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坂本龍一を「回顧」せず、新たな音楽を生む実験場 『RADIO SAKAMOTO Uday』レポート

2026.3.11

#MUSIC

坂本龍一氏の「意思」を受け継ぎ、進化させ、拡張していくトリビュートイベント『RADIO SAKAMOTO – Uday』(以下、『Uday』)が、2026年2月13日(金)、東京・渋谷のSpotify O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、東間屋の3会場で開催された。

『Uday』は、ラジオ局「J-WAVE(81.3FM)」が20年にわたり放送してきた坂本龍一のレギュラープログラム『RADIO SAKAMOTO』の精神を継承し、現在進行形でアップデートする一夜限りのトリビュートフェスだ。2025年2月に同3会場でサーキット形式にて初開催され、坂本と縁の深い国内外20組以上のアーティストが出演。坂本の音楽と思想に敬意を捧げるステージは大きな反響を呼んだ。

第2弾となる今回も、世代、性別、ジャンル、国境を越えた多彩なアーティストが集結。青葉市子 with 小山田圭吾 & U-zhaanや、蓮沼執太といった坂本と直接交流のあった面々に加え、坂本へのリスペクトを語っていた江﨑文武、さらにD.A.N.、LAUSBUB、韓国からは250(イオゴン)やKIRARAらが出演。坂本のDNAを受け継ぐ国内外の才能が一堂に会し、駆けつけた老若男女のオーディエンスを前に、濃密なパフォーマンスを繰り広げた。

小袋成彬の圧巻のロングブレスにどよめき

会場のひとつであるO-EASTに到着すると、オープニングDJのCwondoがエクスペリメンタルでありながら、どこか儚く美しい響きを湛えたエレクトロサウンドを奏でていた。

Cwondo / Photo by Yukitaka Amemiya

続いて登場したのは小袋成彬。片倉真由子(Pf)、小林修己(Ba)、守真人(Dr)をサポートに迎えた4人編成で、3コードを基調としたシンプルなソウルブルースから幕を開ける。レイドバックしたビートの上で、小袋の太く伸びやかな歌声が会場いっぱいに広がっていく。

その後も“Tangerine”や“Kagero”、“Hanazakari”など、2025年にリリースされた3年ぶり4枚目のフルアルバム『Zatto』の収録曲を中心に披露。ホーンセクションを加えた通常のアンサンブルよりも音数をぐっと絞った構成だからこそ、艶やかで官能的なボーカルがよりダイレクトに胸に届く。なかでも“Kagero”のエンディング、<だからもう大丈夫 また会う日まで>で見せた圧巻のロングブレスには、会場から大きなどよめきと拍手が湧き起こった。

小袋成彬 / Photo by Yukitaka Amemiya

「サウンドラボ」の現場を覗くような蓮沼執太 + Cwondo + 野口文のステージ

すでに始まっている蓮沼執太 + Cwondo + 野口文のステージを観るため、duo MUSIC EXCHANGEへ移動。こちらのステージでは蓮沼執太がキュレーションする『HEAR HERE -GATHERING 3』が行なわれている。2025年に大きな話題を呼んだ展覧会『坂本龍一 | 音を視る 時を聴く』や『sakamoto common OSAKA 1970 / 2025 / 大阪 / 坂本龍一』でも実施した、「環境としての音楽」「聴取の実験」をテーマにしたプロジェクトだ。

ステージにはシンセやエフェクターなどの機材に囲まれ、ギターを抱えた野口文と、先ほどO-EASTでDJをしていたCwondoの2人だけ。あれ、蓮沼は……? とフロアを見渡すと、後方のPAブースのコンソール横にシンセを並べた彼が演奏している。フロアをトライアングル状に囲むイレギュラーな配置。そのユニークな試みに、オーディエンスの静かな興奮が漂う。

(左から)野口文、Cwondo / Photo by 上保昂大

野口は流麗なアルペジオを奏でたかと思えば、それをリアルタイムでサンプリングし、過剰なエフェクト処理を施す。CwondoはKAOSS PADやKAOSSILATORでシンセを変調させ、ときおりベースのボディを叩いてインダストリアルなノイズを生み出す。そして蓮沼は、そんな2人を見守るように鍵盤を弾き、モジュールを操作する。互いの音に反応しながら、アブストラクトで、どこかユーモアさえ感じさせるサウンドスケープを立ち上げていく様子は、まるで「サウンドラボ」の現場を覗き見ているかのようだった。

蓮沼執太 / Photo by 上保昂大

国を跨いで共鳴を感じるKIRARAの電子音楽

再びO-EASTに戻ると、サブステージでKIRARAが骨太のビートを繰り出していた。2014年のデビューEP『cts1』以来、国内外で高い評価を受けてきた韓国のエレクトロニックミュージシャン / プロデューサー。フューチャーベース、エレクトロニックポップ、EDMを融合させた高密度なトラックがフロアを包み込み、ひしめくオーディエンスは歓声を上げ、拳を振り上げながら踊り続ける。メインステージのバックスクリーンにはスペイシーで幾何学的なCGが音とシンクロしてうごめき、O-EASTは一気に多幸感あふれるクラブ空間へと変貌した。

コール&レスポンスが響き渡る“Contrast”、歪んだギターリフがフロアを切り裂く“Stargazer”、イントロが鳴った瞬間にボルテージが跳ね上がったキラーチューン“Wish”。いずれも力強いビートと高揚感に満ちたシンセの上で、ポップでキャッチーでありながら、どこか懐かしさと切なさを帯びたメロディが躍動する。このセンチメンタルな響きこそ、坂本龍一から受け継いだ感性を、自身のフィルターを通して再構築したKIRARAらしさなのかもしれない。最後は坂本の代表作『音楽図鑑』収録の名曲“SELF PORTRAIT”へとスムーズにつなぎ、両者の確かな共鳴を印象づけた。

