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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

千葉って楽しい。『千葉国際芸術祭』で撒いた、アートに参加する楽しさの種

2025.12.3

『千葉国際芸術祭』

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初開催となる『千葉国際芸術祭2025』の集中展示 / 発表期間が11月24日で幕を下ろした。3年に1度のトリエンナーレ方式で実施される、千葉市の各所を使った都市型のアートフェスティバルだ。サブタイトルは「ちから、ひらく。」。アートの力で地域をひらき、人々の心をひらく体験を、千葉から世界へ発信している。

国際芸術祭として、日本人作家のみならず、さまざまな国のアーティストが参加している『ちばげい』。千葉駅周辺に加え、西千葉や海浜地区など6つのエリアで大規模にプロジェクトを展開したが、特筆すべきは作品展示に収まらないこと。市民参加が重視されており、リサーチやワークショップなど、ほとんどのプログラムに千葉市民が参画。「地域リーダーズ」という運営スタッフチームも千葉市近郊在住の専門家が中心となっている。

では、その実態はどんなものなのだろうか? 今回はアートユニット・岩沢兄弟のいわさわたかしと、西千葉の創造的な場づくりに長年携わってきた西山芽衣という、「地域リーダーズ」のメンバーを務める2人の対談をお届けする。「ちばげい」のチーム体制やプロジェクトの新規性、そして市民の価値観の変容まで、芸術祭のコミュニティセンターとなっている「アーツうなぎ」にて話をうかがった。

芸術祭を機に、「実は千葉にいた」プロフェッショナルが大集結

―新しい芸術祭として『千葉国際芸術祭』が2025年から始まりました。拠点となるエリアも多く、大規模に展開しているアートフェスティバルだと思います。まず今回のインタビュー会場であり、この芸術祭のコミュニティセンターでもある「アーツうなぎ」、おもしろいスペースですね。

いわさわ:ここはもともと「うなぎ安田」という鰻屋さんだったんです。2014年に閉店したんですが、物件はそのまま残されていたので、芸術祭をきっかけにコンタクトを取って。みんなで掃除から始めて、2階はイベントスペース、1階は僕ら岩沢兄弟の展示空間とアトリエとして改装していきました。千葉県庁の目の前にあって人通りも多いので、この店で作業をしていると、街の人にも「何かが始まるんだ」という雰囲気が伝わるんですよ。実際、昨年からここで作業をしていると、扉をガラッと開けて話しかけてくれる方も多くて。

左から西山芽衣、いわさわたかし

―地域の人とのコミュニケーションは展示会期の前から始まってたんですね。最初に、いわさわさんと西山さんの『ちばげいとの関わり方を教えてください。

いわさわ:まず、僕はアーティストとして岩沢兄弟とTMPR(てんぷら)というグループで作品を出展してます。

岩沢兄弟としては、「アーツうなぎ」の空間を活用しながら「キメラ遊物店」というお店として運用していくことが作品です。また、この「市場町・亥鼻エリア」のエリアディレクターと、地元と芸術祭のつなぎ役であるリエゾンディレクターという役職でもあります。TMPRとして自分たちの作品もつくりつつ、いくつもの役割を並走して担っていたので、ほとんど準備期間の記憶が飛んでるくらい(笑)。

いわさわたかし
岩沢兄弟の弟。1978年千葉県生まれ、武蔵野美術大学短期大学部生活デザイン学科卒業。クリエイターユニット「岩沢兄弟」の企画とディレクションを担当。学⽣時代よりフリーランスとして映像制作、ウェブ制作などを手掛け、2002年有限会社バッタネイションを兄とともに設⽴。「モノ・コト・ヒトのおもしろたのしい関係」を合言葉に、人や組織の活動の足場となる拠点づくりを手掛けている。空間・家具などの立体物設計、アナログとデジタルを活用したコミュニケーション設計を得意とする。プロダクト開発やワークショップ等も多数手がけ、近年は瀬戸内国際芸術祭出品をはじめアートフィールドでも活動している。
キメラ遊物店 / アーツうなぎ

西山:私はジェネラルプロデューサー、クリエイティブディレクター、そして西千葉エリアディレクターという3つの肩書きがあります。ジェネラルプロデューサーとしては、総合ディレクターの中村政人さんや実行委員会の人たちと一緒に芸術祭全体の方向性を話し合ってきました。あとは協賛金を獲得したり、展示場所を探して交渉したり、チームメンバーを形成するために足りていない人材を地域から引っ張ってきたり……広範囲でいろんな仕事をしています。

