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藤枝市に見る、ゼロからでも掘り起こせる地域のルーツ
続いて、トークセッションが終わった4人に取材を敢行。これからの公共施設における目的や、民間と行政の協力の形、地域との繋がりの持ち方について、より深く語ってもらった。
―トークセッションお疲れさまでした。それでは出口さんから、イベントを開催するに至った経緯をお話いただけますか。
出口:トークセッション『あたらしいハコモノのカタチ』は、毎回さまざまな方をお招きしていて、今回で5回目の開催となります。なぜこのイベントを行っているかと言うと、私たち公共施設の中の人間はつい「ハコがあって当たり前」と思いがちで、そもそもの設置目的を見失いがちなんですね。だからこそ定期的に外から人を招き「このハコって何のためにあるんだっけ?」と考える機会が必要だと思っています。

―実際にトークをされてみて、みなさんどうでしたか?
柳樂:僕は今日、後藤さんたちの話を聞いて、本当に大変そうだなと思って。というのもトークショーでも話に出たパリの「FGOバーバラ」(※)なんかは、すぐ近くにもともとレコードショップやライブハウスがあって、ある程度文化的なコミュニティが形成されている地域に、音楽でさらに活性化させようと建てられた公共施設なんですね。一方で後藤さんたちは、そういった素地のない地域で0から始めようとしている。これはすごいことですよ。
※パリの西側、18区にある公共施設。治安が決して良いとは言えない地域で、音楽教育を通じて子どもたちの健全な育成を支援している。
後藤:それが案外、ゼロベースでもないんです。何度も藤枝に通ってまち歩きをしてみると、例えば、商店街の端っこに楽器屋があって、そこにいくつか練習スタジオがあったりして、意外と音楽との繋がりが見えてくるんです。それに、僕たちのスタジオがある旧東海道の宿場町では、江戸時代から続いている『藤枝大祭り』があるんです。実はそのお祭りは長唄のお祭りで。藤枝市はその祭りに毎年出演料を支払って、唄方や三味線方を呼んでいる。なんだ藤枝って、昔から音楽支援しているまちだったんだって思いました。

小林:まちの歴史を調べていくと、思わぬ縁にも出会います。たとえば、僕たちに場所を貸してくれている江崎さんは、もともと映画館経営者で、弟さんは音楽プロデューサー。そんな話を聞くと、不思議な縁に導かれている気すらして。

柳樂:そういえば、長崎出身のドラマーで、バンドのceroでもドラムを叩いている光永渉さんも、幼い頃『長崎くんち』(※)のお囃子で叩いた大太鼓が原体験にあると聞くし。まちの歴史を掘り起こしていくと、どんなまちにも音楽的なものが転がっているのかもしれませんね。
※長崎市にある諏訪神社の秋季大祭