勝が決まったとき、はーたみんさんが「男芸人に勝てると思ってませんでした!」と言っていたのがすごく印象的でした。
彼岸:あ、私も気になってました。
はーたみん:『ハチフェス』に関してそう思っただけで。芸人の芸人じゃない姿を見に行きたいファンがいるのは、吉本の男性芸人さんが圧倒的だと思うんですよ。ネタも好きだけど、その芸人さん自体が好きで、その人を見に行きたいという感覚のファンの方は、女芸人には少ないんですよね。あの日はそういうお客さんがほとんどを占めていたと思うんで、その人たちが選んでくれたのがうれしかったのと、「ちゃんとパフォーマンスで勝ったぞ」という気持ち、あと「みんなに期待に添えなくてすいません」という気持ちが相まって、ああ言ったんだと思います。

彼岸:男性芸人もそのファンも嫌いではないけど。
はーたみん:そうそう、別に何をされているわけじゃないので。でも、音楽とパフォーマンスで判断してくれた人がたくさんいたのはありがたかったです。
彼岸:個人的に、そこにはマジでめっちゃ自信があったんですよ。誰よりも自信があったと思う。MCバトルにもけっこう出場してるんですけど、やっぱり女性がほとんどいないから、「こいつを勝たせるのは違うな」っていう雰囲気があるんです。それでも、そこでいいラップしたら絶対に勝てるし、敵だと思っていた人が味方になる経験もめっちゃあるので、推しへの感情よりも音楽の力の方が強いという確信がありました。
はーたみん:お笑いでも、面白ければなんでも出来ますから。私たちはネタも見た目も女性っぽくはないので、違うジャンルで見られてる気もしますけど。
彼岸:実力で掴んだ勝利だというのが大きいですね。自分もすごく人気があるアーティストというわけじゃないし、TikTokでの投票みたいな企画もはじめてだったので、本当に楽曲とパフォーマンスでひっくり返せたと思います。