2025年9月18日、東京国際フォーラム・ホールAに国内外のアーティストが集結し、ジャンルを越えた化学反応を生んだイベント『Jazz Not Only Jazz II』。
その中心に立ち、セプテットを率いたのはドラマーの石若駿だ。松丸契、細井徳太郎、マーティ・ホロベック、渡辺翔太、西田修大、山田丈造といった異なる個性を持つプレイヤーを集め、ジャズとポップス、即興と歌心のあいだを行き来する音楽を鳴らした。
ゲストボーカルにはアイナ・ジ・エンド、岡村靖幸、KID FRESINO、中村佳穂、椎名林檎といった豪華な顔ぶれが並び、それぞれが石若のバンドに呼応しながら、それぞれの名曲と共に異なる物語を紡いだ。
最後には現代ジャズのレジェンド的存在ロバート・グラスパーと石若駿が共演。石若が高校生のころからその音楽に魅了され、影響を受けてきたグラスパーとの共演では、観客たちは息を飲むように見守り、熱気と静寂が同居する異様な雰囲気の中で、石若は伝説的と言ってもいいような演奏を聴かせた。
そんな『Jazz Not Only Jazz II』について石若駿に振り返ってもらうインタビューを行った。このイベントは11月16日(日)21:30よりWOWOWで放送、11月23日(日)16:00からはハイレゾ、ドルビーアトモスフォーマットを含む有料動画も配信されるので、その際のガイドとしても活用してほしい。
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ドラマー/打楽器奏者。Answer to Remember、CLNUP4、SMTK、Songbook Trioを率いる傍ら、椎名林檎、星野源、絢香らのライブ、作品に参加。東京藝術大学を首席卒業という経歴を持ち、ポップスからクラシックまで、その卓越したリズムでシーンを牽引する。
「匂い」のするメンバーが集結したセプテット
―まずは、改めて石若駿セプテットのメンバーについて。このメンバーにした意図を聞かせてもらえますか?
石若:今回のメンバーの核になっているのが、自分も所属しているSMTKというバンドです。松丸契(Sax)、マーティ・ホロベック(B)、細井徳太郎(G)と一緒に活動しているバンドなんですけど、マーティと僕はいわゆるリズム隊としてポップスに携わることが多いですが、徳太郎と契はポップシーンの中でもエクスペリメンタルでアヴァンギャルドな状態で活動していることが多いからこそ、このメンバーはどういうアプローチで音楽を作るかが予想できそうでできない。自分のコントロール外に常にある感じで、「なんじゃこりゃ!?」って思うものを提供してくれる人たちなんです。そこに可能性を感じました。



石若:彼らが核になりつつ、そこに加わるのが渡辺翔太(P)と西田修大(G)のふたりです。翔太くんとは、バンドのトリオでずっと一緒にジャズをやっていましたけど、最近はポップスのサポートでも一際、存在感のある演奏をしていますね。修大も、僕の「SONGBOOK PROJECT」に参加してくれていて、ポップスと自由な演奏の両方をやっている。そのバランスがすごく魅力的なんです。


石若:あと、山田丈造(Tp)は幼少の頃から一緒にジャズを始めた仲間です。サポートでの活動をしつつも、新宿PIT INNとかで板橋文夫さんのオーケストラや、渋谷毅オーケストラでも吹いていて、そういう「匂い」を持った人なんです。このメンバーは、普段僕らを追ってくれている人たちにとっても予想できないサウンドになるんじゃないかなと思って。それで今回はこのメンツで演奏することになりました。

―普段、ポップスのスタジオ仕事をしてないジャズの人と、ポップスの仕事をガッツリやってる人のコンビネーションですよね。
石若:分かりやすく言ったらそうなんですけど、その中でも特に「匂い」の強い人たちなのかなと思います。

―「匂い」?
石若:「匂い」っていうのは、ユニークなサウンドを一際を持っているようなイメージですね。
―こういう大舞台で手堅くやるっていうよりは、個性が強い人を集めたということですか?
石若:そうですね。
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「豪華ゲストが今回のアレンジをポジティブに捉えて、信頼してくれた」。
―実は攻めているバンドなんだということですね。次は豪華すぎる出演者について聞きたいです。まず、アイナ・ジ・エンドからお願いします。彼女は2年連続での出演ですよね。
石若:皆さん観ての通りだと思いますけど、彼女は会場ごと空気をわしづかみにして持っていくそのパワーがすごくて。この間、去年の『Jazz Not Only Jazz』でのライブも映画館で観ましたけど、なぜか涙が溢れてきました。そういうことって最近なかったなと思って。彼女は歳も近いし、歌声もすごく好きだから、今年も出演してくれて本当に嬉しかったです。
去年と同じく”私の真心”を演奏しましたが、去年とは違う感覚がありました。それは彼女の音楽的な成長だったり、音楽の表現の変化や、いろんな影響があると思いますけど、そういうのを感じられたのもよかったですね。

