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焦っていた20代を経て。立ち止まって考えたことで、自分のペースがようやく見えてきた
―1曲目の“生活の報告”は、暖かい春の日のような曲だと思いました。<眠れなくないけどさ / 眠りたくないよな / 眠れない日には / 眠りたいのにな>という感情は、生活が落ち着いて裁量が多い人の言葉だと感じました。明日の入社式に間に合うように早く寝て出社しないといけない新社会人の言葉ではないはず。当初は極めて個人的に制作していたものが他人にも伝わる可能性があると思ったとのことですが、そう感じたきっかけを教えてください。
橋本:この曲は自分にとってすごくセラピーのようで、作る過程そのものが向き合う作業だったんです。今の時代誰にだってありえる話だとは思うんですけど、自分自身もメンタルヘルス的な問題とか、ADHD的な気質とかが合わさっていて、幼少期の家庭環境で形成されたものも重なっているんです。
そういう背景が音楽に向かってきた理由でもあるんですが、遠回りの多い人生の一因でもあるのかなと感じていて。30代に入ってから、そうした自分の内側を少しずつ紐解いて、受け入れるという作業を意識的にするようになりました。

橋本:この曲は、歌詞にも丁寧に向き合えたし、「自分を受け入れる」ための一歩になったけど、同じような感覚を抱えている人がいたら、きっとどこかで共鳴できる部分があるんじゃないかなと。全く環境の違う人でも、それぞれの生活と重ねて感じ取れるものがあればいいなって思います。
―気づきをもたらす出来事があったとかではないんですね。
橋本:そうなんです。そこをちゃんと自分で紐解かないと、次に進めないような感覚がすごくあったから。自分の中で少しずつ気づいていったことを形にした曲ですね。
―今作は、東京という忙しない街でだらしのない日を過ごしてしまった自分を肯定している作品だと思いました。上京組は「東京で成し遂げたい」気持ちから、上京したての頃は目に入る人全てが敵と感じることや、立ち止まっている時間がもったいないと感じてしまう期間もあると思います。僕自身もそうでした。「自分のペース」を認められるようになったのは、知り合いが増えたり、誇れることが増えてきたごく最近ですが、橋本さんにも殺気だったフェーズはありましたか?
橋本:めちゃめちゃありましたね。若い頃は本当にいろんなことに対して燃えちゃってたというか、気になりすぎてしまうタイプで。だから当時のメンバーにも、自覚はなくても、理不尽なことを言って、傷つけたことはあったはず。今はだいぶ丸くなったかもしれないけど、20代のうちは特に表に出ている姿と内側で渦巻いているものにギャップがあるというか、ずっと衝動を抱えて生きてきた感じがあります。

―僕は、就活のタイミングで海外留学したことで、一般的な考え方に従わなくても自分の正解は導き出せると気づいた部分があるのですが、橋本さんも海外でのツアーや公演を経験したのも大きいんじゃないですか?
橋本:間違いなくありますね。タイのライブで初めて観てくれたお客さんが本当に熱狂してくれて。ライブ後に会場を歩いていたら、「初めて観たけどめっちゃ良かった!」って興奮しながら握手を求めてくれたんです。文化も距離もまったく違う場所で、自分の生活圏から生まれた音楽が届くっていうのは大きな意味があるし、「ああ、大丈夫だな」って素直に思えた瞬間でもありました。
だから、海外に行くとか大げさなことじゃなくても、もし今の環境で行き詰まりを感じていたら、知らない場所に一度出てみるのはすごく大事だと思います。視点を変えるだけで見えるものが全然違うし、もっと身近なところでも刺激はあるんじゃないかな。