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ロバート・グラスパーとの初共演で感じた「居心地の良さ」と緊張感
―そして最後はロバート・グラスパーです。リハーサルで初めて演奏した時どうでした?
石若:居心地がとても良かったです、かなり緊張はしましたけど。別のスタジオでリハをしたとき、ドラムセットに座ったらもう勝手に演奏が始まってたんですよ。サウンドチェックのときでも、誰かがポロって演奏したら、その演奏に合わせて音楽を作っていくので、その瞬間がすごく楽しかったです。
最初にマーティのベースのチェックも兼ねて、スウィングフィールを弾いていたら、グラスパーが(セロニアス・)モンクみたいなフレーズを弾いたんですよ。そのときに「ジャズのフィール」を強烈に感じました。そのモンクのようなフレーズからセッションが始まり、だんだんそのテーマの一部分を抽出してループにした瞬間もあって。僕らも「そこがループになるんだ!」って気づいて、それについていったんですよね。

石若:その一連の演奏の流れが非常に自然だったんですけど、それって彼がずっとやってきたことが僕らに染みついてるってことでもあるし、彼が作ってきた音楽が世界中に影響を与えていて、実際に彼と一緒に演奏したことはなくても、彼から影響を受けたミュージシャンたちと僕らは日頃から演奏をしているので、きっと居心地が良かったと思うんですよね。
―リハが始まってすぐにロバート・グラスパーは笑顔になっていましたよね。3人で少し音を出した瞬間に「いけるな」って感じの顔をグラスパーがしてた気がするんですけど、それって感じました?
石若:感じましたね。「YEAH YEAH MEN」みたいな雰囲気ですげえ嬉しかったです。

―スタジオに入ってきたときは「誰だかわからない日本人とやるんだろうな」って感じだったのが、音を出した瞬間に「こいつできるな」って顔に変わったように見えました。
石若:いい瞬間でしたね。あの映像って残ってないですか? 観たい……。
WOWOWスタッフ:残ってますよ。
―それも表に出るといいですね。リハの最後に「グレートミュージシャンに時間は必要ない」って言ってましたね。
石若:「もうリハ終わり?」って聞いたら「大丈夫だ」みたいな。
―だから、僕はリハが始まった瞬間に「上手くいくな」って思いましたが、実際にステージでグラスパーのバンドに入って、5人で演奏したときはどうでしたか?
石若:やっぱり本番はかなりピリッとしてましたね。「駿が仕切ってんだろ、どうすんだ?」みたいな視線を送られた瞬間もあり、本番では試されるような瞬間が結構ありました。ジャスティン・タイソン(Dr)がオープンな気持ちでずっと隣にいてくれたのが心強かったです。

―リハのときもグラスパーからアイコンタクトで、「もっと来いよ」みたいな指示がありましたよね。本番で試されていたり、もっとやれって言われていた瞬間って、どういうところで聴けますか?
石若:グラスパーのピアノソロが終わったところで、「駿がいくか?」「ベースソロ行かない?」「じゃあ、駿がいく?」「よし、俺がいきます」って感じで、ベースソロをパスして、こっちに来たときのみんなの表情は面白いと思いますよ。
―映像で確認したいですね、それ。
石若:あと、ロバート・グラスパーのバンド+僕の5人で演奏して、その次にマーティとのトリオでやるときに、僕がグラスパー以外のバンドメンバーをステージから送り出したんです。で、その後、グラスパーがすぐに弾き始めるかなと思ったら弾き始めなかったから、ドラムイントロにしちゃって、そこから次の曲のビートに何となくいこうかなと思って叩き始めたんです。でも、グラスパーが飲み物を飲んだりしてたから「これは彼のピアノからいきたいんだろうな」と感じたので叩くのをやめたら、ちょうどグラスパーの演奏が入ってきました。
そういう、言葉じゃないやり取りを、あの場でできたのは貴重な体験でしたね。お客さんからは「あれ、石若叩くのやめちゃった?」みたいに見えたかもしれないけど、実際はそういうちゃんとした意思の疎通があって。みんなの目の前で「リアルな瞬間」が起きたのは面白かったんじゃないでしょうか。

―それも放送・配信で確認したいですね。マーティとのトリオはどんな感じでしたか。
石若:今回の公演内で、これまではいろんな歌ものをやってきたけど、マーティとグラスパーとのトリオの時は、ジャズの心が全面に出ていたと思います。お客さんが沢山いる会場のこととかを忘れて、あの瞬間はまっさらな状態というか、そこにあるジャズに向かって集中していった記憶があります。ショーアップしようとかではなく、純粋にそこにあるものに対して、どう作っていくかということに集中できていました。
振り返ると、もっと時間があったらさらに発展できたのかなと思います。今回は2曲だけでしたからね。もし1時間のショーだったら……ってことは想像しましたね。またチャンスがあったら、今度はガッツリやりたいです。

―ロバート・グラスパーはどんなところがすごかったですか?
石若:グラスパーは「ジャズのレジェンド」だなと思いました。それに、イメージしてたより弾きまくっていた印象でしたね。あと、自分が叩いたドラムに対して、一聴しただけでグラスパーだと分かるあの感じのフレーズでレスポンスが返ってきました。そういう瞬間に、彼のミュージシャンとしてのオープンな心だったり、人間的な深さだったりを、一緒に演奏することで間近で感じられました。実際に一緒に演奏しなきゃ分かんないことってやっぱりあるなと思いました。
あと、グラスパーはキーボードを弾いてましたけど、音色が本当に美しかったです。それに、その場のヴァイブを作る力が抜群で、いい空気や、いい雰囲気、いい音楽を作るために演奏しているんだな、と感じました。
