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イギリスと日本、鑑賞サポート導入状況の差に思うこと
―舞台芸術の実情はもちろん、日本の文化や芸術全般において喫緊の問題であることが伝わってくるお話でした。海外における鑑賞サポートの状況もお聞きできたらと思います。
小沢:ロンドン公演でまず驚いたのは、鑑賞サポート自体が劇場公演の1つのルールになっていたことでした。舞台手話通訳もあれば、字幕もあり、リラックスパフォーマンス(※)という選択肢もあって、団体側が作品に応じて方法を選ぶ形だったんですよね。そうした環境が一つのフォーマットとして整っている状態にまず感動をしました。さらに驚いたのは、舞台手話通訳のリハがなく、僕から細かくお伝えしなくても事前の打ち合わせのみで対応をして下さったこと。そのくらいの場数をすでに踏んでいること、ロンドンではそれが当たり前になっているということを痛感する瞬間でした。
※発達障害や自閉症など、劇場での鑑賞に不安のある人も一緒に公演を楽しめる公演。イギリスでいち早く取り入れられ、ヨーロッパから各国に広まっている公演形態。
板橋:1年間で1000本近くの舞台手話通訳付きの公演が上演されているので、経験値が全然違うんですよね。あとはやはり制度の違い。日本はようやく動き始めたような感じですが、ヨーロッパ、特にイギリスはだいぶ進んでいる。そういう意味でも日本はこれからだと思いますし、田中さんも多くの作品を通じて場を拓いて下さっているので、それが当たり前になっていけばいいですよね。

田中:私もイギリスで現地の通訳者の方とお話した時にも「30年くらいの差があるかもしれない」とサラッと言われて……。でも、それを聞いた時に妙に腑に落ちたんです。30年の差をすぐ埋められるとはもちろん思っていないし、すぐに埋めたところできっといい形にはならないんじゃないかなって。今の日本は焦らず、みんなでより良い形を丁寧に探っていく段階なのかなって思うんですよね。だから、30年の差には焦っているけれど、今やるべきことに対しては焦ってはいけないなって思いました。