クリエイティブディレクターとしては、デザイナーさんと一緒に制作物の提案や管理、またエリアディレクターとしては、西千葉エリアで実施されるプログラムに関してアーティストやプロジェクトチームと伴走してきました。

西山芽衣(にしやま めい)
株式会社マイキーのディレクター / 『千葉国際芸術祭2025』ジェネラルプロデューサー。1989年、群馬県生まれ。千葉大学工学部建築学科を卒業。まちづくりの企画プロデュースを行う(株)北山創造研究所に入社。2014年、「HELLO GARDEN」「西千葉工作室」の企画 / 立ち上げを行う。2015年、「HELLO GARDEN」「西千葉工作室」の運営母体であるマイキーに入社。2019年、「子ども創造室」を企画 / 立ち上げ / 運営を行う。企画 / コンテンツ開発 / クリエイティブディレクション / 人材育成など幅広いスキルを活かして、西千葉のみならず日本全国で人の日常の舞台となる場づくりと人々の創造的な活動のサポートに取り組む。

―お2人とも八面六臂の活躍ですね。千葉に対する強い思い入れを感じますが、西山さんは千葉大学の卒業生なんですよね。

西山:はい。地元は群馬なんですが、千葉大学に入学してからずっと千葉に住んでいます。とくに、西千葉エリアのまちづくりにはずっと携わってきました。自分が住んできた街でもあり、地域活動をしてきた場でもあるので、そこで芸術祭が行われるとなれば、私にとっては他人事ではありません。

―西千葉は、どういう地域なのでしょうか?

西山:西千葉駅は快速が止まらない駅なので、開発が行われるわけでもなく、個人店が多く人の顔や個性が見えるようなエリア。そういうスケールだからこそ、街の人たちと知り合うきっかけがたくさんあります。また千葉大学があるため、たくさんの若者が出入りしてきた地域でもある。「文教都市」としての誇りもあるから、外から来た人に対して寛容で、新しいことを受け入れる許容性もあるんですよね。

もともと私たちの会社では「HELLO GARDEN」や「西千葉工作室」といった場づくりをしてきましたが、それも地域が応援してくれる空気があったからできました。まちづくりの活動をしているNPOもたくさんあるし、ここ15年ほど小さな動きがたくさん起こっているエリアです。今回芸術祭を西千葉で展開できたことで、アーティストのみなさんの力で新しい風が吹きましたし、西千葉が次のステージにいける兆しやポテンシャルも感じています。

『ちばげい』エリアマップ
千葉市の中で、比較的様々な駅に散らばっている。モノレールや電車、自転車や徒歩、もちろん車などで移動可能。

―いわさわさんは千葉市出身だと聞いています。

いわさわ:僕はこのすぐ裏のあたりで育ちました。ただ近所の小学校に通っていた頃から、あまり地元意識はなかったんです。中学高校時代も違う街の私立校に通い、大学は武蔵野美術大学だったので東京を満喫していました(笑)。その後アーティストとして全国の地域プロジェクトに関わってきたんですが、僕と兄にそれぞれ子どもができたタイミングで「地元に戻ってみよう」と。子育てをする環境という視点で千葉市を見たとき、自分も子どもも楽しく過ごせる場所をどうやってつくれるだろうと考えながら、この芸術祭に関わってきました。

観光型ではなく市民参加型。目指すのは、市民の意識が「ひらく」こと

―お2人は「地域リーダーズ」も務めているそうですが、主にどういった活動をするポジションなのでしょう?

西山:地域リーダーズは、芸術祭をつくるにあたって貢献できる専門性を持った人材の集まりです。実はそういう人たちは千葉市にたくさんいるんですが、お互いを知っていても一緒に何かしたり、千葉のためにスキルを活かしたりする機会があまりなかったんですね。私自身、たしかに千葉で長く仕事をしてきたんですが、千葉市全体の大規模なプロジェクトに携わったことはありませんでした。

そんな人たちがこの芸術祭をきっかけに、それぞれの持つ専門性を千葉という街に対して活かす機会が生まれました。地域リーダーズと共に何かを起こすことで、地域の関係性が変化することが大事だと思っています。いま20名くらいの地域リーダーがいるんですが、そのうち3分の2くらいは千葉でもともとつながりのあるメンバーで、公募を見て参加してくれた方も何人かいます。

2024年10月に開催した最初の記者発表会の様子。市長や総合ディレクターとともに、地域リーダーズのメンバーも壇上に上がった。メンバーはさらに増え、2025年6月現在では20名が在籍。

