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大災害への向き合い方の違いに表出した、夫婦関係の波紋
―小村という人物の「からっぽ」というキーワードを、岡田さんはどのように捉えられていましたか? 嫌な夫というわけではないけれど、どこか妻のことを見ていないという感じがありました。
岡田:小村が妻の未名のことを、ちゃんと見ていなかったっていうのはその通りなんです。
どうしたって人間だから、妻と会話してるけどしていないような、そういう時間もあるんじゃないかなって。だから未名からもらう手紙に関しても、僕が読むのか、途中まで僕が読んで未名がその後読むのか、すべて未名が読むのかーーそれだけでも、感じ方も喪失感も違うなと思いました。未名っていうのは小村にとってなんなんだろうと、不思議な感覚で演じていました。そんな風に演じていたら、「未名って実はいないんじゃないか、小村にだけ見えている何かなんじゃないか」と捉えられる瞬間もあって、面白い台本でしたね。

夫婦である2人だが、会話がほぼない。

―この映画は阪神・淡路大震災を題材に取り上げていて、地震に対して登場人物のそれぞれが間接的にしろ、直接的にしろ影響を受けていく様子が描かれていましたね。未名がテレビで被災者の名前の報道を自分のことのように見入っている一方で、小村はどこかそれを単なる文字列としてしか見ていないところが、地震に対しての、思いの違いが出ているなと思いました。
井上:大きなことが起きたときって、そこまで自分のこととして引き寄せられないことがあると思うんですね。阪神・淡路大震災の被災地の様子がテレビで報道されていたときの小村のあの様子は、たとえば被災地から離れた場所にいた誰かの日常かもしれないし、でも小村がまったく震災のことを気にしていないわけではなくて、ずっとざらざらっとした感覚を持っていたんじゃないかと思います。
岡田:そういうお話は撮影現場でもしていたんですよ。被災地の様子をテレビで見ている人の受け取り方はそれぞれ違うだろうし、もし、そこに見入っていない人がいたとしたら、無関心なわけではなく、なんとか日常を取り戻したいと考えている部分もあったのではないかと思うんです。
井上:この映画って、地震から始まりますし、その源は地下にあるわけです。小村って、震災の後にすぐに地下鉄に乗って通勤しているわけで、「不思議なことをしているな」と思ったりもしたんです。でも、岡田さんがおっしゃったように、それが日常を生きているということでもあるんですよね。
岡田:地下鉄サリン事件のニュース映像を監督に見せてもらったんですけど、一方では出口に向かって恐怖で急いでいる人もいれば、他方では別の出口を通って何も感じていないような表情で会社に急いでいる人もいて、それを見てドキっとしてしまって。
井上:状況をシャットアウトしないと、生きていけないということもあるからなんでしょうね。
