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音楽なら、文化の違い、言葉の壁、憎しみすらも越えていける
─最新作『it’s like I never left』(2025年)は、「最初からここにいたみたいだ」という不思議なタイトルですが、制作時にガーナを旅したことがインスピレーションとなっているそうですね。
ネクター:そう。父と一緒に行ったガーナへの旅は、ミックスルーツである私にとって特別な経験でした。
ミックスルーツは2つのアイデンティティーの間で揺れざるを得なくて、私の場合はガーナとイギリス、そのどちらにも属せないという思いがかなりあって。でもガーナに行ったら、すぐに受け入れてもらえた気がしたんです。安心というか、ほっとした気持ちになりました。
─文化の違い、言語の壁といったものを感じることはありませんでしたか?
ネクター:もちろん不安もありました。ガーナはミックスルーツの人が特別に多い国というわけでもないけど、バリアを感じる場面は特になかったです。ガーナには父の家族や友人もいるし、英語が通じる人が多かったのも理由かも。それにもともと、私の家にはガーナの文化が息づいていたから。
─昨日のライブで、日本語でアナウンスをしていたのが印象的でした。外国で言葉が通じない状況でも、伝えようという気持ちがあれば、伝わるものはあると思いますか?
ネクター:私はそう確信しています。100%あると思う。音楽は言語の壁を乗り越えられるものだと思うし。音楽はフィーリングだから。言葉が通じなくても、フィーリングは掴むことはできると思うんです。
1週間くらい日本に滞在しているけど、日本の方は本当に音楽の趣味がいいと感じます。昨日のライブでも思ったんですが、日本のお客さんは注意深く音楽を聴いてくれるんです。
ロンドンでライブをすると、お客さんが言葉が理解できるから音楽に対して怠慢な姿勢を感じる場面も多くて。聴き流しているというか、音楽に対して深く感謝している感じではないというか……だから昨日のライブのように、ちゃんと音楽を聴いてくれるのはとても嬉しい。言葉がわからないからこそ、音楽にちゃんと耳を傾けてくれているってことがよく伝わりました。
─世の中のことに目を向けると、近年日本では排外主義的な気運が高まっていて危険な傾向にあります。UK、あるいはロンドンではどうでしょうか?
ネクター:ロンドンも似たような状況ではあると思う。とにかく憎しみを広げてしまう人がたくさんいて、でも、もう既に世の中はヘイトでいっぱいですよね。これ以上、憎しみを拡げている場合ではないと思う。分断を乗り越え、誰もがお互いに寄り添い、安心できる世界を目指すべきだと私は思うんです。
