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「新作で面白いと思えた作品があまりなかった」(川添)
ー川添さんは2025年ご覧になった作品の中で、どれが1番よかったですか?
川添:「今からでも観られる」という意味では、劇団四季の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』です。
山﨑:評判いいですよね、気になってました。
川添:絶対に観た方がいいです! 開幕したての頃はチケットが取りにくかったんですが、多分そろそろ取りやすくなっていると思うので、この記事を読んで「観たい!」と思っても間に合うはずです。
劇場をこの作品用にカスタマイズしているので、ロングラン公演だと思いますし。映画をリアルタイムで観た世代の人には、ドンピシャな作品になっていると思います。映画内で使われていた曲も流れるし、グレン・バラードが新曲も書き下ろしているし、デロリアンももちろん出てくるし。もう、アトラクションみたいなものですね。
丘田:気になります。
川添:懐かしさもあるし、照明や舞台の転換の方法のすごさもあるし、劇団四季の人たちなので、演技も歌もダンスも上手くて、王道の楽しさがありましたね。あと、1980年代のSF映画で描かれていた、私たちの未来はどんどん良くなるみたいな夢って、今とは随分様相が違うな、みたいな味わい深さもあったりとかして。
ー気になっていたのが、事前に川添さんに2025年の観劇作品についてお聞きした際に、「新作で面白いと思えた作品があまりなかった」と仰っていたことです。そこについてもお伺いしたいなと。
川添:歳を取ってしまって新鮮さがなくなっているところも多分あるんだと思いますが、これまでお2人と話してきて思ったのは、1日だけだったら俳優も出られるとか、『Weathering』の回る舞台の発明とか、こうした座談会で求められる全く新しいフォーマットって、小劇場やインディペンデントなもの、アングラなものからしか生まれ得ないと感じていて。
さらに言えば、私がメインで観ているような、ある一定の規模を持っている劇場は、コロナ禍を経てまだ汲々としている状態なので、なかなか新しいフォーマットが生まれにくいのかもしれません。色々なことを考えている団体はいるので、絶望的ということを言いたいわけではないんですが、これがこうなったら面白いのにな、という「惜しい」作品が多くて。新作で面白かった作品があまりないと思ったのは、そういったところにあるのかもしれないです。
ーそれは2025年に限った話ですか?
川添:2025年なのかな……。でも例えば、KAAT×新ロイヤル大衆舎 vol.2『花と龍』は、舞台美術が面白かったですね。舞台上に屋台を作っていて、開演前はそこに座って焼きそばを食べたりできたんです。でもいざ開演して、さっきまでガヤガヤしていた舞台上が演劇空間になると、木でできたシンプルな舞台美術の見え方が照明でガラッと変わった。この趣向は素敵だと感じました。

丘田:私もすごく好きでした! それこそ、劇場で飲食をするって、コロナ禍では絶対にできなかったことなので、なんだか感慨深くてグッときました。作品の内容も含めて、社会に対するカウンターみたいなものも感じて……。安藤玉恵さんが激動の人生を強く生きる女を痛快に演じていらっしゃったのも素敵で、めちゃくちゃ元気をもらいました。


川添:劇場空間の特別さを感じさせる演劇関連で言うと、昨年は劇団はえぎわが25周年で、本多劇場で『幸子というんだほんとはね』という公演を打ったんです。冒頭は何も美術が置いていない裸の舞台の状態で、そこに本多劇場で新作を上演するという劇団が下見にやって来て、劇場の人が「ここはこうなってるんですよ」みたいな説明をするところから始まりました。

川添:劇中、画家の下田昌克さんのライブペインティングによって白い大きなパネルに絵を描いていくシーンがあるんですが、それによってだんだんと下北沢の街の様子が立ち上がり、登場人物一人ひとりのストーリーが見えていく……というような構成。「本多劇場でやる」「下北沢でやる」あるいは、想像力で素舞台に「見えないものが見えてくる」ことを感じる公演になっていました。物語は全く新しいものなのに、彼らの過去作もさりげなくコラージュされていたし、感慨深い公演でしたね。


川添:『花と龍』や、はえぎわの公演を通して感じたのは、コロナ禍もあったし、それによって配信も行われるようになったりして、お客さんをどういう風に劇場に連れてくるのか、劇場空間のスペシャルなところをどうやって感じてもらうか、というのを演劇人は今色々と考えているんだろうなということでした。はえぎわの公演は評判になって、最終日には本多劇場の外まで当日券を求める人の行列ができていたんですよ。今時こんなことがあるんだって、ちょっと夢が見えましたね。
丘田:開幕してからがすごかったですよね。私も3日目ぐらいに観ましたが、本多劇場が人で溢れ返るという風景に思わず胸がいっぱいになりました。ライブペインティングはもちろんですが、劇中歌もすごくよくて、絵と音楽と俳優が一つの心象風景を生み出し、時の流れや街の移ろい、人々の人生の折々の瞬間が描き出されていました。
後編では演劇におけるジェンダーやセクシュアリティの扱われ方、2026年以降の演劇界で注目していきたいことを深堀り。