KIRARA / Photo by Yukitaka Amemiya

ステージに漂う坂本龍一の気配

KIRARAに続き、O-EASTのメインステージに登場したのは青葉市子 with 小山田圭吾 & U-zhaan。今回の『Uday』のラインナップのなかでも、坂本と最も近い距離で交流してきた3人と言っていいだろう。2013年元日に放送されたラジオ番組『坂本龍一 ニューイヤー・スペシャル』では、坂本と細野晴臣を加えた特別編成でセッションを披露。小山田圭吾が長年Yellow Magic Orchestraのサポートを務めてきたことも周知の通りで、それぞれがさまざまな形で坂本と共演を重ねてきた。青葉がMCで「いつもはこの辺に教授がいて、一緒に演奏していました」と語った通り、ステージには常に坂本の「気配」が漂い、3人は親密なアンサンブルを紡いでいく。

青葉市子 / Photo by Yukitaka Amemiya

『攻殻機動隊ARISE』第2話「border:2 Ghost Whispers」のエンディングテーマとしてCornelius名義で書き下ろされ、青葉がボーカルを務めた“外は戦場だよ”、まるで映画のワンシーンのように風景が移ろう青葉の代表曲“IMPERIAL SMOKE TOWN”。そして、小山田がカズー、U-zhaanがアルトホルンを吹き、青葉が「TOKIO!」とコミカルに叫んで笑いを誘ったYellow Magic Orchestraの“TECHNOPOLIS”の脱力カバーと、見どころは尽きない。

U-zhaan / Photo by Yukitaka Amemiya

なかでも白眉は、Corneliusの“あなたがいるなら”だった。レコーディング音源では各楽器のグリッドを緻密にずらし、繊細なグルーヴを生み出している難曲を、今回は3人によるアコースティック編成で再構築。小山田と青葉の美しいハーモニーに、音程を変えた複数のタブラ(右手で叩く高音の木製太鼓)でアクセントを加え、バヤ(左手で叩く低音の金属製太鼓)で重厚なビートを築くU-zhaanのリズムが有機的に溶け合う。その瞬間を食い入るように見つめるオーディエンスの姿も印象的だった。続いて、大貫妙子と坂本のコラボ曲“3びきのくま”、U-zhaanの朗読と青葉の滑らかな歌声が交差する“川越ランデヴー”などを披露。最後は青葉の“太陽さん”を軽やかに奏で、静かな余韻を残してステージを後にした。

小山田圭吾 / Photo by Yukitaka Amemiya
青葉市子 with 小山田圭吾 & U-zhaan / Photo by Yukitaka Amemiya

江﨑文武の静かな余韻と熱狂を生み出すSTUTS

続いてサブステージに登場したのは江﨑文武。2023年に初のソロアルバム『はじまりの夜』をリリースし、その後のソロライブではバイオリン奏者・常田俊太郎らを迎え、自身はアコースティックピアノを弾く編成を取ってきたが、この日はシンセサイザーを操り、アンビエントかつスペイシーなサウンドスケープを描いていく。浮遊感たっぷりのシーケンスフレーズに、包み込むような柔らかなシンセの音色。『はじまりの夜』のアコースティックなアンサンブルとは趣を異にしながらも、そこに通底する洗練された「侘び寂び」のような精神性にはどこか共通するものを感じさせる。

やがて心地よいテクスチャーはゆっくりと輪郭を帯び、インダストリアルなビートやボイスチョップをコラージュしながら、よりエクスペリメンタルな空間へと深化。自身がサウンドトラックを手がけたドラマ『シナントロープ』のミステリアスなテーマへと接続すると、ライブはクライマックスを迎えた。最後は、厳かなオルガンの響きで坂本龍一の“Andata”を演奏し、静かな余韻を残してステージを締めくくった。

江﨑文武 / Photo by Yukitaka Amemiya

続いてメインステージに登場したのはSTUTS。目にも留まらぬ指さばきでMPCのパッドを叩き、グルーヴィーなビートを次々と生み出していく。どこか東京の下町を彷彿とさせる猥雑さとノスタルジーを湛えた“Renaissance Beat”、SIKK-Oと鈴木真海子をフィーチャーしたメロウな“Summer Situation”、コンプレッサーの効いたピアノループが郷愁を誘う“Conflicted”と、人気曲を立て続けに披露。オーディエンスはそのたびに歓声を上げる。

STUTS / Photo by Yukitaka Amemiya

さらに、tofubeatsを迎えた多幸感あふれる“One”、ジョーダン・ラケイとのコラボによるソウルチューン“Celebrate”では、幅広いアレンジ力とソングライティングの確かさを改めて印象づけた。クライマックスは大貫妙子とレコーディングし、江﨑文武の音源を一部サンプリングして作った“いい湯だな”へ。レイドバックしたビートに江﨑の繊細なコードワークが重なり、大貫とSTUTSの和やかなハーモニーが会場をやわらかく包み込んだ。台湾のシンガー、ジュリア・ウーとのコラボレーションで生まれた本邦初公開の新曲“Tokyo Lights”、さらに既発曲“Night Drive”を経て、PUNPEEをフィーチャーした“夜を使いはたして”でフロアの熱気は最高潮に。また、2025年に開催された『虎ノ門広告祭』のために彼が制作した、坂本が手がけた数々の名作広告音楽をサンプリングした「公式アンセム」も初めてライブで披露された。

STUTS / Photo by Yukitaka Amemiya

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