―アイナ・ジ・エンドのパートで、特に印象的だったメンバーはいますか?
石若:マーティのベースがよかったですね。”革命道中”の最初のベースイントロがかっこよかった。このイベントのためにリハをしていたときに、サウンドチェックでマーティが”革命道中”のイントロの部分をアルペジオで弾いていて。何気なく弾いていたと思うんですけど、実際に本番でもやってみたらすごくいいアレンジになりました。あと、翔太がところどころで差し込んでくる難解なボイシングも際立っていましたね。
―なるほど。次は岡村靖幸ですね。
石若:僕らの周りのスタッフやミュージシャンにも、岡村さんのことが好きな人が多くて、「岡村さんゲストでやるの!?」みたいな周りからの反響はすごかったです。最初に岡村さんと出会ったのは、アイナ・ジ・エンドのレコーディングだったんですけど、そのときは一緒に演奏できていなくて、今回やっと岡村さんと共演できたんですよ。
岡村さんは、ステージに立ったときの「バンドを担いでる」「引き連れていく」ような強さを感じました。まさに「バンドを鼓舞するレジェンド」みたいな感じですよね。

―特にベースを煽りまくっていたのは印象的でした。
石若:「ベース! ベース! 」って言ってましたもんね。ああいうの最近感じてなかったので、すごく嬉しかったです。自分はそういう煽られる瞬間が好きなんでしょうね。日野皓正さんと一緒に演奏するときも「うわー、ついていきます!」っていう気持ちになるんです。今回もお客さんがそれを感じ取ってくれただろうし、岡村さんのキャラも引き出せたのかなと思いました。岡村さんとはまた何かやりたいですね。
―岡村さんのステージでは、バンドで印象に残った演奏はありましたか?
石若:松丸契のサックスソロがよかったです。ファンキーなビートの上で契のサックスが炸裂する、ああいうシーンってこれまであまりなかったんじゃないですかね。

―よく共演している仲間って感じだと思いますけども、KID FRESINOについても聞かせてください。
石若:FRESINOはこの数年、ライブに対する向き合い方が変化してきているなと感じます。僕は彼のサポートをやっていて、たまにANSWER TO REMEMBERに来てラップしてくれたりもするけど、今回は彼の楽曲を中心に、彼の時間で演奏するという形でした。その中で、「背負ってるな」というのを強く感じました。ヒップポップの世界についていろいろ考えたうえでこの場に来て、一緒にやってくれてるんだろうなというのも一緒にやってて伝わってきましたし、すごく濃厚な時間でしたね。

―KID FRESINOが出る場面があると、スリリングな空気になって、バンドにもいい緊張感が生まれてましたよね。
石若:そうだと思います。
―中村佳穂はどうでしたか? こちらも「石若ファミリー」って感じがしますけど。
石若:佳穂、すごかったですね。佳穂は同い年なんですけど、10年前ぐらいに知り合ってからずっと刺激をもらっています。最近は世界中のミュージシャンと積極的にコラボしていると思うんですけど、そこで培ったものが今回特に感じられたと思います。どんどんオープンな音楽になっていて、こちらがやっていることに対する耳も変化しているのかなと感じましたね。

石若:彼女自身、どんどんストロングなミュージシャンになっているし、これから先どんな風になっちゃうんだろうとか考えたりしますね。ああいう人って他にいないですよね。世界中見ても唯一無二のアーティストだと思います。
―そして、近年一緒にやっている椎名林檎はどうでしたか?
石若:林檎さんのライブでサポートをすることになって3年目になります。普段の林檎さんのライブはショーアップされたステージなので、ジャズのバンドにゲストでパッと来て、何曲か演奏するというのは初めてでした。だからリハもちゃんとやったんですけど、やっぱり一緒に楽しめたことがすごく嬉しかったです。
普段はステージ上でも距離があって、離れた場所で演奏してて、林檎さんがあそこにいるなとか、こっちにいるなって感じですけど、今回はドラムを叩いている目の前に林檎さんがいて、たまにちらっと目が合ったりするので、一緒にやっているなっていうのが特に感じられました。
あと、この企画自体を林檎さんが面白がってくれてたのがすごく嬉しかったです。それに加えて、もう、音が良すぎて……いつもはイヤモニで歌声を聴いて演奏をしてますけど、今回は転がし(モニタースピーカー)から聴こえる林檎さんの声が圧倒的すぎました。後で本人にLINEしちゃったんですけど、それくらいすごかったなと。

―椎名林檎のパートで印象的な部分はありますか?
石若:東京事変の”能動的3分間”を、僕らなりのアレンジにしてみたんです。ああいうビートとサウンドの中で林檎さんが歌うっていうのをずっとやってみたいなと思っていたんです。だから、今回それが実現できて良かったし、もっと詰めたらもっと面白いことになるかなとか、次なる可能性も感じましたね。

石若:岡村さんもそうですけど、林檎さんも僕らの演奏やアレンジをポジティブに捉えてくれたなと思います。「ここはこうです」「ここはこうしますね」って僕らが提案したことに対して、すごく信頼してくれたのを感じました。