いわさわ:千葉市以外のメンバーもいますけど、ほとんどが千葉県在住ですね。

―「地域の可能性をひらく 参加型アートプロジェクトの祭典」と謳っているように、そもそも『ちばげいは市民参加を強く掲げています。

西山:芸術祭としての方針は、写真映えする屋外彫刻を見て回るような観光型というより、まちづくり的な要素も含んだアートプロジェクト型になっています。全ての作品に何らかのかたちで市民が参加しているんですよ。

大事なのはプロセス。できあがった作品を鑑賞するとか、付随的に用意されたワークショップに参加するということではなく、リサーチや素材集め、制作などの各段階に市民が関わっています。もちろん他の芸術祭でも市民参加のプロセスは重視されていると思いますが、その部分を特徴として打ち出して、少しでも多くの市民に関わってもらうことを目標にしているのが『ちばげい』ですね。

市民の方々がアーティストやプロジェクトと深く関わっていくことで、自分なりに何か発見したり、考えたり、そこで出会った人たちと新しい関係性が生まれたりする。結果的に市民の意識や行動に変化が起こることで街全体が変容し、それが千葉市の未来をつくっていくことを目指しています。

アリーナ・ブリュミス & ジェフ・ブリュミスによる「家族との晩ご飯へ贈られる絵画」は、夫婦でもある2人組のアーティストが、家族の晩ご飯への招待と引き換えに絵画をプレゼントするプロジェクト。

藤浩志による『33年後のかえる』では、子どもたちが不要になったおもちゃを交換する「かえっこバザール」を2024年より千葉市内の複数箇所で開催し、回収したおもちゃで作品が制作されている。

加藤翼による「引き興し/倒し:Pull and Raise/Topple」では、加藤翼がフィールドワークの中で、幸町団地に50年以上住み続けている方々、その孫世代にあたる現役の子育て世代の方々、外国人住民の方々にインタビューを行った。そして、団地の一室を原寸で再現した構造体を広場に設置し、8月30日の団地祭と連動させながら、住民たちと共にロープでひっくり返すパフォーマンスを行った。

アートが市民の心の開き方を変えた。実際の反応と手ごたえ

―これまで市民の方との関わりで印象的だった場面やプロジェクトはありますか?

いわさわ:自分たちの「キメラ遊物店」で言うと、まずは近隣の商店との関わりがあります。鰻屋さんに残された食器類等を加工して作品をつくっているんですが、他にも「松屋陶器」という最近閉店してしまったお店から看板や什器をいただきました。それらを作品の素材としてサルベージしています。

岩沢兄弟による「キメラ遊物店」内の作品。「Scratch(Un)Built」というシリーズで、さまざまな食器や製品の塗装が半分削られている。

いわさわ:街の人たちがよく声をかけてくれるから、いろんな話を聞くのもおもしろい。「よく食べに来てたよ」とか「ここで同級生が働いてたんだ」とか。なんというか、その人にとって開示するきっかけのなかった記憶が、僕らのところに集まってくるんですよ。おそらく場所が持つ記憶ってそういうもの。僕らはそれをアーカイブして作品にするわけではないけど、「アートのことはよくわからない、でも何か話したくなる」と、街の人の心の開き方が変わる感覚があります。

―アーティストに対しては市民のマインドもオープンになりやすいと。

いわさわ:作品について対話していると、唐突にその人の記憶に接続できるときがあります。そうすると僕らの街の解像度もグッと上がりますし、そういう体験ができるのが街場でスペースを開く醍醐味ですね。

先日、この市場町で街歩きのワークショップをしたんですが、それをきっかけに参加者から自主的にアイデアが出て、「アーツうなぎ」や近隣の店舗を使わせてもらうマルシェ『いちばのいちば』を開催することになりました。市場町は新しくカフェができたり、老舗の和菓子屋さんが営業していたりするものの、シャッターが降りている店も多い。ただ、そういう物件に街歩きでアクセスしていくと、「芸術祭で何かやってるの?」「土日なら軒先を使っていいよ」みたいな会話が生まれる。そうすると、ワークショップ参加者がこの街のポテンシャルに気づくわけです。

ワークショップから生まれた市民主体のイベント「いちばのいちば」

―ここは県庁のすぐ側ですが、まだ空間的な余白が残っているんですね。

いわさわ:この辺は県庁のお膝元、いわゆる官庁街なので、もともと住民が少ない地域。千葉駅から一駅離れていて、店舗は減っていますが、代わりにマンションが建ち始めて、若い世代やファミリー世帯が増えています。ただ、昔からこの街で神輿を担いできたような旧住民と、最近子どもを小学校に入れたような新住民とで、地域住民が二分されているところがある。その2層をつなぐ動きが少しづつできているのかなと思いますね。

―市民との関わりを感じるプロジェクトという点で、西山さんはどうでしょう?

