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「最初で最後のコンサート映画」からの引用、選曲の意図
─“Merry Christmas, Mr. Lawrence”や“The Sheltering Sky”などの演奏シーン、それからアルバム『12』の曲も映画に登場しますが、これはどういった基準で選曲されましたか?
大森:前提として、自分が意識的に選曲したというよりは日記の時系列に沿って、そのときに演奏した、あるいは作った曲を選んでいます。『12』は曲名がそのまま作った日の日付けになっているので、作中の時間に合わせて、自ずと曲は決まりました。
『Ryuichi Sakamoto | Opus』の20曲の中から“The Sheltering Sky”を選んだ理由としては、映画の原作者であるポール・ボウルズの詩(※)も象徴的ですし、演奏の最後のほうに、ぐーっとカメラが回っていくようなカメラワークなど映像としても素晴らしいと感じたからですね。曲自体も、坂本さんが残したものの、ひとつの頂点なのではないかと思います。
※筆者註:「人は自分の死を予知できず、人生を尽きぬ泉だと思う、だがすべて物事は数回起こるか起こらないか。(中略)あと何回、満月をながめるか、せいぜい20回。だが人は無限の機会があると思う」というポール・ボウルズの詩の一節のこと。ベルナルド・ベルトルッチ監督映画『シェルタリング・スカイ』(1990年)の作中で語られる言葉であり、坂本は2017年作『async』収録の“fullmoon”の朗読で引用する他、晩年の自伝のタイトルを『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』とした。『Diaries』の冒頭でもこのフレーズが引用されている。
大森:“The Sheltering Sky”の演奏は、尺としてはやや長いし、もっと静かな“aqua”や、より有名な“The Last Emperor”のほうがいいんじゃないかという声もあり、スタッフのあいだで議論はありました。
最終的に“The Sheltering Sky”でいくことで、ご遺族も納得されましたし、必然性のある選曲になったかなと思います。私も“The Sheltering Sky”が一番いいと思っていましたし、そういった点では自分の意志も反映されているかもしれません。