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利己ではなく利他の精神を。「一生をかけて捧げる愛情」が示す価値観
ーそういった「古き良き価値観」を見直そうとすると、煙たがられる風潮もありますよね。
ピエール瀧:「かっこ悪い」とかね。でも、若い人の中にもそれは埋まってると思うんですよ。ただ、それを掘り起こしづらい社会情勢にはなってるなと。数字だったりいろんなものが、その人が本来持っている気持ちを上から塗り固めていると思うから。この映画を観ることによって、それをちょっと洗い流せたら芽吹くものもあるんじゃないのって思いますね。

小林:さりげない、なんでもない日常がとっても幸せなことなんだよというのを、みんな感じにくくなってますよね。毎年、旅行で行く場所があるんですけど、そこで暮らす人たちはお金持ちだったり、いろんなものがあるわけじゃないんだけど、畑やったり魚獲ったりして、楽しそうで。いつも笑ってるし、すごく豊かさがある。それに比べると、僕らは生きる上で実感を伴うようなことが欠乏しているのかもしれないと思うんですよ。
ーそれは、具体的にどういうことでしょうか。
小林:例えばお金がいくら儲かったってさ、数字じゃないですか。それで何かを持っている気持ちにはなるけど、幸せかと言ったら、全然幸せじゃなかったりする。ダイヤモンドをもらったとか、アパート一軒もらっちゃったとかいうようなものでは比べられない、何か秘めた想いをずっと抱いているときの幸せってあるじゃないですか。こういう世界観もあるんだって思えるものが、この作品で、アニメで提示できるだけでも、豊かになるんじゃないかなと思いますね。

ー言葉では説明できない感情は、細部まで作り込めるアニメだからこそ伝えられるのかもしれません。作中では、ホウセンカが枯れてもなお種として記憶を継承しますが、お二人はご自身の仕事が次の世代に何かを残す、ということを意識されることはありますか?
ピエール瀧:僕は受け継がれる意識みたいなものは全くないですし、逆に「これは次世代に受け継がれるべきだ」と思ってるやつの音楽なんか「めんどくせーな」って思うから聴きたくない(笑)。ただ、小林さんがおっしゃった「無償の愛」で言うと、やっぱり自分の人生をどこまで他人のために使えるかというのが愛情だと思うんですよね。子どもを送り迎えするのも、自分の有限な人生を使うわけじゃないですか。それができるのは、子どもに愛情があるからだし。今は、自分の時間を自分のために使うのがいいことになってる気がするんですよね。でもそればっかりじゃないと思うんで。自分の家族や好きな人だけじゃなくて、周りの人にも時間を使えればもっといいし、そういう感覚が結果的に伝わればいいなと思いますね。

小林:僕にもその意識は全くありません。ただ、自分の意図とは別に、結果としてそうなっていることはあるかもしれない。僕も当然、前の世代から影響を受けていますが、それを意図して誰かに受け渡そうとは思わないですね。それでも、無意識に何かが伝わっていくことはあると思います。例えば、今ではあまり顧みられなくなった、人に対する思い入れとか、命を大切に想う優しさ。さっきピエールくんが言ったような、ちょっとしたことを幸せに感じる心。そういったものは、自然と受け継がれていくんだと思います。受け止め方は人それぞれですから、偉そうに「これを残すべきだ」なんてことは言えないですけど、波のように何かが伝わっていくことはあるだろうし、そうなってくれることを願いますね。

『ホウセンカ』

10/10(⾦) 新宿バルト 9 ほか全国ロードショー
キャスト:⼩林 薫 ⼾塚純貴 満島ひかり 宮崎美⼦
安元洋貴 ⻫藤壮⾺ 村⽥秀亮(とろサーモン) 中⼭功太
ピエール瀧
監督・キャラクターデザイン:⽊下⻨ 原作・脚本:此元和津也 企画・制作:CLAP
⾳楽:cero / 髙城晶平 荒内佑 橋本翼
演出:⽊下⻨ 原⽥奈奈 コンセプトアート︓ミチノク峠
レイアウト作画監督:寺英⼆ 作画監督:細越裕治 三好和也 島村秀⼀
⾊彩設計:のぼりはるこ 美術監督:佐藤歩 撮影監督:星名⼯ 本䑓貴宏
編集:後⽥良樹 ⾳響演出:笠松広司 録⾳演出:清⽔洋史
制作プロデューサー:伊藤絹恵 松尾亮⼀郎
宣伝:ミラクルヴォイス 配給:ポニーキャニオン 製作:ホウセンカ製作委員会
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