西山:たとえば前島悠太さんというアーティストが実施している「対話について」というプロジェクトが印象深いです。展示物としては文字の書かれているハンカチをつなぎ合わせた旗になります。前島さんは千葉市民たちと何度も少人数で対話の時間を持ってきました。そこでは真ん中にハンカチが置いてあって、初めて会った数人の参加者が、テーマを決めずに何らかの話をします。そのとき話しながら書き留めたメモや落書きが、対話の記録としてハンカチに残されるという仕組みです。

西山:頭の整理のつもりで書いている人、おもしろいキーワードを書き記す人、何の意味もないものを書く人といろいろ。答えや結論にたどりつくわけではない対話に、みんな頭を悩ませたり、ハッとしたり、ときにはモヤモヤしたり、そういう時間を積み重ねます。その対話した時間の痕跡として旗が立っているんです。

対話の時間を経たことで、ほとんどの方が確実に自分のなかで変化が起こったという手応えを持って帰っていました。もちろん何百人もが参加したプロジェクトではありませんが、一人ひとりの心に深く刺さり、何か変化が生まれたということに、この芸術祭を開催した意義を感じましたね。旗を鑑賞した人たちも、ふと目にしたキーワードが何か考え始めるきっかけになったりと、対話や思考の連鎖みたいなものも生まれていて。

―アーティストと市民、市民同士、そして作品と鑑賞者など、多角的に対話が生まれたわけですね。

西山:あと、西千葉エリアでやっている西尾美也さんによるプロジェクト「まちばのまちばり」は、密度の高い市民参加を実践できていると思います。西尾さんは「装う」をテーマの一つとするアーティスト。独自の洋服を装うことで新しい視点を持ち、違う自分になれたり、他者や街とのコミュニケーションや関係性が変わるきっかけづくりを目指しています。「まちばのまちばり」では、そんな西尾さんが地域のなかでテーラーを育て、晴れて「まちまちテーラー」として認定された市民が、ユニフォームや洋服のを受注するというもの。

ワークショップの様子

西山:ワークショップでは毎回「〇〇の人」というお題が出ます。「音の人」であれば音が鳴る服をつくり、それを着て音を鳴らしながらみんなで一緒に街を闊歩する、「のりしろの人」であれば他者を自分側に招き入れ、新しい関係性づくりを目的に洋服を考えてみようなど、テーマはさまざまです。

服づくりのスキルというより、装うとは何なのか、自分はどんな暮らしをしたいのか、誰とどんな関係性を築きたいのかを問われます。面談の時間もあるんですが、少し自己開示もしながらアイデアを話すと、西尾さんがアーティストならではの視点で、漠然とした参加者のイメージを言語化してフィードバック。参加者はそこに大きな学びがあるとおっしゃってますね。

―なるほど、服づくりを通して自分自身を見つめ直すことができる。

西山:展示には、ワークショップを通じて参加者がつくってきた洋服が全て飾られています。展覧会はその人たちの作品発表の場であると同時に、西尾さんのインスタレーション作品でもあります。

公園に隣接した高架下に「まちまちいちば」が出現。まちまちテーラーの商品見本市であり、仕事場でもある。会期中、ここを訪れた人はまちまちテーラーに洋服をオーダーすることができる。

西山:西千葉にはZOZOTOWNの本社があるので、実は参加者が制作の素材としている服は、ZOZOが回収したけど販売できない古着を提供してもらったものが多いんです。また近隣の方に持ってきてもらったものもあります。さらにワークショップのサポートをしているのは、千葉市民でもある「西千葉工作室」のスタッフたち。このようにいろんなレイヤーで市民参加が起こってるんですよ。

―「対話について」も「まちばのまちばり」も、作品展示だけでなく会期前後の市民によるコミットメントが重要になっているんですね。

いわさわ:僕のサポートしたプロジェクトで言えば、チャン・ジエさんの「街に巡る優しさ」がおもしろい。円形につくった大きな黒板を、花見川区役所の敷地内に設置しています。とくに説明は書いてないんですが、黒板とチョークの持つパワーがすごくて、日に日に絵や文字が描き込まれていく。

