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世界最高峰のサウンドシステムに身を委ねる
そんな今年の『Analog Market 2025』を象徴する試みが、Audio-TechnicaとアメリカのOMA(Oswalds Mill Audio)によるコラボレーション企画「Deep Listening」だ。

OMAは、アメリカ・ペンシルバニア州にある築250年の石造りの製粉所を拠点とし、1930年代の映画館用スピーカーや真空管アンプを現代に蘇らせる、クラフトマンシップの粋を集めたオーディオブランド。今回の協業は、日本伝統の木工技術や和紙を取り入れ、日本人の生き方や美意識からも深い影響を受けたOMAの創始者ジョナサン・ワイスが、Audio-Technicaの創業60周年記念カートリッジ「AT-MC2022」に感銘を受けたことをきっかけに実現した。

本企画で披露されるのは、OMAのプロフェッショナルライン「PROMA」のコンサートホール仕様のスピーカーであり、今回が日本初上陸となる「Scottsdale」と、Audio-Technicaのハイエンドなカートリッジを組み合わせた、世界最高峰のサウンドシステム。来場者は椅子ではなく床に座り、音に身を委ねるようにセレクターの選曲を体感する。

たとえば、「テープで聴く日本の環境音楽」と題した尾島由郎のセッションでは、世界からも注目を集める日本の環境音楽を、尾島が「最も適したメディア」と考えるカセットテープでセレクト。自身の活動にも触れながら、ハイエンドオーディオを通じて再生されるサウンドは、単なるBGMではなく「場」を構築する力を帯び、会場全体をひとつの体験装置へと変容させるだろう。一方、文筆家や選曲家、プロデューサーとして活躍する原雅明は、「日本のFREE JAZZ」をテーマに自身の貴重なアナログ音源を披露する。


そのほかにも、シンガーソングライターの優河が、自身の視点でこれまでに影響を受けた名盤を一枚ずつ紹介するリスニングプログラムや、Boredomsの∈Y∋による、音の強度と深く響き合う没入型のセレクションも予定。五感を通じて「聴くこと」の原点を問い直す、多彩なラインナップが揃う。


また、トーク&ライブに出演する石田多朗は、本年度グラミー賞の最優秀映像作品スコア・サウンドトラック賞にノミネートされた映画『SHOGUN』のサウンドトラックで、ロサンゼルスの作曲家チームにアレンジャーとしても参加した音楽家。本イベントでは「Animistic Music | Gagaku Electronics」と題し、『SHOGUN』でもフィーチャーされた日本の古典音楽である雅楽の演奏と、音響エンジニアの小俣佳久によるダブミックスを駆使した新たな音楽パフォーマンスを披露し、音楽と文化、技術が交わる知的で感覚的な時間を提供する。

こうしたラインナップを通じて感じるのは、Audio-Technicaが「アナログ」をレコード文化の復権としてだけではなく、「人間の感性と向き合う方法」として捉えていることだ。テクノロジーの進化にともない、私たちの生活は便利になった一方で、「わざわざ聴く」「丁寧に選ぶ」「手を動かす」といった身体性のある行為は日常から遠ざかりつつある。そんな今だからこそ、手触りのある体験が必要なのだというメッセージが、本企画の隅々から感じられる。