いわさわ:区役所内には図書館があるので親子連れも多く、子どもたちが隙間を見つけては何か描き込んでいる。それは普段、子どもたちが「やっちゃいけないこと」だと考えている「黒板に自由に好きなことを描く」という欲求に応えられる造形になっているからだと思います。長く線を引きたいとか塗りつぶしたいといった、描くことのプリミティブな喜びに溢れているんです。

しかも、黒板のなかで時間差の対話のようなものも生まれています。僕は「描くスペースがなくなったら消せばいい」と考えてたんですが、チャンさんは「隙間があれば誰かが何か描くだろうから、そのままでいい」と。実際、みなさん余白を見つけるのがうまくて、板の厚みの部分に描くことを発明した人もいる(笑)。コントロールしてないのに場が生まれていることに驚きますね。

―独特な形状の黒板が、自由に描くことを促す一種のプラットフォームとして機能してるんでしょうね。

いわさわ:もう一つ例を挙げると、宮本はなえさんの「ちから、ちへ」。芸術祭のトレードマークである「ち」のロゴを立体として切り出し、市内の福祉事業所10か所を回って色を塗ってもらうプロジェクトです。

いわさわ:宮本さんご自身も福祉施設の生活支援員で、知的障害のある方々と日々接しています。僕もワークショップに帯同しましたが、施設利用者の方が職員さんも驚くような積極性を見せていました。画材もいろいろで、利用者の方々が自分の得意なことを拡張するように制作に没頭するさまを目の当たりにできたことが、とても印象的でしたね。

市民の当たり前をゆさぶる芸術祭が生む、千葉の未来への期待感

―最後に、会期も終盤にさしかかった『ちばげい』ですが、芸術祭としての手応えはいかがですか?

西山:私は今回初めてアートの分野に仕事として関わらせてもらいました。この言い方が適切かどうか分からないんですが、そもそもアートって得体が知れないものじゃないですか(笑)。でもすごいなと思ったのは、市民のアートに対する「得体は知れないけれども期待感はある」という空気を強く感じたことなんです。

分からないからと拒絶するのではなく、自分たちの地域にアートが来ることを、みんな意外とおもしろがっているし、経済効果だけではない、何かを期待している。私が携わってきた「まちづくり」では、やっぱり結果を事前に問われることが多いんです。でも、アートって別に結果を出すことが目的ではないじゃないですか。だからこそアーティストは自由な発想ができるし、市民の方々も「まずはやってみよう」というスタンスでいられる。そういう「分からなさ」をみんなで抱えていくって、すごく意味のあることだと思います。

―「芸術には得体の知れない期待感がある」というのは、本当にその通りですね。

いわさわ:僕としても「いい違和感を地域にばら撒けてるな」と思います。あと印象深かったのは、僕らのスペースに来てくれた人に「近所で芸術祭をやってくれて本当にありがたい」と言われたこと。その方は、いろんな地域の芸術祭をメディアを通じて知っていて、行ってみたいと思っていたけど、飛行機や宿泊施設を押さえてまで行こうとは考えてなかったから、徒歩圏内で芸術祭が開催されて嬉しいと(笑)。このようにアート好き以外の人たちに裾野が広がり、地域の人たちも参加者になってくれていると感じますね。

西山:私が芸術祭をやってよかったと一番思えた言葉は「当たり前がくずれた」。いろんな場所で何人もの方に言ってもらった言葉です。芸術祭をきっかけに街の景色が変わっていくことも大事ですが、この街で生きる人たちの価値観が更新されていくことに希望を感じます。

いわさわ:アートって、必ずしも全て分かる必要はないんです。何か分からなくても、勇気づけられたとか、心が動いたということが大事ですよね。だから『ちばげい』で何か一つでもグッと来る出会いがあれば、みんなもっとこの街を好きになってくれるんじゃないかな。

『千葉国際芸術祭2025』

集中・展示発表期間は終了したが、今年度最終イベントを以下のとおり開催予定。

3年後の“ちばげい”にバトンを渡そう!
アーティストもボランティアも市民も運営も
みんなで話す、ぐるぐるラウンドテーブル

日時:2025年12月20日(土)10:00〜12:30
会場:千葉市役所 (千葉県千葉市中央区千葉港1-1)
参加費:無料
対象:千葉国際芸術祭2025に関わった一般参加者、ボランティア、アーティスト、運営メンバー

公式サイト:
https://artstriennale.city.chiba.jp/

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